第113話カオマの町
歓迎会の翌日。俺達は昨日歓迎会を行った広場に来ている。
俺、桜、フィーネ。そしてマルスとロナ、
リーダーであるマルスがそれぞれに指示を出す。
「今日から俺達は同胞を救うために動き出す。各々違う仕事をしてもらうが、全てが重要だ。楽な仕事なんて無い。気を引き締めてかかってくれ。まずはサクラ、君には昨日に引き続き傷付いた仲間を救ってもらいたい。他にも食料の生産が出来るんだったな? それも任せてもいいか?」
「うん! 大丈夫だよ!」
桜の仕事は後方支援ってとこだな。食料の生産、要は兵站を生み出すってことだ。
これは戦う上で重要な要素だ。腹が減っては戦は出来ぬだからな。
「ロナ、お前は俺と一緒に動く。俺達は今からカレニエの町に行く。こっそり潜入して俺達の情報を流すんだ。戦おうとは思うな。終わったら全力で逃げろ」
「分かってるよ。ふふ、マルスと一緒なんだね。あんたとならなんだってやれそうだよ」
ははは、お熱いことで。この二人は恋人同士なんだよな。
昨日こっそりフィーネとイチャイチャしてるところに彼らに遭遇した。耳を噛み合いながら愛してるだってさ。
若いっていいねぇ。まぁ俺も人のことは言えないがね。
マルスと目が合った。今度は俺の番だな。
「ライト、あんたにはカオマの町に行ってもらいたい。そこで交配種を救ってきてもらいたい」
「救うって言っても無理やりさらってくるつもりは無い。俺達の考えに同調してくれるやつだけ連れてくるつもりだけど、それでもいいか?」
「ははは、構わないさ。でもその心配は無いはずだ。交配種はネグロスの圧政に苦しんでるからな。進んでネグロスに従う奴なんていないさ」
そうか。それならば心置きなく暴れることが出来るな。
「すまんが一つ情報がある。斥候の話だと現在カオマには王都に護送させる同胞が一時的に拘束されているって話だ。出来れば彼らも救ってきてくれ……」
「ビアンコが? それは朗報だな。任せろ。生きているビアンコは全員救ってくる」
「あんたの言葉は疑いようがないな…… 成功する気しか起きないよ。ライト…… あんたに出会えて良かったよ」
「おいおい、そんなフラグっぽいこと言うな。まるでもう会えないみたいな言い方じゃないか」
「フラグ? 何のことだ?」
「はは、何でもないよ。それじゃ行くとするか! 桜! がんばれよ!」
俺は桜にエールを送る。桜は笑顔でそれに応える。
「うん! パパもがんばって! あんまり危ないことはしないでよね!」
「おう! マルス! ロナ! お前達もしっかりな! 道中あんまりイチャイチャするんじゃないぞ!」
あ、ロナの顔が真っ赤になった。
「ちょっと!? あんた知ってたの!?」
「はは、何のことかな? なんてな! それじゃ俺達も行くわ! フィーネ! 行くぞ!」
「はい!」
俺達は広場を離れ、それぞれの目的地に向けて歩き出す。
マルス達の目的地は森を出て北東に一日歩いたところにあるらしい。
俺達の目的地、カオマとは真逆の位置だな。みんな頑張れよ。
俺とフィーネ。そして百人を超える交配種達。俺達は北西に向けて出発した。
◇◆◇
一日かけて森を出る。時計を見ると…… 深夜の二時か。
目に広がるは月明りに照らされる広大な草原。
街道は無く、何も無い台地が広がっているのみだ。
その光景を見ていると交配種の男が話しかけてくる。
「ライト様…… では計画通りに……」
「あぁ。お前達も気を付けろよ。現地で会おう」
「はい!」
交配種達は三々五々散って行く。百人を超える大所帯だ。
そんな俺達が一塊で歩いてたら怪しまれるに決まってるからな。
交配種がいなくなったところで俺とフィーネも移動開始だ。
俺はフィーネからコピーした収納魔法を使いバイクを出現させる。
最近分かったのだが付属品のサイドカーは俺の意思で着脱可能らしい。
今はフィーネと二人旅だ。サイドカーは必要無い。
目の前にあるのはいつものビッグスクーターだ。
「フィーネ。乗ってくれ」
「はい! うふふ。何だかデートみたいですね」
「そんな気楽な物じゃないさ。気を抜くなよ。どこにネグロスがいるとも限らないんだから」
「はーい。分かってますよー」
分かってんのかな。でもこれくらい気楽な方がいいのかもな。
それではバイクに跨りエンジンスタート!
フィーネがいつも通り、俺の腰に手を回す。さて行くぞ!
ドルンッ ブロロロロッ
月夜に照らされる草原をバイクで駆けること三時間。
東の空が白く染まってくる頃、地平線の先に町が見える。あれがカオマの町か。バイクを降りて収納魔法を発動。
バイクを隠して、さらに
ここでしばらく待機だな。
「フィーネ、疲れただろ? 少し寝ておきな」
「はーい…… ふあぁ……」
俺達は仮眠を取ることに。当初の予定では昼過ぎに交配種と合流してから情報収集をしてもらう。
ある程度だが、町の配置、施設、人口なんかは聞いてあるが、それは数ヵ月前の情報だ。
直近の情報でなければ意味が無い。それにこの町には捕らわれたビアンコがいるらしい。
そいつらも助けてあげないとな。
腕時計のアラームをセットして俺も少し眠ることにした……
ブブブブ……
ん…… 時間か。アラームを止めつつ時間を見るとちょうど昼の十二時を示している。
待ち合わせの時間だ。フィーネは疲れているのだろう。
まだ眠っている。起こすのもかわいそうなので、俺は一人で地上に上がる。
辺りは何も無い草原が広がっている。視線の先にはカオマの町が見えるのみだ。
さて、そろそろ交配種の連中が来る頃だな……
ガサガサ
背後から物音!? 即座にハンドキャノンを創造!
物音の方向に銃口を向ける!
「誰だ!?」
「わ、私達です! ライト様! 交配種です!」
草むらから交配種の男が出てきた。ふー、驚かすなよ。
「すまんな。みんな着いたのか?」
「はい…… では計画通りカオマの町を探ってきます」
「あぁ、気を付けろよ」
交配種の男は足早にカオマの町に向かう。
これは彼らにしか出来ないことだ。
フィーネはビアンコだからネグロスに見つかったらすぐに捕まってしまうだろうし、俺はこの国の皇子、ルカをコテンパンにしてしまった。
ある意味お尋ね者だろう。それ以前に人族の俺がネグロスの町にいるだけで怪しまれるだろうしな。
交配種はネグロスに奴隷のように扱われてはいるが、この国に当たり前にいる存在だ。
不審な動きさえしなければ、町に溶け込むことが出来るだろう。
木を隠すなら森の中ってことだ。
さて、襲撃決行は深夜のはず。それまで何をするかな?
取り合えず一服しよ……
一人地面に座りタバコを吸っていると地下からフィーネが上がって来た。
「んー! よく寝ました!」
「おはよ、フィーネ」
「はい! おはようございます!」
フィーネは俺の横に座って頭を肩に乗せてくる。
フィーネの頭を優しく撫でながら……
「綺麗な国だな…… のどかで、静かで……」
「でも平和ではありません…… 多くの同胞が今も辛い想いをしていますから……」
「フィーネ。君にこんなことを言うのは心苦しいんだが…… 俺達はネグロスに勝つ。でもな、ネグロスの人の全てが悪いとは思えないんだ。今まで用意された常識に沿って生きてきただけさ。戦いが終わって俺達が勝ったら、ネグロス達はきっと絶望するだろう。フィーネはそんな彼等を見てどう思う?」
「それは…… 分かりません。今まで多くの仲間が彼等に殺されてきました。勝ったからといって、はいそうですかとネグロスを許すことは出来ないかもしれません……」
そうだな。ネグロスはビアンコ、交配種の親、兄弟を殺してきた仇なんだ。
許せない気持ちは分かる。でもな……
「これは俺のわがままだ。綺麗事に過ぎないから聞いてくれなくても構わない。でもな、やっぱり彼等を許してやって欲しいんだ。俺達の世界の諺でさ、罪を憎んで人を憎まずってのがあるんだ。フィーネが、いや、俺達が作り出す未来に憎しみは必要無いんだ」
「…………」
何も答えない。でもフィーネの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
ごめんな、フィーネは俺の大切な人なんだ。
愛するフィーネを憎しみの連鎖の中に放り込みたくはない。
フィーネもきっと理解してくれる。俺はそう信じて、彼女の肩を抱く。
泣き止む頃、交配種が帰ってきた。
さて、作戦開始だな。
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