第36話 腹痛


龍の勝ち?




「うっ」


 鈍い痛みとともに目を覚ました。

 腹痛だ。原因はわかってる。



 先日、

 後輩からは虚無の波動を。

 さくらさんからは産地直送直接攻撃ダイレクトアタックを受け、散々な目にあった。


 次の日やっとの思いで病院に辿り着いたが、医者の一言がやけに心に残っている。


『ーーーーーー生きろ』


 むしろこれだけしか言われなかった。

 診察時間わずか8秒。


 お腹の薬がちゃんと出されていたので、ヤブ医者ではないようだが。



 とにかく、この腹痛がおさまらないと仕事なんてできない。今日は会社を休んで療養だ。


 後輩から謝罪の連絡がすごいが、気にしなくて良いと伝えた。


 ……あれは不幸な出来事だったのです。




 ん…………お腹に違和感が。


 ペラッ


 シャツをめくってお腹を見てみた。



 あぁ、またか…。



 さくらさんは、お腹を壊してる時は温めた方が良いって思っているのか、俺が寝てる間に何故か温感湿布を貼ってくる。


 暖かいのかスースーするのかよくわからない。

 ただお腹には良くないだろうってことはわかる。



 はぁ。いつ治るのだろか…。




ーーーーーーーーー





 彼、まだ辛そうね…。


 今日の夜は2枚貼ってみようかしら。


「痛みを和らげ、ポカポカ」なんて、腹痛のために作られたに違いないわ。考えた人は天才ね。



 コトコト。チーンッ。


 弱った旦那さんには、妻の手料理が何よりの薬。

 それは万国共通である。



 よし!

 今日の朝ごはんは、お腹に優しいお粥とお腹に優しそうなホットカルピスで完璧ね。


 デザートにヨーグルトもつけてあげましょう。



 早く治してもらわないとね。


 せっかく秋の味覚で美味しいものをいっぱい買ったんだから、食べさせてあげたいわ。

 栗でしょ。松茸でしょ。柿でしょ。さん……サバでしょ。

 松茸とサバのお吸い物とか、お店では大人気なんだから。



カチャカチャ。


 さくらさんが朝食を用意している横に1つの鍋がある。

 そう…あれだ。彼の看病に忙しくて、まだ捨てられていなかった。




 まったくあの小娘、なんて物を彼に食べさせたのだろう。


 お鍋の中はこんなに美味しそうなポトフみたいに見えるのに、お皿に入れた瞬間に無になるなんて、どんな魔法よ。


 私のサバがなかったら、彼はいったいどうなってたことか。

 きっとお腹を壊すくらいじゃ済まなかったわ。


 だけど、あんな得体の知れないものを口にするなんて、本当に彼は優しくていい男ね。


 私のサバは泣いて喜んで食べてくれたし、わかりきっていたけど、あの勝負……私の勝ちね!




龍の勝ち?

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