第25話 嵐



嵐の前の嵐。





お昼休み。


今日は課長はいない。

あ、ついこの前、いつもニヤついていて頼れる先輩は課長に昇進した。

(後輩が自分を先輩と呼ぶので、先輩の区別がつきにくいからとか、そんな理由ではない)





ダダダダッ!


「先輩、せんぱーい!聞いてくださいよ!ヤバイんですよ!」



血走った目で後輩が駆け寄ってくる。

同時に他の男性社員の血走った目が駆け寄ってくる。


「本当にヤバいんですって」


おう。ヤバイな。俺が。



「実は私、料理教室に通ってるんですよ!!この前も行ってきたんですけど…」



なるほど。


「料理教室か。だから、お弁当があんなに美味しかったんだな。」





「……………あふんっ///」


「そうなんですよ…先輩に美味しいお弁当食べてほしくて…………じゃなくてっっ!!」



忙しいやつだな。



「カワウソです!KA・WA・U・SO!」


「カワウソがすごいんですベリーキュートなんですもうモフモフしてて神の造形美の域に達しててぬいぐるみがモフモフしててゲーセンの景品でモフモフしてそれからモフモフでとにかくモフモフしてて……」



グイグイくるな。

なんだこいつは。さっきから意味のわからないことを…。

商店街からの回し者か?



「落ち着け!せっかくの可愛い顔が台無しだ。周りのやつらも引いてるじゃないか」




「……可愛い?……先輩が可愛いって……あふんっ///」



「「「「ギロリッ」」」」


あふんっ

ヤバイ!殺意が突き刺さる!




「ありがとうございます…でも…可愛く思われたいのは…先輩だけで……………じゃなくてっっ!!」



「お願いだ。話を進めてくれ。このままだと命が危ない」



「??……はい。信じられないかも知れないですけど、カワウソが先生で来たんです。料理を教えに」


「料理の腕も良いし、それにすごい達筆だし…」



まさか…。そんなハイスペックは1匹しか…。



「……さくらさん……」



「えっ!!!知ってるんですか!?何で知ってるんですか!?」



何でって言われてもねぇ…


「うちに住んでる」



「はい?」



「だから、うちに居るカワウソ」

「お弁当。魚肉ソーセージのやつ。作ってくれてる」



「えっ?」



「だから、これ!!」


料理を作ってるさくらさんの写真を見せた。

カメラを恥ずかしがるので隠し撮りしたものだ。



「あっ、さくら先生だ」



わかってもらえたか。



「…………」



どうした?



「先輩…」



なんだ?



「先輩の家に行っても良いですか!!!?」



「「「「ガタッ!!」」」」


やめろ亡者ども!立ち上がるな!今日は僧侶課長はいないんだ!



「お泊まりでも良いんで!!!!」


お前!わざとだろ!



「「「「チャキッ」」」」


そのナイフはハンバーグを切るためのものだ。

俺をハンバーグにするためのものではない。



「お願いします!!!」



……勘弁してくれ。





嵐の前の嵐。

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