第四話 群れのボスのゴブリンと揉めて村八分になったっぽいけどそもそも村ですらなかったわ!

 …………。

 アレだな、ゴブリンってマジで知能はないんだな。

 自覚はないけど俺の元の体のゴブリンの里だったっぽい場所を見て、そう思う。


 里はそんなに広くない。


 小さな泉があって、囲むように家っぽいものが見える。

 家というか、デカい木に葉っぱ付きの木の枝を立てかけただけのもの。


 ざっと見た感じ、ここにいるのは三十匹ほどのゴブリンたち。

 いや、家っぽいものの中にいるだろうから、もっと多いかもしれない。


 ゴブリンの里はゲギャグギャと騒がしく、文明を感じさせるものはない。

 というか道具を加工している様子がない。

 武器は棍棒だし、家は切ったか折った木の枝を立てかけてるだけ。


 マジか。

 いまどき未開部族だってもっと文明的な生活してるだろ。

 弓矢すら見当たらないって大丈夫かコレ。

 むしろなんであんなモンスターがいる森の中で暮らしていけてんだ。


 俺の疑問をよそに、六匹のゴブリンが歩いていく。

 立ち止まったのは小さな泉の前。

 この泉は、水が湧き出してるみたいだ。

 ゴブリンに似合わないキレイな泉だった。


 おいいいいい! キレイな水が確保できてるんだったら体ぐらい洗えよ!

 里に入ったときから思ってたけどおまえら臭いんだよ!

 やばい、ここで生活できる気がしない!

 未来が不安になる俺だけど、問題はいまだ。


 いま。

 そう、いま、俺の目の前には、ゴブリンたちが集まってきていた。

 ここまで先導してたデカいゴブリンより、ひとまわりデカいゴブリンを中心に。


 一番デカいゴブリンは、腰に錆びた剣を差していた。

 どうやらコイツがこの群れのボスらしい。

 体のデカさと身につけてる物で見分けられる。


 ボスゴブリンが、ズイッと俺に向かってくる。

 ここまで歩いてきたデカめのゴブリンに、ヒソヒソ耳打ちされながら。


 なんか……めっちゃイヤな予感がするんですけど……。


「おう、ガキ。襲撃に失敗したらしいゴブな?」


 なんだよそれ! もうゴブが語尾ですらなくなってるし!


 おっと、衝撃を受けてる場合じゃない。

 すぐ答えなかったせいで、なんか空気が悪くなってる。

 怪しまれないようできるだけ口数は少なく、自然な感じで。


「はいゴブ」


 だからゴブってなんだよ……哲学かよ……。


「それで? なんでお前は生きてるゴブ?」


 あ、やべ、コレめっちゃ怪しまれてますわ。

 ゴブって付けたのムダでしたわ。

 関係ないかもしれないけど。


「えっと、強いニンゲンが来て、あっというまに殺されたんす! それで俺だけしか生き残らなくて! 俺一匹じゃ戦ってもすぐ殺られると思って、逃げたんすよ!」


 ゴブってつけるの止めたらなんか変なテンションになってんじゃん……。

 俺、下っ端まるだしじゃん……。


「ふん、臆病ゴブめ。それで、ニンゲンたちはどこに行ったゴブ?」


 あ、いけたっぽい。

 超怪しい感じになってたのに。

 やっぱアレか、ゴブリンってバカなのか。


「森を出たとこにある道を、向こうの方に行ったっす! 動物に箱を引かせてたんで追いつけなかったんす!」


 とりあえず下っ端口調を続けてみた。なんとなく。


 群れのボスっぽいゴブリンは、フンと鼻を鳴らして、見下した感じで俺を見つめる。

 うん、ゴブリンに見下されても何も思わないよね。俺ゴブリンだけどゴブリンじゃないし! 仲間とも思ってないし!


「生き残りはガキだけか。使えないゴブゴブ」


 コイツもゴブゴブになってるよ! あれか? この群れで流行ってんのか?


 ボスゴブリンが俺から視線を外す。

 ぐるりと他のゴブリンたちを見渡して、口を開いた。


「おう、追いかけるゴブ! ニンゲンに追いついたら……男は殺せ! 女は犯せ! 今夜はお祭りゴブ!!」


 だから何だその標語! ボスもエンジョイ&エキサイティングなのかよ! おまえらよく今まで生きてたな!


 ボスゴブリンの叫びに合わせて、ほかのゴブリンたちも大騒ぎしている。

 こうやってみんなに教え込んでるのね。むしろボスゴブリンの方針だったのね。

 バカだコイツら……。


 ゴブリンに仲間意識はない。

 なのに、俺は自然と口を開いていた。


「ニンゲンは、追いかけない方がいいと思うんす。速かったし、強かったし、その、みんなで行ったところで」


「ああん? ガキ、何が言いたいゴブ?」


「追いかけても追いつかないし、追いついたとしても殺されるだけだと思うんす」


「俺たちが、俺が、弱いって言いたいゴブか?」


 ボスゴブリンの発言で、騒がしかった周囲が静まり返る。

 まわりの全ゴブが俺を睨んでる。


 あれ、これマズくね?


「い、いや、そういうことじゃなくてですね、ほら、ニンゲンって群れるじゃないすか? もし殺したら、復讐に来たりとか、それだけじゃなくて、逃がしたニンゲンがいたら群れで襲いに来たりとか」


 俺の発言には答えず、ボスゴブリンはこっちに一歩踏み出した。

 あ、やばいっぽい。

 なんか言え、なんか言うんだ俺!

 ここから逆転するようなヤツ!

 アレだ、名言的なヤツ!

 働け俺の頭!


「えっと、だから、ニンゲンは襲わない方がいいと思うんです! !」


 よっしゃ、これで理解する!

 わけが、ないよね、うん。

 知ってた。


 俺はゴロゴロと転がっていった。


 ボスゴブリンに掴まれて投げ飛ばされたらしい。


「臆病ゴブめ! 二度と俺の前に姿を現すなゴブ! 森で死んでろ! 臆病ゴブは無視して行くぞお前ら! 男は殺せ! 女は犯せ! 今夜はお祭りゴブ!」


 俺の言葉は、すっかり無視されたらしい。

 ですよねー。

 俺、転生したら雑魚ゴブリンですもの。チートなスライムじゃありませんもの。


 地面に転がったままの俺を置いて、里のゴブリンは出撃していった。


 あれ? でもこれ、むしろ助かったんじゃね? 追いつくとは思えないけど、もし追いついたら瞬殺だもの。コイツらがあのニンゲンに勝てるイメージわかないもの。

 うん、結果オーライだわこれ。

 しかも荷物取られなかったし。


 GJ、俺!

 ここからが俺の人生の、いや、ゴブ生のスタートだ!

 はあ、ニンゲンになりてえなあ……。

 ゴブリンとか雑魚モンスターだし同族とは話が通じないし、人里に行けないから森で生活するしかないし……。


 え? あれ? 森で一人、いや、一ゴブで暮らすの?

 剣シカとか、あのクマなモンスターがいる、森で? ハードすぎじゃね?


 …………。

 よし、ゴブリンの里の近くで暮らそう!

 きっとこの辺はゴブリンの縄張りなんだろうし!

 いざって時は里に逃げ込んでモンスターをなすりつけよう!

 死体漁りをこなす俺にはいまさらMPKで気が引けるとかないんだぜ!

 最低だなおい! さすが鬼畜生!


 それにしても……。

 初日から何度も死にかけて、同族の里にたどり着いたと思ったら村八分、かあ。

 ゴブリン生活しんどすぎィ!

 くっそ、でもなんとか生き延びてやる!


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