第26話 ハッピーハロウィン①
トリックオアトリート。
10月31日 ハロウィン。
仕事から帰ってきた俺を待ち受けていたのは、予想を遥かに超えた光景だった。
ハロウィンというイベント。
当然、さくらさんのハイクオリティな仮装を見ることになると思っていた。
だがこれは…ハイクオリティなんて言葉で片付けてはいけない。
本物の中の本物。キングオブリアル。誰がどう見ても疑うことすらできない真実。
暗い部屋。いつもは暖かい料理やお風呂が迎えてくれるのに、今日は何もない。
冷たく静かな雰囲気に、住み慣れた我が家だというのに、恐怖すら感じる。
そんな闇の世界に奴はいた…。
「カリッ…カリッ…バキッ…ガリ…」
何か硬いもの噛み砕く音がする。
「ピチャッ…ピチャッ」
水が跳ねる音がする。
一心不乱に、使われたことのない餌箱からドライフードを貪り喰らい、水を啜るその姿……まさに獣!!
料理をするわけでもなく、マッサージをしてくるでもなく、ただ自由に部屋を這いずり回るその姿……まさにカワウソ!!!!
クソッ!
なんでこんな所にカワウソが!!
落ち着くんだ、俺。ここで慌ててはさくらさんの思うつぼだ。
「さ…さくらさん?」
「…………」
返事がない。ただのカワウソのようだ。
ゾクリッ
俺は、家の中で生まれて初めて見るただのカワウソに、心の底から震えあがった。
な、なんてことだ。
まさかさくらさんの仮装が、ただのカワウソだなんて……。
ちくしょう!誰がこんなの想像できるっていうんだ!
非の打ちどころのない完璧な仮装……もはや本物と言っても過言ではない。
持てる全てのポテンシャルを活かした真実の仮装!!
これがさくらさんの本気……。
本気の手抜き!!
しかし、こんな所で足踏みしている暇はない。
俺たちのハロウィンは、まだ始まったばかりなんだ。
「さくらさん、商店街でハロウィンパーティーやってるらしいけど行く?」
ピクッ!!
「キュー!!!」
そう言ってさくらさんは、寝室のほうへと消えていった。
ガタガタッ。パタン!ペタペタ。
どうやら新しい仮装をしているらしい。
楽しみだ。
トリックオアトリート。
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