第三話 俺がいたっぽいゴブリンの群れに合流できて里に連れてってくれるらしくて幸運に感謝!


 今日の寝場所を探して、異世界の森をさまよう俺。

 クマなモンスターを見かけた川から離れて、遠くに見える崖に向かって歩く。

 方向はなんとなくだったけど。

 洞窟とか見つかったらいいなあって。


 そして俺は見つけた。


 洞窟じゃない。

 あるモンスターを見つけたんだ。


 いま俺は、木々の間からヤツらを見てる。

 スキル【覗き見】大活躍だぜ! 覗き魔特化とか言ってごめんなさい! 大変役に立っております! たぶん!


 木々の隙間から見える、ヤツら。

 身長は130センチメートルぐらいで、耳は尖り、ワシ鼻で、額に小さな角がある。

 緑の小人。


 そう、ゴブリンだ。

 俺と同じゴブリン。


「問題はアイツらがお仲間かどうかなんだよなあ……俺、ゴブリンのルールとかわからないし。ゴブリンだけど顔の見分けもつかないし!」


 ぼやいてもしょうがないし、考えても答えは出ない。

 出たとこ勝負しかない。


 俺はゆっくり歩き出す。

 ガサガサと、わざと音を立てて。


 どうやらアイツらも気づいたっぽい。

 キョロキョロと辺りを見渡すゴブリン六匹。

 警戒薄いな! 武器とか構えろよ! 俺が敵だったらどうすんだ! バカか、ゴブリンってやっぱりバカか!


 そして。

 俺と、目が合った。


「なんだ、ガキか。おまえ一匹かゴブ?」


 コイツも語尾がゴブか! アイツだけじゃねえのかよ! しかも付け足したみたいになってんじゃん!


 六匹のゴブリンの中で、一番デカくて服の面積がでかいヤツが話しかけてきた。

 突っ込まない、突っ込まないぞ俺。

 ゴブリンの語尾はゴブ。俺覚えた。覚えたゴブ。


 とりあえずお仲間っぽいことはいい知らせだ。

 あとは俺が変なゴブリンだって怪しまれないことだな。

 できるだけ口数は少なく、自然な感じで。


「そうゴブ」


 …………。

 しょうがないじゃん! 今までのゴブリンみんな語尾にゴブってついてんだもん! うわ、くっそ恥ずかしいぞコレ!


「チッ、アイツら失敗したか。使えないゴブゴブ」


 ゴブゴブってなんだよ……ゴブリンの省略形+語尾のゴブってことかよ……俺もう突っ込まないでいられる自信がないよ……。


 固まる俺を見ても、お仲間ゴブリンとデカめのゴブリンは怪しまなかった。

 というか口々に使えないヤツらだとか言い合ってる。

 俺の目にはコイツらも大差ないように見えることはナイショだ。


「よし、じゃあ里で報告を聞くか。来いゴブ」


「わかったゴブ」


 もうアレだ、取って付けたような語尾のゴブはスルーだ。がんばれ俺。ここでがんばれば、ゴブリンの住処に行けるらしいし。森の中で一人野宿するよりは安全だろきっと。一人というか、一ゴブだけど。ハハッ!



 とりあえず前を行く六匹のゴブリンについていく俺。


 これから、そのゴブリンの里とやらが俺の暮らすところになるかもしれない。

 そう思って、必死で目印を覚えようとキョロキョロしながらついていく。

 まわりはただの森で、道を覚えられるかすげえ不安。


 前を行くゴブリンたちは迷う様子もない。

 というか周りを警戒する様子もない。

 マジかよ、コイツらよく森の中で生きていけたな。実は強いのか?


 そんなことを考えながら、観察しながら、歩く。


 俺に話しかけてきたデカめのゴブリンは、下半身だけじゃなくて上半身を半分隠すように毛皮を巻いている。

 どうもさっきの剣シカの毛皮っぽい。


 え、マジで、コイツあれに勝ったの?

 いや待て、コイツが勝ったから毛皮を着てるとは限らない。というか、ほかのゴブリンよりちょっと体がデカいぐらいで勝てるとは思えない。死んでるのを見つけて毛皮を剥いだとかかもしれないし。

 死体漁りってヤツだね! 俺の得意な! ハハッ!


 武器は棍棒。

 棍棒というか、持ち手を削った木の棒だ。

 大きさの違いはあるけど、ほかのゴブリンたちも木の棒を手にしていた。

 アレ? 俺が死体漁りで手に入れた錆びたナイフって貴重品っぽい?


「おっとゴブ」


「どんくさいヤツだな。遅れたら置いてくゴブ」


 倒れて転んだフリをして。

 俺は、木と土の間にあった隙間に錆びたナイフを隠した。


 貴重品だとしたら、俺から取り上げそうな気がすんだよね。

 コイツらすげえバカっぽいもん。

 力こそすべてゴブ! とか言って強いヤツが取り上げそう。

 まあ元々俺のじゃないんだけどね! 群れの財産なら返すのが当然かもしれないけど!


 そのへんは気にしない。

 だって俺、気づいたらなぜかゴブリンになってただけで、コイツらの仲間じゃないもの。


 歩きながら、一角ウサギの角をその辺の草むらに投げ入れる。

 それと黒曜石っぽい石のナイフは腰布の裏に隠す。

 あ、俺、腰布だけは身につけてました。

 いまは元々つけてた腰布の上から、川で洗った毛皮を巻いてます。

 だから大丈夫、男の象徴は見えてないよ! 変態じゃないよ! ゴブリンだけど!


 手には棍棒だけ持って、腰には水が入った皮袋と、木の実を食べ尽くして空になった皮袋だけ。

 うん、これなら取り上げられても痛くない。


 ゴブリンのくせにゴブリンのことを信用しないで、しばらく歩いて。

 やがて、ゴブリンの里らしきものが見えてきた。


 まあそりゃそうだ、馬車を襲った場所から遠いわけないよな、と一ゴブ納得する俺。

 うーん、一回ぐらいモンスターと遭遇して、コイツらの強さを見たかったんだけど。

 しゃあない。

 俺も危ないかもしれないし、今日のところは良しとしてやろう。


 一人、いや一ゴブ頷いて、俺は前を行く六匹のゴブリンに続いて、ゴブリンの里っぽいところに向かっていった。


 肉壁という名の仲間がいる、ゴブリンの里へ!


 よっしゃあ!

 俺が生き延びる可能性アップだ!

 肉壁さんたち、初めまして!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る