『第一章 果ての森1』
第一話 人間怖いから森に入ったんだけど森も怖すぎてこの世界ヤバくね?
とりあえず生き延びなくちゃ。
とはいうものの周りは森。
お仲間ゴブリンは全滅してて、周りには誰もいない。
「馬車が通ってきたわけだし、どっかに続いてるんだろうけど、なあ……」
俺は道の先を見ながらボヤく。
あっちはさっきゴブリンを瞬殺して女の子を助けたヤツらが向かった方。
反対側は馬車が来た方。
馬車が来た方に行けば、いつか人里に出るんだろうけど。
「よし、じゃあ人里に行ってみるか! ひょっとしたらゴブリンと共存してる世界かもしれないしね! ……ってんなわけあるか! いま殺し合ってたじゃん!」
静かな森に虚しく響くノリツッコミ。
俺の言葉を聞いていたのは、もの言わぬ死体だけ。
あ、うん、たぶんお仲間ゴブリンなんだけど。
……いいこと思いついた。
森の中で暮らしていくのは大変だし、そもそもコイツらお仲間とは思えないし、誰も見てないし。まあ俺が覗き見る方だけどね! スキル覗き魔仕様だし!
ということで、失礼しまーす!
そう、俺がやるのは『死体漁り』。
死体から使えそうな物を盗む、人道にもとる行為だ。
まあ俺ゴブリンだけど! 人道もクソも人間じゃなかったわ! おにちくしょう!
人間の死体はさっきのイケメンご一行様が馬車に乗せていったから、ここにあるのは八匹分のゴブリンの死体だけ。
片っ端から漁る。
プライド? そんなんないって! 雑魚ゴブリンが森で生き抜くって決めたんだから!
錆びたナイフ、黒曜石っぽいナイフ、棍棒がわりの木の棒。
武器しょぼいなおい! よくこれで男二人殺せたな!
木の実が入ったなんかの皮の袋、同じような皮袋には水が入ってた。
うん、変な匂いがする。これいつから使ってる皮袋だよ……。やべえ、やっぱかなりハードなサバイバルの香りがする……。
あとはどうすっかなあ。絶対使えるんだけど、そこまでするかどうか。
いや、迷うな俺! 生き延びるって決めたんだ! だいたいお仲間じゃないしね! コイツら敵ゴブだし!
汚れてすり切れてボロボロになったくっさい布、動物の毛皮。
うん、まさに身ぐるみ剥ぐってヤツだね! さすが鬼畜生! まあしょうがないよね、俺ゴブリンだから! 小鬼だから! はあ。
布とかコイツら洗ってんのかよ。
めっちゃ臭うんだけど。
イヤな予感がして自分の体臭を嗅いだ。
臭かった。
マジかよ……。
チビでブサイクでハゲなゴブリンで薄汚れてて臭うとか……。
モテる要素ゼロじゃん! いやゴブリンにとってはコレが魅力的かもしれないけど! そもそもメスゴブリンがいるのかも知らんけど! いやゴブリンにモテたくもないけどさあ!
よし、水場を探そう。
さっきのヤツらを見る限り人はヤバそうなんで、とりあえず森へ。
はあ。
とりあえず、靴、欲しいなあ……。
イヤな予感はしてた。
うん、わかってた。
ゴブリンがいる剣と魔法のファンタジー世界の森なんて、危険なところだって。
最初はよかった。
デカい蜘蛛、一本角が生えたウサギ。
とりあえず一角ウサギと呼ぶことにする。
これぐらいは許容範囲だった。
いや見るだけで通り過ぎたけどね! 実は強キャラだったとかだったら怖いし! でもほら、見るだけなら安心だから! スキル構成、覗き魔特化だから!
いま俺は、木に隠れて震えてる。
シカがいたんだ。
そりゃ森だからシカぐらいいるだろ。
うん、そこは問題ない。
大きさも問題ない。
ヘラジカとかデカいヤツよりむしろ小さい。
問題は角だ。
シカの頭に生えてる角だ。
あれ、刃物じゃね?
角、めっちゃギラついてるんですけど。
あれもう角っていうか剣じゃね?
よし、剣シカと呼ぼう。
あ、一角ウサギが狩られた。
おうっふ、お食事タイム!
シカなのに肉食かよ……そうだよね、頭に刃物つけてるもんね。
森やべえなおい!
人間が通るから道はアウト、人里も当然アウト。
そんで、森はコレ。
あれ、せっかく異世界なのにハードモードじゃね? 俺の人生さっそくヤバくね? いやゴブ生だけど! ゴブ生だからヤバいんだけど!
俺の現状を見つめ直していたら、食事を終えたシカは去っていった。
よかった。
ありがとう名もなき一角ウサギ。お前のおかげで俺は助かった! あと食べ残されてた角はもらっておいた! 尖ってるからなんか使えるかもしれないし!
俺、すっかり死体漁りが板についてきたな。
尊厳? なにそれ美味しいの?
プライド? お前それサバンナでも同じこと言えんの? ここ森だけど!
俺はゆっくりと森を歩き出す。
危険な動物に見つからないように、ゆっくりと。
ほらアレじゃん、ファンタジーのゴブリンって、群れならヤバいけど一体なら子供でも倒せる、みたいな。
全開で働けスキル【覗き見】! いざって時は期待してるぞスキル【逃げ足】! 称号にも何か効果があるといいな【森の
…………。
スキル構成カンペキじゃあん。
俺、まさに森の
くだらないことを考えながら、俺はビクビクと森を進む。
休憩のたびに、臭う皮袋からガマンして水を飲んで、森を行くこと小一時間。
「俺、けっこう運がいいのかもな。生まれ変わったらゴブリンだったけど! チートなしっぽいけど!」
思わず呟くのも仕方ないだろう。
また木に隠れて覗き見る先に、キレイな川が流れていた。
それにしてもすっかり覗き見に馴染んでんな俺。
キレイな川を見つけたからって、ほいほい川原には出られない。
なにしろこっちは雑魚ゴブリン。
人間とか、さっきのシカあたりと遭遇したら瞬殺だ。俺が。
しっかり警戒して、大丈夫だと思ったらさっと行く。これに限る。
よし、やっぱり
あ、ちなみに臭い布と、恥ずかしながら臭う俺の体にはたっぷり土をこすりつけてます。
じゃないと森を歩けないって。
臭うもの。
自分でわかるぐらい臭いんだもの、俺……。
チビでブサイクで髪がないゴブリンでもせめて清潔でいたい! そもそも臭うとか森じゃ致命的だしね!
そんなことを考えながら、俺は静かに川の対岸を見ていた。
なんでかって?
さっきっから、鳥が飛び立ったりしてんのよ。
そんでいま、ガサガサ木が揺れてんのよ。
俺でもわかるぐらい、すっかり森が静かになってんの。
何か、
できるだけ息を潜めて、木陰から川を覗き見る。
川べりの木と草が揺れて。
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