第10話 エプロン①

俺は何か間違っているのか?




毎日ご飯を作ってくれるさくらさん。


たまに跳ね返りの油で熱そうにしているところを見かける。

きっと普段から困っているに違いない。



これはエプロンとかを買ってあげた方が良いかもしれないな。




いい機会だし、先輩に相談してみよう。



仕事の昼休み。


「最近、カワウソと住み始めました。」


「エプロンを買ってあげようと思うんですが、どんなのが良いと思います?」


「先輩の奥さんはどんなの使ってます?」



先輩が固まっている。頼りになる先輩にしては珍しい。

そして…


「は?」



「え?」




「えーっと……、カワウソのくだりはよく分からないけど、いつもお弁当作ってくれてる彼女にプレゼントか?」


彼女などいないので首を横に振る。


「カワウソに着せようと思って」


…………。


………………………。



お昼の時間で賑わっている社員食堂にいるはずなのに、まるでこの世の終わりのような空気を感じるのは何故だろう。

変なこと言ったかな?



先輩が可哀想なものを見る目で見つめてくる。


「今日は早退して良いぞ。部長には俺から伝えとく。」


「何か辛いことがあるなら、いくらでも相談にのるからな。女なんていっぱいいる。振られたからって、ヤケになって変なことはするなよ。」




なにやら勘違いをされたみたいだ。


後輩にでも相談してみるか?

そういえばけっこう前に、良いものをプレゼントしましょうって言われたけど、結局あれは何だったんだ?

今度聞いてみようか。


しかし、流石は社内で大人気の彼女だ。

チラッと見てみると、今日も癒し系の笑顔で男に囲まれていて、割り込めそうな感じではない。


あ、目があった。


後輩が少し顔を赤くして、こっちに来ようとしていたが、周りの男性社員からの殺意の波動が凄かったので、慌てて来なくて平気だと伝える。


後輩は悲しそうな顔していたが、またねと手を振ると笑顔で振り返してくれた。


後輩の指には絆創膏が何枚も貼ってあった。

けっこう前から、指に怪我してることが増えたな。

何か習い事でも始めたのかな。






さて、

先輩のせいで早退することになったので、せっかくだから、帰りに少し遠回りしてショッピングモールに寄っていこう。


そこなら、さくらさんのエプロンも良いものが見つかるだろう。

何か分からないことがあれば店員に相談すれば良いか。





しかし、さっきの先輩のあの反応。


俺は何か間違っているのか?

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