第13話 死闘
負けられない闘いがある。
家に帰るとゲームが置いてあった。
さくらさんが商店街の福引で当てたらしい。
福引を引くカワウソ。奇妙な光景である。
しかし、カワウソが買い物に来てるのに、お店の人達は、どうして平然と受け入れられるのだろう。
俺なんかカワウソのエプロンを買うだけで、頭のおかしい奴だと思われたのに…。
まぁ、気にしても仕方ないか。
明日は休みなので、さくらさんと一緒にゲームをしよう。
翌日。
目の前に並ぶゲームは3本。
それぞれ格闘、クイズ、レースゲームとなっている。
クイズはこの前、さくらさんの実力を目の当たりにしているのでやめておこう。
負ける勝負はしないのさ。
となると、格闘かレースか……。
どちらにせよ、このハイスペックカワウソは、想像を絶するテクニックだろう。
ならば、少しでも勝率を上げるためには、俺が得意な格闘ゲームしかない!!!!
卑怯とは言うまい。
高校の時に、『学年一の弱連打』と呼ばれた腕前を見せてやるぜ。
心の中で意気込みながら、さくらさんを見ると…
!!!!
なん…だと…?
こいつ、一体どこから用意したのか、アーケードコントローラーを装備してやがる…
くっ、ガチ勢だったか!!マズい!!
だが、負けられるか!
敵が強大であればあるほど燃えるのが男というものだ!!
「さくら。いくぞっ!!」
「キュイッ!!!!」
……
……………
……………………
「シャーッ!キィーッ!」
普段からは想像もつかないような声を出しながら、一心不乱に攻撃を仕掛けてくるさくらさん。
ゲームをしながら振っている尻尾の残像が般若の面に見える。
これがあの優しいさくらさんだなんて!
鋭い爪と牙を剥き出しにして唸る姿は、まさに野獣!!!
……
…………
まさか、ここまでだとは思わなかった。
俺も少しは腕に覚えがあったが、全く手も足も出ないとは。
せめて1勝くらいはどうにかならなかったのか…。
完敗だよ。さくらさん。
弱すぎるよ…さくらさん…。
そう。さくらさんは恐ろしく弱かった。
ゲームをする姿だけは歴戦の猛者を思わせる風格だが、さくらさんを倒すのは、赤児の手をひねるよりも簡単だった。
「フーッ。フーッ。」
さくらさんが燃え尽きている。
どことなく満足そうな顔つきなんで、楽しかったんだと思われる。
俺も楽しかったし、とても充実した休日だ。
最後に少しだけレースゲームやろうと言うと
「キュイッ」
まったく…燃え尽きているのに元気な返事だ。
ゲームがよほど楽しいんだろうな。
このとき俺は気づいていなかった。
さくらさんが獲物を見つけたかのように、ニタリと笑っていたのを…。
負けられない闘いがある。
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