第131話城塞都市イグリ 其の二
ブブブブ……
腕時計のアラームが鳴る……
ふぁあ。朝か。眠い目を擦り、支度を始める。
とは言ってもいつものレザーアーマーを着るだけだけどな。
支度が終わるとテントを畳み、朝食の準備にかかる。
昨晩食べたのと同じ桜のラーメンだけどな。
周りには俺と同じく、ビアンコ、交配種の連中がラーメンを啜っている。
しっかり食べろよ。これから戦いが始まるんだからな。
食事を終えると、ロナが話しかけてくる。
「ライト…… いよいよだね……」
「あぁ、ネグロスと真っ向から戦うのはこれが初めてだからな。作戦に変更は無いな?」
「うん。計画通りにいくさ。ライト、頼んだよ!」
さて時間だな。ここからイグリまで二時間といったところだろう。ロナが大声で指示を出す。
「行くよ! やってやろうじゃないか! この戦い! 勝つよ!!」
「「「おーーー!!」」」
俺達は城塞都市イグリに向かう。
さぁ、気合い入れていくか!
◇◆◇
二時間後、予定通りに城塞都市イグリに到着。目の前に広がるのは……
三十メートルはあろうかという高い城壁に囲まれた城が……
「すごいな…… まるで虎牢関だ」
「コロウカン? あんたの世界にもこんな町があるのかい?」
ゲームや漫画の知識だけどな。
「実際には見たことは無いが、こんな都市はあったらしい。俺の世界じゃ呂布っていう物凄く強いやつが城を守ってたんだ」
「へぇー、あんたが強いっていうんだからよっぽどの化け物なんだろうね」
「この世界でも化け物みたいに強い奴はいるけどな……」
バルゥのことだ。獣人の国アズゥホルツで出会ったアルブ・ネグロスの将軍。
ミルナスの話じゃ黒の軍団ってのを率いているらしい。
奴の強さは異常だ。今の俺でどこまで立ち向かうことが出来るか……
「何が出てきても戦うだけさ! ライト! 準備はいいかい!?」
「おう!」
「総員! 配置に着け!」
「「「おーーー!!」」」
交配種達が弓を片手に一列に並ぶ。ビアンコ達は交配種の後ろに着く。
彼らは魔法が使えるので、回復要員として働いてもらう。
とは言っても桜のようなチート回復は出来ず、水魔法で回復速度を上げることぐらいしか出来ない。
それでも無いよりはマシだ。
隊列を崩さぬよう、前に進んで行くと……
ジャーン…… ジャーン…… ジャーン……
イグリの方から銅鑼の音が聞こえる。相手も臨戦体勢に入ったか。
「弓隊! 構え!!」
ザッ
ロナの号令のもと、交配種が一斉に弓を構え……
「ってーーー!!」
ロナが叫ぶ! 交配種達は一斉に矢を放つ!
ヒュンヒュンと音を立て、数万の矢が雨のようにイグリに降り注ぐ!
この矢は特別製。桜が想像したものだ。
桜のようにホーミングすることはないが、一撃の威力が高い。
恐らく俺のショットガンの一撃クラスの威力はあるだろう。
着弾した矢は音を立て城壁を削っていく!
だが、相手も黙ってはいないはず。
そろそろ反撃が来る頃だろう。
「撃ち方止めっ! 構えろ!」
攻撃一辺倒では敵の攻撃が来た時に防御が間に合わない。
交配種は分厚い木製の盾を構える……
ヒュン…… ヒュン……
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
うぉ!? 俺達が放った以上の矢が降り注いでくる!
シュッ
痛っ!? 矢が俺の肩を掠める!
くそっ! みんな! 今は耐え……
ドゴォ
ドゴォ? 矢の音じゃない。音がした方に視線を移すと……
「痛ぇー! 足がー!?」
「おい! しっかりしろ!」
「駄目だ! 死んでる! 諦めろ!」
多数の交配種が傷付いて、もしくは死んでいる。弓矢の攻撃じゃない……
長さ三メートルはあろうかという木の柱が深々と地面に突き刺さっている。これは……
オドを練る! 急ごしらえだがしょうがない!
なるべく味方の射線を塞がないようにして……!
オドを放つ!
【
ゴゴゴッ……
地面がせり上がる!
交配種の全てを守るように全長数キロに渡る石の壁!
「攻撃が来たらすぐに身を隠せ! 壁が崩れたら一旦退避だ!」
「「「おーーー!!」」」
くそ! まさか弩砲を持ってくるとは! 考えが甘かった!
相手は国家なんだ。兵備も潤沢だろう。
俺はネグロスが弓か魔法で攻撃してくるものだと決めつけていた。
ちくしょう…… 誰も死なせたくなかったのに…… 俺のせいだ……
「ライト! 落ち込んでる暇なんて無いよ! あんたも攻撃しな!」
ロナ…… はは、強いな。俺より若いこいつに励まされるなんて。
そうだな。これは戦い。誰かしら死ぬ。初めから分かってたことじゃないか。
弩砲の矢の近くで死んでいる交配種を見て……
すまん。仇は取るからな。
目を閉じてオドを練る……
この距離ならスナイパーライフル一択だ。
いつも通りオドを両手に集める……
レートは高く……
射程距離は八百メートル……
弾速は速く、偏差射撃は必要無い……
イメージのまま……
オドを放つ!
両手に重量を感じる。
目を開けると……
俺はスナイパーライフルを握っていた。
石の壁越しにスナイパーライフルを構える……
さぁ出てこい…… 久し振りのイモ掘りだ。
スコープの中央に弓を構えるネグロス兵を捉える。
トリガーに指をかけ……
ガォン
独特の発砲音がすると同時にスコープ内のネグロスの頭が弾け飛ぶ。
少しでも敵兵力を削っておかないと。
スナイパーライフルを構えながら次の獲物を探す。
見つけた。
ガォン
二キル。
次。
ガォン
三キル。
考えるな。
味方を助けるためにも……
殺さなきゃ……
新たな敵を確認。
トリガーに指をかけ……
次。
ガォン
スコープ越しにネグロスが倒れるのを確認。
一体どれぐらいの敵を殺したんだろう……
どのくらいの時が流れたのだろう……
俺の周りの交配種も被弾して後ろに下がって行く者、矢を頭に喰らい動かなくなる者、弩砲に潰されミンチになっている者と様々だ。
殺らなきゃ殺られる。
感情を捨てろ。スナイパーライフルを構える。
新たな敵影。トリガーに指をかけ……?
なんだ? ネグロス兵が弓を捨てた。ネグロスは兜を脱いで……?
あれ? あの肌の色は…… ネグロスじゃない!?
「撃ち方止め! 撃つな! 撃つなー!!」
周りの交配種達は不思議そうに俺を見る。
城壁の上に立つネグロス…… いや交配種は白旗を上げる。これは……
罠かもしれない…… 俺の隣で必死に戦っていたロナだが、俺の指示が理解出来ないように……
「ライト!? どうしたんだい!?」
「これを見てみろ」
スコープを覗かせてみる。ロナは驚いたように……
「仲間だ…… どういうことなんだろう……?」
「分からん…… だが、このままには出来ないだろう。俺が行く。心配するな。いざとなったら障壁を張るから。罠だったら俺を気にせず攻撃しろ」
「分かった…… 気を付けるんだよ……」
俺は警戒しつつ、城壁の上に立つ交配種に大声で話しかける。
「おい! お前交配種だよな!? ネグロスはどうしたんだ!」
『助かった! あんたら大森林から来たんだろ!? ここにいたネグロスは逃げた! 残っているのは俺達だけだ!』
「本当か!? なら城門を開けるんだ! 確認する!」
『だ、だけど、絶対に攻撃するなよ! あんたらの矢で仲間の多くが死んだんだ! 俺はまだ死にたくないんだ!』
俺達の攻撃で!? まさか……
嫌な予感がする。もしかして俺達は……
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