第93話ダンジョンでデート 其の五

 ここはダンジョンの九階層。時計を見ると…… 朝の八時か。

 俺の隣ではフィーネが寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。

 昨日はマッサージをしてあげたんだが、あまりの気持ちよさに風呂も入らず寝ちゃったんだよな。


「フィーネ、起きて」

「んー…… おはようございます……」


 今日はダンジョン最上階を目指す。

 恐らく上にはこのダンジョンの主たる魔物がいるはずだ。

 ここにいる魔物は総じてレベルが高い。

 ダンジョンマスターはそれ以上のレベルなんだろうな。


 戦いの前だ。しっかり食べておかなくちゃ。

 俺は調理に取り掛かる。作成でコンロを作ってパンを焼きつつ、目玉焼きを焼く。

 ソーセージを茹でて、葉野菜を千切りドレッシングをかける。


 モーニングの出来上がりっと。


「さぁ食べようか。コーヒーは後で淹れるよ」

「わー、美味しそう。いただきまーす!」


 フィーネは笑顔でパンに齧りつく。

 最近気付いたんだがフィーネって美味しいものを食べたり、何か嬉しいことがあったりすると耳が少し垂れるんだよな。

 今もだらしなく耳をヘニョらせている。

 はは、分かりやすくていいな。


「ん? どうしました? 私の顔にパンくずでも付いてますか?」

「いや、フィーネを見てたらさ、かわいいなって思ってさ」

「んふふ。誉め言葉ですね。ありがとうございます」


 あ、耳が更に垂れ下がった。もうフニャフニャだ。

 食事を終え、コーヒーを飲みつつ作戦会議を始める。


「フィーネ、この上にいる魔物だが……」

「はい、このダンジョンの魔物から察するにかなりの強敵ですね。どう戦いますか?」


 フィーネも俺もかなり強くなった。

 ステータスは俺の方が上だが、攻撃はフィーネに任せてもいいだろう。

 なら戦い方は……


「いつも通りで行こう。俺が前に出てヘイトを取る。フィーネは魔法で遠距離から魔物のHPを削ってくれ」

「はい。分かりまし……」


 フィーネが言葉を詰まらせる。

 恥ずかしそうにもじもじしてるな。


「どうした?」

「あの…… ちょっと気になることが…… 私のステータスを見てくれませんか?」

「いいけど……」


 言われるがままにフィーネのステータスを確認する。どれどれ?



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:20

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:132

HP:156241 MP:187490 STR:118741 INT:187434

能力:剣術8 武術7 火魔法9 水魔法9 風魔法9 空間魔法 生活魔法 結束

来人の愛(来人を守るため各ステータス+100000)



 あれ? フィーネの能力、来人の愛から付与効果が消えている?


「フィーネ、付与効果が消えてるんだが……」

「やっぱり! あの…… 昨日してませんよね? あの付与効果ってライトさんとしないと……」


 なるほどな。そういえば俺の能力、アルブの恩恵もフィーネと肌を合わせないと発動しないみたいだし。


 つまりこれは……


「…………」

「…………」


 お互い言葉は無いが思ってることは一緒だな。

 うん、これはしょうがないことなのだ。今から強敵に挑む。

 万全を期しておきたい。


「なんだか汗かいちゃったな…… 風呂入ってから行こうか?」

「そ、そうですね…… そうしましょうか……」


 急遽風呂に入ることに。

 時間が無いのでそのまま風呂の中で燃え上がった。



◇◆◇



 ふぅ。戦い前に別の戦いをすることになるとは。

 しかし、これでフィーネも俺も致死攻撃を防ぐことが出来る。

 改めて準備完了だ。


「行くか!」

「はい!」


 二人で最上階を目指す。階段を上がったらダンジョンマスターがいるはずだ。

 案の定階段を上がりきるとひと際禍々しい扉が行く手を阻む。


「いるな…… ヴェレンのダンジョンと一緒だ」

「はい…… 気を付けていきましょう……」


 フィーネの表情が変わる。戦士の顔だ。かわいいから凛々しいに変化したって感じかな。

 二人で扉を開ける。ギィーっという音を立て扉が開く。

 中は…… だだっ広い空間。縦横二十メートルの正方形って感じだ。

 何も無いな。真ん中にある青白く光る魔法陣を除いては……


「ライトさん…… 構えてください……」

「あぁ……」


 俺はハンドキャノンを。フィーネは剣を構える。


 少しずつ魔法陣に近づいていく。


 すると魔法陣は強い光を放ち…… 



 スゥゥ……



 その上に半透明の幽霊のような魔物が現れる。


 その姿…… ボロボロの法衣のような服を身に纏っている。

 顔はほとんど白骨化している。

 申し訳程度に干からびた皮が顔に張り付いている。


 すぐさま分析を発動! 魔物のステータスを確認する!



名前:レイス(???)

種族:アンデッド

Lv:302

DPS:35421

HP:32401 MP:109283 STR:0 INT:209845

能力:全属性魔法10 回復10 物理無効 憑依


 

 強い! しかも物理無効かよ! 

 俺は即座にアサルトライフルに持ち替える! 

 攻撃魔法を使えない俺にとってこれが唯一の属性攻撃になるからだ。


「フィーネ! 気を付けろ! こいつに物理攻撃は通用しない! 魔法で戦うんだ!」

「はい! アルラ アルラ バラモス ルルス! エアハンマー!」



 ゴゥンッ



 色の付いた空気の塊がレイスを襲う! 

 フィーネの魔法がレイスに当たる瞬間……


『キャアァァ……』


 ガラスを引っ掻くような悲鳴をあげてレイスが消える……?


「フィーネ! こっちだ!」

「え!? はい!」


 フィーネが俺と背中を合わせる! これで三百六十度の視界を確保する! 

 且つて遊んでいたFPSでよく使った戦い方だ。遮蔽物のないマップではこれが有用だったな。


「どこにいるんでしょうね……?」

「分からん…… でもいつでも攻撃出来るようにしておいてくれ……」

「はい……」


 どこだ……


 嫌な空気が流れる……


 ふと…… 目の前の空間が歪……!?


 

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタンッ



 アサルトライフルのトリガーを引く! 


「フィーネ! あそこだ!」

【アグニ アグニ アグニス マルス! 炎の槍!】



 ドシュドシュッ ザクッ



 フィーネが魔法を唱え宙に出現した槍がレイスに命中! 

 俺もアサルトライフルを連射!


 俺達の攻撃をもろに喰らったレイスは大きくノックバックする! 

 ステータスを確認!



名前:レイス(???)

種族:アンデッド

Lv:302

DPS:35421

HP:29452/32401 MP:109283 STR:0 INT:209845

能力:全属性魔法10 回復10 物理無効 憑依憑依



 よし! 三千程度は削れたか! 充分に勝てる相手だ!


『キャアァァッ……』


 悲鳴をあげて再び消えるレイス。


 俺達も再び背中を合わせる。


「いいコンビネーションだな!」

「ふふ! そうですね! ライトさんとだったらどんな敵でも勝てる気がします!」


 はは、それは昔クラメンからも言われたことがあるな。


 さぁ来い。返り討ちにしてやる。


 だが俺の思いとは裏腹にレイスは一向に現れない。


「どこだ……?」

「出てきませ……? え……? あぁぁぁぁ……」

「フィーネ? フィーネ!?」


 後ろを振り向く! フィーネの体がガタガタと震えている! 

 レイスの攻撃!? どこだ!?


 フィーネの体を確認! 足元だ! 

 レイスがフィーネの足首を掴んでいる! 

 フィーネに当たらないようアサルトライフルを発砲!



 タタタタタタタタタタタタタタタンッ



『キャアァァ……』


 金切り声を上げてレイスが消える! 

 フィーネの正面に回り怪我がないか確認する!


「フィーネ! 大丈夫か!?」

「…………」


 なんだ? 様子がおかしい。

 視線が定まっていない。体は震え続けている。

 ど、どうしたんだろうか?


「フィーネ……?」

『ふふふ……』


 フィーネは口元を歪め薄笑いを浮かべ、ゆっくりと剣を抜いて……


『ふふふ…… あははははははっ!』



 ブォンッ 



 フィーネが俺に斬りかかってきた!? 

 何だ!? 理解出来ない!?


「どうした!?」

『あははははははっ! 死んで! 死んでよ!? みんな死んで!!』


 斬撃が俺を襲う! やばい! 避けきれない! 仕方ない!


【障壁!!】



 ブォンッ ガキィンッ


 とっさに障壁を張りフィーネの斬撃を防ぐことが出来た。一体何があった? 

 俺は目にオドを込め分析を発動。フィーネのステータスを確認。

 すると……



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ(憑依)

年齢:20

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:32

DPS:15680

HP:156241 MP:187490 STR:118741 INT:187434

能力:剣術8 武術7 火魔法9 水魔法9 風魔法9 空間魔法 生活魔法 結束

付与効果:来人の愛(HP、MP自動回復。状態異常回避。一度だけ致死攻撃から回復。来人を守るため各ステータス+100000)



 憑依!? これか! フィーネは体を乗っ取られてるんだ! 

 やばいな。どうするか。

 何とかフィーネの体からレイスを追い出す方法を考えないと……


 幸い俺の障壁は全ての攻撃を防ぐ無敵の盾だ。

 フィーネの攻撃をやり過ごすことは出来る。

 俺が障壁の中で考えてる間もフィーネは笑いながら剣を振り下ろし続ける……


『あははは! ねぇ! なんで!? なんで私が殺されなくちゃいけないの!? 熱いよ! 熱いよ!!』


 熱い? よく分からないことを口走っているが、これはレイスの記憶なのか?


 フィーネは突如動きを止める。俺と距離を取って……


 ゆっくりと振り向いて……


 自分の首筋に剣を当て……


 まさか……!?


『あははは…… もういい…… こんな世界…… 滅びればいいのよ!!』

「止めろー!!」


 障壁を解除! フィーネを止めなきゃ!


 俺はフィーネに駆け寄って……



 ニヤッ……



 フィーネが俺を見て笑う。

 

 しまった。


 これは罠だ。


 フィーネは首筋に当てた剣を大上段に構える。


 走り出した勢いを止めることは出来ない。


 障壁を張るか?


 駄目だ。間に合わない。


 どうする? このままフィーネに斬られるのか?


 一瞬の間に様々な思考が頭を過る。


 フィーネの剣が俺の目の前に迫っている。




 桜、ごめんな



 

 最後に頭に思い浮かんだのは桜の笑顔だった。


 俺は目を閉じることしか出来なかった……


 

 ……



 …………



 ……………………




 ん? いつまで経っても斬られた感触がしない。痛みも無いし…… 


 俺は一瞬で死んでしまったのか?


 ゆっくりと目を開けると…… 


 フィーネの剣が俺に当たる前に寸止めされていた。


 フィーネはワナワナと震え、ゆっくりと口を開く。


 そして驚きの言葉を口にする。




『あなた…… 日本人……?』




 フィーネではなく、レイスの言葉か。考えてた通りだな。


 そう、レイスも恐らく俺と同じ日本人だったんだ。

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