教室に潜む悪魔

住原葉四

教室に潜む悪魔






嘉島かしま奈那ななは悪魔である。彼女が僕を殺した」

 教室が騒めく。皆、私の方を見る。それは丸で演劇のようで、壇上で幾らか経験をしていたから、慣れているかとも思ったがそうはいかず。矢張やはりこう云う雰囲気は、如何も、慣れない。

 唖々倒れそうだ。私が何をしたって云うのだろうか。その張り紙に何の意味があるのだろうか。今ここで声を大にして叫びたい。私は無実だ。冤罪だ。何も遣っていないのだと。息が詰まりそうだ。この空気は、私には合わない。逃げ出したい。でもそれを私以外を除いた人たちが許さない。

 怒号が聞こえる。罵る声が聞こえる。耳語じごが聞こえる。無関心で本を読んでいる人がいる。何と説明すれば良いのだろう、この空気を。重たい空気が張り詰めた様な、そして私を縛りつける様な、眼線が私に集中して、赤面症の人は嫌な経験をしたことがある様な、兎に角そう云う空気。この空気は、演劇部所属の私でも味わったことのない、皆が殺意に満ちている眼で、皆が私を殺そうとしている。

 一体何をしたのだろうか。〝嘉島奈那〟とは私のことだが、〝悪魔〟は私のことではない。そして紙に書いている〝僕〟とは一体誰なのだろうか。キーワードは〝殺した〟と考えると、この文章は間違っている。そう告げるとまた空気が変わる。次はもっと悍しい空気に変わる。身の毛がよだつ。今すぐにでも涙が出そうだ。涙腺から溢れ出る水を私は出さずまいと必死に止める。

 最初に書かれた文章は解けないが、一つだけ解けたことがある。それは先程から私だけが喋っていて、誰も反応しない事だ。無視をするのは勝手だが、シカトするのに空気を作るのは間違っているだろう。私は思うのだ。これが社会の闇だ。縮図された社会の闇だ。教室と云う名の社会の闇だ。社会は端から間違っている。そしてこの文章も間違っている。それに誰に反応はしないし、気づかないのだ。

 それに気付いた私は、彼らに制裁を下さなければならないのだ。 









「独り言で何を言っているの? お姉ちゃん」

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教室に潜む悪魔 住原葉四 @Mksi_aoi

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