2話
当然のように悲鳴にも似た声を発した女生徒へと視線が集まる。女生徒は注目をされている事よりも自分が目にした
しかし、タブレットを持った女子生徒は何やら不満げと言うか青ざめた表情を作っている。あまりにもオカシイその表情に横を向き紫穂の
「ち、ちょっと!みんな、視えなかったの?!あれだけハッキリと映ってるのに?!」
声が震えていることが伝わる。なんだ、なんだ。と言う感じで映像について話しあっていたクラスメイトが女子の方へともう一度、視線を向ける。
もう一度よく見て欲しい
そういい終わると動画が再生される。そして叫び声が聞こえた瞬間に一時停止が押されるとクラスの女子の一人が小さな悲鳴を上げる。
すると、もう一人、もう一人。と、次々と映像の異変に気がつき驚きの声を発し始める。僕はまったく分からなく心苦しいけれど隣で顔が青ざめている紫穂へと視線を向ける。視線に気が付いたのかこちらを向いてくるが、先ほど会話をしていた時よりも顔が青ざめているように見える。
「大丈夫?」
「尋はなにも視えなかったの?」
「見えなかったって言うか、ただ、映像がグラついててずっと見ていたら酔いそうだったよね」
場違いな言葉に紫穂はため息をつきながらも馬鹿にして言っているのではなくなにか微笑ましいものでも見ているような柔らかい口調で、
「なんか尋を見てるとホント馬鹿馬鹿しくなるなぁ」
「それって褒め言葉?」
「どうだろうね?」
「ってことは絶対に馬鹿にしてるね!それよりさ!」
早く映像に何が映っていたのか教えなさいよ。と、言わんばかりに抗議の表情を作りながら人差し指で教卓の方へと指をさす。顔を青ざめ悲鳴を上げるほどもモノが映っていたとは到底思えなく好奇心が加速していく。何が映っていたのだろうか?見える人が居たり見えない人が居る物体なんてこの科学が進歩した時代にあるのだろうか?
「なんか光みたいなものが一瞬だけ映像の端から端へ横切ったのが見えたんだよ」
「光?って、それだけ?それって、ただ、光の屈折でたまたま映っただけじゃないの?」
すると、紫穂は何やら難しそうな表情を作りこちらを見てくる。この表情をする時は決まってなにか隠し事をしている時だと言うことが分かり、再度疑問を投げかけてみると渋々と口を開く。
「光が横切った後に一瞬だけ女の子の顔みたいなのが映ったんだよ。鏡の端辺りに」
「なにそれ。めちゃくちゃ怖い!」
「だから、アンタに言いたくなかったんだよ!そうやってすぐに聞きたがったりするけど人一倍怖がりなんだから!」
怖がりでも好奇心には敵うはずがない。が、頭を抱えつつ後悔が襲って来ていると何やら悲鳴ではなく歓声のような声が聞こえてきたため振り向いてみるとクラスメイトの殆どがタブレットの周りで楽しそうに会話をしつつ自習時間を満喫している。紫穂、尋はそのノリに乗り遅れてしまい、いつの間にか周りで勉学に励んでいたクラスメイトまでが居なくなりぽつりと二人っきりになってしまう。悲観する前に背中を思い切り叩かれる。
「もう!尋のせいで話しに乗り遅れちゃったじゃん!」
「んなこと言ったって!でも、なんでみんなってああ言う映像が好きなんだろうね」
「それ、アンタが言う?・・・まあ、やっぱり何もないよりかは面白いからじゃないの?」
「面白いかー。僕にはよく分かんないや」
さてと、なんて言いながら尋は紫穂のノートに絵を書き始めようとした瞬間に一人のクラスメイトがある文字を黒板に書き始める。もちろん、その文字を見た瞬間にクラス一同歓声を小さく上げる。尋はいち早く黒板に書かれた文字を見るなり紫穂の肩を掴みお構いなしに何度も、何度も左右に揺らし始める。
「分かったから。とりあえず落ち着きなよ」
尋が興奮した場合いつもこの様に体を揺すられるのは慣れたもので紫穂は落ち着かせるために言葉をかける。けれど彼の興奮は収まるどころか急上昇が止まらない。こうなれば最後だということを紫穂は分かっている。なすがまま身を任せなすがまま揺らされ続ける。そこまでテンションが上がる文字なんてあるだろうか?ひろが満面の笑みで黒板に書かれた文字をずっと見ている。文字には
【吹咲町五不思議の一つ恋を成就させる妖精か?!】
この町には誰が言ったのか五不思議ほど中高生の間で囁かれている
なんでもこの映像は在学生が誰でも使える掲示板に張られていたということ。
そしてなにより恋の妖精はこの高校の三階廊下に出るということ。
この二つを照らし合わせれば簡単に推理、答えを導くことは可能だ。と、自信満々に言い放ちクラスメイトの拍手喝采を浴びている。本人も気持ちがいいのか妙に鼻息が荒くなっているようだった。ふと、視線を横へと向けた瞬間に紫穂の揺れていた体は落ち着き尋は静かに誰にもばれないように微笑む。が、紫穂にはバレてしまう。
「尋ってさ?一体何がしたいの?」
「何がしたいって?」
ため息をつきながら尋と同じ視線の先へ目をやると香織が雨谷たちと楽しそうに拍手をしたり騒いでいる。きっと、最初は恋が成就する妖精、と言う単語を見て頭に血が上りいつものように嬉しい気持ちが前に出過ぎて冷静になれなかったのだろう。しかし、少し頭の熱が様って来た時、香織が視線に入って来たんだろう。もしも、本当に妖精を見つけ恋が成就するように願うということは雨谷と香織が別れてしまうということになるんだと気が付いたに違いない。
「もしもだよ?」
「ん?」
「もしも、尋が妖精を見つけたら何を願うの?」
「そ、そりゃあ・・・」
紫穂の問いに対して言葉が出てこない。きっと思っている事はバレているに違いない。けれど、それはずるい気がしてその気持ちをも全て呑み込み笑顔を向ける。
「そりゃあ、好きな人が好きな人と幸せになりますようにって願いますよ!」
「・・・そっか。じゃあ、あそこで有志を募ってるから私たちも参加する?」
紫穂の声はどこか怒っているようにも慰めてくれているようにも聞こえる。その紫穂の優しさにひっそりと、今度はばれないように。なんて思いながら微笑みを浮かべる。紫穂と二人で有志を募っている雨谷の近くへ行くと香織が手を振り近づいてくる。相変わらず香織の笑顔を見るだけで心臓が大きく脈を打つ。
「凄いよね!とうとう、私たちも五不思議の一つとご対面出来るかもしれないんだよ?楽しいよね!ひろちゃんは誰か好きな人居ないの?」
唐突な質問に戸惑いを隠せずにおどおどとしていると両手を叩き笑顔を向けてくる。
「あっ!そう言えば最近一年生の子といい感じなんだっけ?言ってたよー。いいねー!青春してますなー!うりうりー」
ただ笑うことしか出来ずにいた。香織と話しをしているのに胸の奥の辺りが熱くて妙に痛くなってくる。
「はーい!香織!尋をかまうと馬鹿になるからその辺で終わりねっ!それで、結局みんなで学校を探検することになったの?」
割って入ってくる紫穂が香織と会話をし始め逃げ出すように僕は少し離れた場所で雨谷たちが計画する作戦に耳を向けることにした。なんでもこの妖精は放課後から夜にかけて出てくることが多いらしい。そして何よりも映像として記録されたのは始めてらしく学校全体で噂されているらしく夜の侵入を先生たちが警戒しているらしい。どこから手に入れた情報なのか素早く雨谷は様々な情報を得てまとめ一つの紙に記入している。こう言う時に率先して動きまとめる能力があり僕とは力が違いすぎる。雨谷と自分を比べてしまうと勝てる要素が全くなく気持ちが下がってきてしまうため渇を入れるため両手で頬を叩いていると雨谷がまとめにはいっていた。
「よし。とりあえず、まとめて新しい情報が掲示板に書かれたらとりあえず俺に報告して下さい。んで、まとまったら放課後にでも再度みんなに報告するんで!それまで解散!と言うわけでありがとう!」
そう言い放つと雨谷の周りに募っていたクラスメイト達は自分たちの席へ戻ったり、小さなグループで集まり話しをするなりし始める。その場に残ったのは雨谷、香織、紫穂、僕と言ういつもの四人だけであった。すると雨谷が空いていた椅子を差し出してきたためその椅子に座り机の上を見てみると短時間でこれほどまでに簡潔によくまとめられたな。なんて感心してしまうほど綺麗にまとめられていた。感心しながら見ていると雨谷は笑いながら腕を組んでこちらを見てくる。香織と紫穂も椅子に座っているがガールズトークに花が咲いているためこちらを見ている様子はない。
「それで、お前はもちろん参加するだろ?」
「でも、夜に学校でしょ?満遍なく暗いよね?怖いよ」
「満遍なく暗いってそりゃあ、夜はどっこも満遍なく暗いだろ!もう少し積極的になれよっ!一年の子もお前の告白待ってんだぞ?」
「えっ!?告白!!」
先ほどまで二人で会話をしていたかと思えば雨谷の発言に香織が聞き逃すわけもなくキラキラとした瞳をこちらに向けてくる。香織はご飯よりも恋バナが大好きでなによりも当事者よりも熱くなり空回りしてしまうことが多々ある。雨谷はともかくこうした表情をしたら最後。紫穂は頭を抱えながら左右に振り諦めている表情を作る。そして、僕は苦笑いを作ることしか出来ずにいると雨谷が追い打ちをかけるように
「あ、あと。一年生の子も今回の妖精探索に誘っておいたからな?別に良いだろ?吊り橋効果ってのもあるし、今は好きじゃないかもしれないけどもしかしたら、もしかするかもしれないしな!」
雨谷の言葉を聞いた瞬間に香織は両手を合わせ全てを悟ったかのようにキラキラとした目をこちらへと再度向けてくる。そのまん丸な瞳に見つめられるだけで顔が熱くなってくる。紫穂は雨谷の言葉にただただ驚いているような表情をつくっている。そして、香織はにこやかな表情を作り、
「なんだ!ひろちゃんってば!一年生の子ともうそこまで行ってるのか!これは私と圭くんと紫穂とで協力してあげないとねっ!」
そう言いながら清水香織は僕にピースサインを向けてくる。そんな表情をされてしまうとどうする事も出来ないのは分かりきっている。僕も香織を真似するように笑顔を作りながらピースサインを返す。その様子を微笑ましそうに頷きながら見る雨谷。何してんの?なんて今にも怒りの声が聞こえてきそうな般若のような表情をしている紫穂の視線が向けられていた。
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