第112話歓迎会

 ドンドコドン

 ドコドコドン


 太鼓の音が鳴り響く。作戦会議が終わり、急遽俺達の歓迎会が催されることになった。

 マルスが提案してきてな。最初はお断りしたのだが、士気を上げたいとのことだ。それならば断わる理由は無い。

 一応俺は歓迎される側なのだが、せっかくなので料理を作ってみんなをもてなすことにした。


 場所は俺達が寝泊まりしたところではなく、南に数キロ進んだところにある大きな広場だ。

 マルスに聞くとこうした広場が森の中に点在しているとのことだ。


 俺は作成クリエイションで直径二メートルはあろうかという大鍋を作り、桜に大量の味噌を出しておいてもらう。

 無限調味料さまさまだな。作るのはトン汁だ。フィーネにも手伝ってもらい調理は順調に進む。

 桜は調味料の他に無限おにぎりを大量に出してもらうが……


「パパ~…… もう疲れた~……」


 桜がへばってる。分析アナライズを発動し、桜を見てみると……



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:128

HP:1E+7 MP:0/1E+7 STR:1E+7 INT:1E+7

能力:舞10 武術10 創造 10 分析7 回復10 慈愛10 結束 守護者

魔導弓10(爆裂の矢 氷結の矢 力の矢 影縫い)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 無限ラーメン 無限調味料 



 あかん。MP切れだ。

 昼は傷付いたビアンコや交配種を回復魔法で治療してたし、さらにこの大量の味噌とおにぎりだ。

 MPが切れてもおかしくないか。

 幸いMPは数時間休息を取れば元の数値に戻るので問題は無いが。


「ご苦労様。休んでていいよ」

「うん、そうするね。お腹空いちゃったな…… パパ、一口ちょうだい」


 つまみ食いか。しょうがないな。まだみんな食べてないのに。

 でも桜は頑張った。お椀にトン汁をよそう。肉は多めに入れておいた。

 桜は嬉しそうに一口……


「んー! 美味しい! これぞ日本の味よね!」

「はは、でもそれだけだぞ。お代わりは歓迎会が始まってからな」


 この子、トン汁なら三回はお代わりするからな。

 バカの三杯汁とは言うが、トン汁なら俺もそれぐらいは食える。美味しいからな。

 他にも料理を用意してあげたかったが今回はこれぐらいで勘弁してもらおう。


 広場には数千人のビアンコの民、交配種の連中が歓迎会が始まるのを今や遅しと待っている。

 ビアンコ、交配種の子供達が物珍しそうに俺達に話しかけてくる。


「ねー、おじさん。それってどんな料理なの?」

「これか? これは異世界の料理でね、トン汁って言うんだ。あっちにあるのはおにぎりって言ってね」


「美味しそう……」

「あぁ! すごく美味しいぞ! もうすぐ歓迎会が始まるからな! そしたらいっぱい食べていいぞ!」

「「「やったー!」」」


 子供達ははしゃぎ回る。その光景を見て思う…… 

 この子達の笑顔を取り戻さなくちゃ。今はネグロスの影に怯えて生きている。

 安心して過ごせる未来を作ってあげないとな……


 トン汁が完成した頃、マルスが話しかけてきた。


「すまんな。あんたの歓迎会なのに料理なんかさせて。それにしても美味そうな匂いだ……」

「はは、料理は好きだからな。気にしないでくれ。で、歓迎会って何をするんだ? 適当に飲み食いするだけならいいんだけど。めんどくさい挨拶とかは嫌だぞ?」


「いや、挨拶ぐらいはしてくれよ。あんたは予言の男なんだ。あんたが一言いってくれればみんなを勇気づけることが出来る。頼むよ」


 むぅ。頼まれてしまってはしょうがない。マルスに連れられ広場中央に。

 マルスは大声を上げる。


「聞いてくれ! 噂では聞いているかもしれんが、予言の男が現れた! こいつはライト! かつての伝説の祈祷師、カナン・マリアナ・アルブ・ビアンコが予言した男だ! こいつは俺達を救ってくれる! お前達も見ただろう! こいつが霊峰ガチア山を半分吹っ飛ばしたのを! 俺達は勝てる! ライト! 一発気合の入る一言を頼む!」


 えー、そんな熱いことを言われた後に何言えばいいんだよ。ハードル上げやがって。

 しょうがないな。俺が部下に常に言っている言葉を言うとするか。


「無理はするな。死ぬと思ったらすぐ逃げろ。生きてりゃなんとかなる。失敗しても尻ぬぐいは俺が全部やる。だから気楽にやってくれ。以上だ」

「「「「「…………」」」」」」


 観衆が静まりかえる。

 うん、そりゃそうだよな。マルスがあんな熱いことを言ったあとにこんな冷めた挨拶をするなんて。

 でもな、嘘は付けないし、これは俺の本心だ。仕事でも戦いでも結局無理をすれば失敗する。

 自分の出来る範囲でいい。それを全力で行えばいいだけのことだ。


 静まる観衆をしり目に俺は大鍋のところに戻る。ちょっと視線が痛いな…… 

 途中俺に話しかけてくる者がいる。


「ちょっとあんた! なんだい、あの挨拶は!」

 

 後ろを振り向くと、そこにはロナが立っていた。

 怒って…… いや笑ってるな。すごく楽しそうだ。


「あれ? なんか受けたみたいだな」

「あははは! 気が抜けちまったよ! でも心が楽になった!」


 はは、ロナは俺の本心を理解してくれたみたいだな。

 そうなんだ。気負う必要なんて無い。

 失敗してもそれをリカバリーしてあげられる上司がいないと部下は安心して仕事が出来ないからな。


「そういうことさ。気楽にやればいい。何か困ったことがあればいつでも言ってくれ。俺も出来る範囲で何とかしてやるからさ」

「ははは、人族のくせに。でもあんたの言うことなら信用出来そうだ!」


「そうか、それじゃ歓迎会を楽しもう!」


 俺はその場で怒号を放つ! 今日一の大声だ!


「みんな! おにぎりもトン汁もいっぱいあるぞ! みんなのために用意した! 今日はいっぱい食ってくれ!」

「「「「「おーーー!!!!!」」」」」


 ははは! ビアンコも交配種の連中も嬉しそうに雄たけびを上げる! 

 これでいいんだよ! 気楽に行こうぜ!


 俺は大鍋のところに戻り、配膳を始める。フィーネとチシャも手伝ってくれる。

 はは、俺の歓迎会なのにな。でもいいんだ。俺はもてなされるよりもてなす方が好きなんだ。



◇◆◇



 一通り、配膳は終わり俺もトン汁を食べる。

 お代わりは勝手にやってくれと言ってあるので歓迎会の参加者はこぞって鍋の前に並ぶ。

 大量に作ったが、もう半分は無くなってしまった。みんなよく食べるな。

 まわりからトン汁に対する称賛の声が上がる。


「最高だ! こんな美味いものがあったなんて……」

「このオニギリっていうのも美味しいわよ! これってイリュザの実よね? こうして食べることが出来たんだ……」

「ママー、明日もこのスープ食べたいねー」


 みんな気に入ってくれたみたいだな。

 食料に関してだが、桜がいる限り心配は無いだろう。

 今の桜だったら全力を出せば数千人の食料を一日で用意出来る。

 今はMP切れでヒーヒー言ってるのは回復を使ったせいだ。回復はMPを割合で消費するのでコスパが悪いのだ。

 まぁエクストラヒールで欠損箇所を治せるので十二分にチートな訳だが。


 桜がいる限り兵站に関しては心配は無い。

 しばらく桜は回復と食料の生産の仕事に就いてもらうことになるだろうな。

 がんばれよ、桜。


 歓迎会も終盤を迎える。鍋の中は空になり、参加者は思い思いに自分の時を過ごし始める。

 歌い踊るビアンコ、楽しそうに笑いあう交配種。


 皆が笑って過ごせる未来を…… 作ってあげないとな。

 はは、目的が変わってた。俺の一番の目的は転移船を手に入れることなのにな。

 でもいいさ。俺は一度日本に帰ってからこの世界に帰ってくるんだ。

 きっとそれが出来る。そのためにも何とかしてネグロスを倒さなくてはいけないんだ。

 戦わずに転移船を手に入れることなんて出来ないだろうからな。


 俺の隣でお握り片手にトン汁を楽しむフィーネに話しかける。


「フィーネ。少し話さないか?」

「話? いいですよ。何ですか?」


「ここじゃちょっとな…… 少し人のいないところに行こう……」

「え? は、はい……」


 俺はフィーネを連れて森の中に。これだけ離れればいいだろ。


「どうしたんです…… ん……」


 フィーネを抱きしめてキスをする。ちょっとイチャイチャしたくなってね。

 歓迎会の熱に中てられちゃったのかな?

 フィーネは驚いたようだが、俺の気持ちを理解してくれたのか、おずおずと舌を絡めてくる。


「ん…… んふふ。びっくりしちゃいました」

「はは、すまんな。たまには俺から誘うのもいいだろ?」

「そうですね……」


 今度はフィーネからキスを求めてくるが…… 



 ガササッ



 おや? 誰か近づいてくるな。見られたらなんか恥ずかしいし、フィーネと一緒に身を隠す。

 ちょうどいい茂みがあったのでしゃがみつつ誰が来たか確認……? 

 あれ? マルスとロナだ。二人は抱き合ってから…… 

 おおう。キスしてる。結構情熱的なキスだな。

 あれ!? お互いの耳を噛み合ってる! 

 これはつまり…… 二人が話す声が聞こえる……


「ロナ…… この戦いが終わったら結婚しよう…… 自由を取り戻すんだ…… がんばろうな……」

「嬉しい…… マルス…… 愛してるよ……」


 そう言って二人はキスをする。いいねー。若いって。思わず二人に見入ってしまう。

 もちろんフィーネもだ。フィーネは二人を見て嬉しそうに笑う。


「ふふ、二人の為にも頑張りましょうね」

「あぁ。もちろんだ。二人だけじゃなくてここにいる全員のためにもな」


 みんなの未来は俺達の働きにかかっている。

 息抜きが出来るのは今日までだ。明日から頑張らないとな!

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