第二話 ある日森の中で出会ったクマさんが超強そうであんなんゴロゴロいるの? やばくね?


 川を見つけた俺は、近くの木に隠れて固まってた。

 森から生き物の気配が消えて、めっちゃ静かになってたから。


 何か、、みたいに。


 対岸の川べりの木と草が揺れて。


 姿


 一目見ただけでわかる。


 コイツはやべえ。

 存在感が違う。

 圧倒的な強者のオーラ的な?

 さっき見たシカなんてコイツにかかれば瞬殺だろ、と思わせるほど。


 固そうな毛皮。

 毛皮を押し上げる筋肉。

 鋭いキバとツメ。

 目は紅い。


 まわりを気にしないで、のっそりと川に近づいてくる。


 体高で3メートルぐらいかなあ。つまり、俺の倍以上ってこと。四つん這いで。

 立ち上がったら何メートルなんだろ。5、6メートル? 考えたくねえや。ハハッ。


 俺の目の前に現れたのは、クマだった。


 うん、クマだ。

 ヒグマは強いって言うけど、コイツと戦ったらたぶん瞬殺。ワンパンっすよ。


 クマなモンスターは、まわりを気にすることなくゴクゴクと水を飲んでいる。

 これが強者の風格ってヤツか。


 俺とは違うなあ……俺、雑魚ゴブリンだし。

 俺がまわりを気にしないで水飲んでたら瞬殺っすよ。

 いやコイツなら俺なんて雑魚過ぎて逆に見逃してくれるかも?

 試してみる気はないけど!


 とりあえず、息を殺してじっと待つ。

 視線を感じるとか言うし、目線はちょっと外して。さすが覗き魔特化!


 しばらく待つと。

 水を飲んで満足したのか、クマなモンスターは現れた方向に戻っていった。


 森に生き物の気配が戻ってきた。


 なんだアレ、マジでやべえだろ! あんなヤツがうろついてるとか森での生活、ヘルモードじゃん!

 いや、アイツは特別なヤツなんだ。きっとこの森のヌシ的な。うん、なんか風格とかあったし。きっとそうだ。あんなヤツがほいほいいるわけない。いるわけないよね? いるわけないって信じてるよ?


 木の根元に座り込んで、心の動揺を抑える俺。

 人間といいクマといい、この世界やばすぎませんかねえ。


 強者のことは頭の片隅にしまって行動をはじめる俺、雑魚ゴブリン。

 とりあえず、アイツのおかげでいま川原に生き物の気配はない。


 よし、さっと行ってざっと水浴びして、ばっと水くんですぐ戻ってこよう。

 ちょっとなら大丈夫! 大丈夫、ちょっと、ちょっとだけだから! すぐ終わるから!


 キレイな川に向けてダッと駆け出す。

 ためらうことなくそのままドボンと入水。

 冷たっ!

 左手で皮袋にバシャッと水をくんで、右手でザッと体をこする。

 すぐに脱出。

 また川原をダッシュして、さっき隠れてた木の根元へ。

 しゃがみ込んで周囲を見まわす。

 よし、異常なし。

 寒さでブルブル震える俺以外は。


 おおおおお、けっこうキツイ。

 うん、これ完全に順番間違えたわ。

 先に布を洗って乾かして、そのあと入水するべきだったわ。

 拭く物がない。その前に服もないんだけど! 俺、腰布以外ほぼ全裸だから!


 臭いが少ないからって理由で、毛皮で体を拭く。

 水滴を弾き飛ばす感じで。

 よし、ちょっとは乾いてきた。寒さで死ぬかと思ったわ。シャレにならん。

 俺しょっちゅう死にそうになってんな。まだ半日も経ってないけど! 経ってないけど! マジかよ異世界ハードモードすぎだろ……。


 何度か水場を往復して、やっと体も服も洗い終わった。

 皮袋の臭いはとれないけど、中の水は新鮮だ。


 俺はまた、ゆっくり森を歩きはじめる。

 なにしろ陽が傾いて来たもんで。


 あっちが西か。

 西、なのかなあ。

 異世界でも陽は西に沈むのか。

 そもそもあれは太陽なのか。

 そんなことを考える俺。ちょっと賢そうじゃね? ゴブリンなのに!

 もちろん俺が答えを知ってるわけないんだけど。

 気づいてから一日目だしね! あ、この世界に来てからまだ誰とも話してないわ!


 そんなことを考えても、事態が好転するわけじゃない。

 陽が傾いてきた。

 つまり、寝る場所を探さなきゃいけないってことだ。

 頭から刃物を生やす剣シカとか、強キャラっぽいクマなモンスターがいる、この森で。


「大丈夫、大丈夫。この体の元のゴブリンだって生きてきたんだし。それに馬車を襲ったゴブリンだって生きてきたんだし。大丈夫、大丈夫。まあそのゴブリンの群れは全滅したけどね!」


 笑えないわ!


 とりあえず川から離れよう。

 向こう側に消えたけど、クマなモンスターもいたんだし。


 安全な寝床か。

 洞窟とかないかなあ。

 あとは木のウロとか、木の上とか?

 おっ、ツリーハウスなんていいかも! なんかオシャレっぽいし! ロハス!


 そんなことを考えながら森をゆっくり歩く俺。

 とりあえず、遠くに見える崖っぽいところを目指してる。

 崖っていったらこう、裂け目とかあって、洞窟みたいなところもあるんじゃね? と思って。


 時々休憩して、皮袋に補充した水を飲んで、お仲間ゴブが持ってた木の実を食べて、生き物の気配がしたら隠れて。

 ゆっくりと、森を歩く。


 超強そうなクマなモンスターがいるこの森で、安全な寝場所を探して。


 うん、無理じゃね? それ無理ゲーじゃね?

 あいつレンガの家でもワンパンっしょ。

 オオカミさんとは格が違うっしょ。

 セーフエリアとかないかなあ……。



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