第105話一緒に行こう

 目が覚める。俺の隣では桜とフィーネが気持ち良さそうに眠っている。

 時計を見ると午前三時をまわるところだった。


 黙って出ていくと二人が心配するからな。書き置きだけしておくか。

 二人に見えるよう、地下室の壁に書き置きを残す。

 これでよし……


【一日待っていてくれ。チシャを迎えに行く】


 駄目な父親だよな。自分からチシャを置いていくなんて言ったくせに。

 どう思われようが構わない。嫌われたっていい。

 夢の中で猫が俺に言ってくれたように、俺の本当の気持ちに従って動く。


 一人外に出てバイクに乗り込み、エンジンをかける!

 


 ドルンッ ドドッドドッドドッドドッ



 あれ? いつもとエンジン音が違うような…… まぁいいか。


 俺は南に向かってバイクを走らせた。



◇◆◇



 四時間後……


 俺はアジト前に着いてしまった。

 なんで!? おかしいぞ。一人で運転してたからかなり飛ばしたのは分かる。

 スピードメーターは振り切ってたしな。

 でも桜達がいるところまで八時間はかかっていたはずだ。

 その半分の時間で到着するなんて……


 色々気になることはあるが、それは後だ。

 俺はリアンナ奴隷解放戦線のアジトに戻ってきた。

 地下道を降りてチシャがいるであろう部屋に行く途中……


「ライト様!?」


 この声は? 後ろを振り向くとノアが驚きの表情で俺を見ていた。


「ノア! すまんがチシャはどこにいる!?」

「チシャ? チシャならライト様がいた部屋で寝てるはずだよ。あの子ね…… ライト様が出ていってから寝るまでずっと泣いてたんだ。お父さんお父さんって言ってね…… かわいそうで見ていられなかったよ……」


「…………」


 その言葉を聞いて胸が痛んだ。

 良かれと思いチシャを置いていくことを選んだのは俺なのにな。


「クロンに伝えておいてくれ。チシャは連れて行くってな」

「チシャを? 分かったよ。私もそっちの方がいいと思うからね。それじゃチシャのこと頼んだよ!」

「あぁ!!」


 ノアと別れ、チシャがいる部屋に。

 まだ寝てるはずだ。ノックをせずに中に入る。


 ベッドでチシャが寝息を立てている。

 チシャの顔を覗きこむと、その顔にはクッキリと涙の跡が。


 ベッドに座り、チシャの頭を撫でる。

 ピクピクと大きな猫耳が動いた後、チシャは目を覚ました。


「お父さん……?」

「…………」


 なんて答えればいい? 

 昨日良かれと思ってこの子を置いてきた俺がチシャに何を言えばいいんだ? 

 答えは出ない。ただ黙ってチシャを抱きしめた。


「お父さん…… お父さん……! 寂しかったよ! 会いたかったよ! やっぱり離れたくない! お願い! 一緒にいて! もう…… もう一人は嫌なの…… お父さんと…… みんなと一緒にいたいの…… うぇーん……」

「チシャ…… すまなかった。これからどうなるか分からないけど…… 一緒に行こう」


 俺の言葉を聞いてチシャの泣き声が止まる。


「お父さん……?」

「一緒に行こう。でも覚悟しておいてくれ。これからは今まで以上に厳しい旅になる。もしかしたらここに残った方が良かったと思うかもしれない。それだけ危ない場所に行くんだ」


「それでもいい…… お父さん達と一緒にいられるなら……!」


 そうか。覚悟はあるみたいだな。

 泣き止まぬチシャを抱っこしたまま地上に上がる……?


 あれ? 俺のバイクがおかしなことになっている。

 見慣れない付属品がバイクの横に付いて…… 

 ってこれ、サイドカー!?


「お父さんのバイク…… どうしちゃったの?」


 それは俺が聞きたいよ! まさか……


 俺はオドを練る。分析アナライズだ。自分に何が起こったのか確かめないと。

 するとそこには……



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:134

HP:2E+7 MP:2E+7 STR:2E+7 INT:2E+7

能力:剣術10 武術10 創造 10 料理10 結束 分析10 作成10 障壁10 閃光10 指圧10

魔銃10(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー スナイパーライフル アサルトライフル TLS) 血の輪舞

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ

アルブの恩恵8:フィーネと性交渉をすると発動。致死攻撃回避、MP自動回復、フィーネの能力を一つだけコピー可能

New! 亡き妻の加護(サイドカー、馬力向上) 守護者ガーディアン(愛する者を護るためステータス向上)



 うお…… なんだかすごいことになっている……


 新しい能力が二つ増えているな。

 亡き妻の加護でバイクにサイドカーが装着された。

 実際乗ったことは無いのだが…… 


 少しサイドカーを確認してみる。

 かなり大きいな。チシャと桜ぐらいだったら余裕で座れそうだ。

 それに馬力向上か…… 大型バイクはあまり乗ったことはないが、昔友人に借りたことがある。

 1300cc以上のハーレーだった。

 馬力が強すぎて俺には合わなかったのを覚えている。

 ここに来る時に感じた違和感はこれか。確かにあれぐらいのパワーはあったな……


 そしてステータス表記がおかしなことになっている。2E+7?

 たしかEって計算機だと10ってことだよな? つまり10の7乗……


 計算して驚いた。二千万って…… 

 インフレが過ぎる。俺は一体どうなってしまうのか? 

 まぁステータスはレベル差を埋めるための補正効果でしかないのは理解しているが二千万ってのはなぁ…… 


 だがこれから強敵に挑むんだ。ヴィルジホルツには奴がいる。

 ルカのお付きのバルゥとかいう奴だ。あいつのDPSは異常だった。

 あの時の俺では到底勝つことは出来ないだろう。


 この力があれば……


 新しい力に喜ぶのは後だ。今は桜達と合流しないとな。 

 チシャをサイドカーに座らせエンジンを始動! 


 はは、亡き妻の加護か。凪! ありがとな!


「チシャ! 飛ばすから大人しく座ってるんだぞ!」

「うん!」


 チシャは笑顔を俺に向ける。

 ははは、鳴いたからすがもう笑うとはこのことか。

 よし、行くぞ! しっかり掴まってろよ!



 ドルンッ ドドッドドッドドッドドッ


 ブロロロロロロッ

 


 俺は再び北に向けてバイクを走らせた。



◇◆◇



 四時間後。俺は桜達が待つキャンプ地付近に到着。まだ昼前か。


「チシャ! 疲れたか!?」

「ううん! すごいねこの乗り物! えへへ! ちょっと寝ちゃった!」


 バイクと違って乗り心地もいいみたいだな。

 風防も付いてるしほとんど車みたいなもんだ。


 ふと桜が俺を呼ぶ声が聞こえる。


「パパー! こっちだよー!」


 前方に桜が手を振っている姿が見える。桜の近くでバイクを停めて……


「待たせたな!」

「なに伝説の傭兵みたいなこと言ってんのよ! パパのバカ! 心配したんだから!」


 怒られてしまった。叱責は甘んじて受けよう。

 これは俺の思慮の無さが産んだ結果だからな。


「サクラお姉ちゃん!」

「チシャちゃん! 良かった…… ぐすん…… また一緒にいられるね……」


 サクラは涙を流しながらチシャを抱きしめる。

 その光景を見て、胸が暖かくなるのを感じた。これで良かったのかな? 


 俺の隣にフィーネがやって来て、そっと俺の手を握ってくれた。


「ライトさん……」

「心配かけたな。すまない。結局こんな形になってしまって……」


 フィーネはフルフルと顔を横に振る。


「いいんです。これで良かったんですよ。確かにチシャがいることで私達に危険が及ぶかもしれません。でも…… あの子も大切な家族。そうですね?」


 その通りだ。

 おっと、そうだ。フィーネに一言言っておかなくちゃ。


「フィーネ…… 俺は日本に帰った後、またこの世界に戻ってくる。何とかしてな。その後なんだが……」

「何ですか?」


「俺と一緒にならないか?」

「え? それって……?」


 はっきりは言わない。照れ臭いじゃん。

 はっきり言うのは全てを終わらせてからだ!


 フィーネは戸惑いながらも顔を赤くしている。

 この話の続きはまた今度だな。


「桜! フィーネ! 今日はここで一泊だ! 何でも好きな料理を言ってくれ! 俺が作る! ヴィルジホルツに行く前に壮行会をするぞ! 何が食べたい!?」


「ラーメン!」


 と桜がリクエスト。


「カレー!」


 フィーネはカレーが大好きだな! いいぞ!


「オムライス!」


 チシャのリクエストだ! ご飯物が二つ!? 


 ははは! いいともさ!


 俺は家族のために料理を始める。


 ワクワクしながら料理を待つこいつらを見て思う。


 この世界に来て良かったってね。だがまだやることはある。


 フィーネの願いを叶え、そして俺はケジメをつけに日本に帰る。


 そして凪に言わないと。


 ありがとうってな。

 それに許可を取らなくちゃ。フィーネと一緒になっていいかをな。

 必ずだ。


 これは俺が前に進むための絶対条件。これを完遂させて……


 本当の家族になる。この世界に飛ばされて、フィーネ、チシャと出会い、身の振り方を考えた。

 これからどうしようか考えた。

 そしてこれが俺が出した答えだ。


 今は未来の家族を楽しませることに集中するかな! 


 待ってろよ! もうすぐ出来るからな!

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