第3話 命名

「さくら」


 カワウソの名前は「さくら」に決まりました。




 いきなりやって来て、達筆な字で「住む」と、固い意志表示をしたこのカワウソ。

 どうやらメスだったようだ。


 あんな達筆な字で、定住を訴えかけられたら認めない訳にはいかない。

 幸い、俺が住んでるマンションはペット可なので、飼うのは問題ないはず。


 カワウソの飼い方など知らないが、とりあえずオスかメスかだけでも調べようと思い、満足気にくつろいでいるカワウソを仰向けにしてみると……



 恥じらう。

 めちゃくちゃ恥じらう。

 とてつもなく恥じらう。


 絶対に足は開こうとしないし、覗こうとすると尻尾で俺の目を塞いでくる。


 仕方ないので、物は試しにオスかメスか聞いてみると…


「えー……オスか?それともメス?」



 また、やけに達筆な字で「雌」と返された。





 床に——油性ペンで。もう床は諦めよう。あいつは助からん。



 ………そうだ、名前をつけないと。



「あきこ」


 返事がない。ただの屍のようだ。


「ベティ」


 油性ペンで床に大きく「×」と書かれている。

 達筆だ。


「花子」


 油性ペンで床にさらに大きく「×」と書かれている。

 達筆だ。



 ふむ……お気に召さないか。

 どうするか……


 ん?


 カワウソの顔をよく見ると、右目の下あたりが、桜の花びらを貼ったみたいな形に毛の色が分かれている。





「さくら」


 油性ペンで床に一番大きく「○」と書かれている。

 達筆だ。




「さくら」


 カワウソの名前は「さくら」に決まりました。

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