氷雨

雲田和夫

氷雨

僕はある日、体が動けなくなった。


布団から出られない。


金縛りなんじゃないかと思った。そうじゃない。僕は、仕事に行きたくないんだと気づいた。意を決して、携帯メールで辞職する旨送った。


怒られるかと思ったら、意外にビジネスライクにとんとん拍子で、手続きは片付いた。


僕は、しばらく何をしたらいいのかわからなかったが、やがて物書きを志した。

しかし、出版社に創作物を送るも、いい返事はなかった。


僕はそんなに貯蓄があるほうではなかった。かといって借金があるわけではなかった。生活様式をミニマムにしていけば、出費は減るだろうという予測は当たった。ある時点で僕の出費は最盛期の三分の一以下まで減った。


しかし、いかんせん収入がゼロなのだから、やがて、窮地に落ちいった。僕はコレクションしていた本や、コインを売り払った。卵や納豆は大切な主食となった。それでも僕はたまにコンビニ飯を食べるのだった。


今日もコンビニへと向かう。風は冷たく、気のせいか雨も降り始めている。私はそそくさとコンビニへ行き、弁当を買う。レンジで温めてもらい、待っている間考えていたのは、


「僕はどこへ行くんだろう?」


だった。


「お待たせしました。」


僕は弁当を受け取り、暮れかかる街を歩く。氷雨が降りつける。来ていたダウンコートのフードをかぶり、うつむきながら歩く。雨は防げた。ただ、視界は狭く、街行く人の笑い声が冷笑にさえ聞こえる。


僕は買い物というの名のダイビングを終え、呼吸を整える。弁当の蓋を開けて心の中で唱える。


「いただきます。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

氷雨 雲田和夫 @spiderbutterdog

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ