第90話ダンジョンでデート 其の二

 俺達はダンジョン……っていうかピラミッドの中に足を踏み入れる。

 入り口は狭いな。人が一人通れるぐらいの広さしかない。

 中は言うに及ばず真っ暗だ。ここはフィーネにお願いしよう。


「フィーネ……」

「はい。光あれライト……」


 フィーネが魔法を唱えと、差し出した手から光の玉が表れ宙を漂う。


 ふよふよと宙を漂った後、光の玉は弾ける! 

 閃光が内部を照らす! 眩しっ!


 光が弱くなり、辺りを確認する……


 驚きの光景が広がっていた。

 入り口は狭かったのに、通路が広すぎる。

 縦横共に十メートルはあるんじゃないか?


「おかしい……」

「おかしい? 何がですか?」


「いや、俺の世界でもピラミッド…… ダンジョンではないけど、これによく似た建築物はあったんだ。でも確か中はこんなに広くはなかった。一人か二人通るのがやっとだった……はずだ」


 テレビで見た記憶だけどな。

 建設のことは詳しくないが、大質量を支えているのに、こんな空間があったら崩落の危険があるのではないだろうか? 

 そう思うと恐くなってきた……


「恐らく何らかの魔力が働いていると思います。ヴェレンのダンジョンを覚えてますよね? 十階層ごとに外界のような空間が広がってたじゃないですか」


 確かにそうだ。不思議な空間だったな。

 地下に進むダンジョンのはずなのに、何故か空が見えたり、草が生えてたり。


「理由は分からないが、この広さだ。俺達も魔物も戦いやすい空間だな」

「そうですね。ですが、遮蔽物が何もありません。防御はしっかりしてないと……」


 フィーネの言う通り、だだっ広い通路が先に続いている。

 この手のマップって苦手なんだよね。

 俺のメイン武器のハンドキャノンは威力は高いがレートが低い。

 先手を取らないと撃ち負けてしまう場面も多々あった。


 そんな中で俺がキルレを2以上に保てたのはマップを覚えて身を隠しながら戦ってたからだ。


 どうする? 俺には障壁があるからヘイトを取りつつ、攻撃はフィーネに任せるか?


 しかし、フィーネは意外な提案をしてきた。


「ライトさん、魔物が出たら一緒に前に出て戦いませんか?」

「前に? 一緒にって…… 何か理由でも?」


「試したいんです…… 最近レベルが上がったのを実感してて。それに…… ライトさんに守られるだけなのは嫌なんです。私もライトさんを守りたいですし……」


 なるほどね。確かに今のフィーネは俺以上に強い。

 レベルは高いし、来人の愛という謎の能力でステータスがプラス十万されている。

 魔物に与えるダメージなら間違いなく俺以上だろう。


「そうか…… でも無理しないようにな。戦闘が始まったら障壁を張っておく。危なくなったらその中に逃げ込むんだ」

「んふふ。心配してくれるんですね。ありがとうございます」


 フィーネは満足そうに笑うんだが、心配もするさ。

 俺は一度フィーネが死にかけたところを目の当たりにしている。

 いや、ナタールから救い出した時も含めると二回目か。


 もうそんな想いはしたくないからな……


「とにかくだ。無理はしないよう約束をしてくれ」

「はい!」


 足取り軽く先に進む。

 このダンジョン…… 特に分岐などは無く、道に迷うということは無さそうだ。


 おかしいな。俺も一応はRPGなんかは一通りやった口だ。

 ダンジョンっていうのは迷路のようになっていてある程度中をさ迷うことになるのが普通なのに。


 何かあるな…… 警戒しつつ先に進む。

 突如フィーネが立ち止まり、自慢の長い耳をピコピコ動かし始める。


「ライトさん…… 来ます……」


 来る? そうか、魔物だな? 

 戦闘態勢に入る。

 即座にハンドキャノンを創造し、先の暗闇に向かって構え……


 暗闇の中からゆっくりこちらに近づいてくる影が三つ程見える……


 その姿は……


 全身を包帯でグルグル巻きにされている。

 その隙間から見える腐った体…… 

 うぉ…… ミイラだ。RPGで言うところのマミーだな。

 ボタボタと腐肉を自らの体から落としながら近づいてくる。

 気持ちわる…… 


「アンデッド…… 初めて見る魔物ですね……」


 フィーネが剣を構える。


「いきなり突っ込むのは無しだぞ。まずは分析だ。ちょっと待っててくれ……」


 目にオドを込め分析アナライズを発動……



名前:マミー

種族:アンデッド

Lv:151

DPS:9582

HP:54207 MP:45074 STR:57421 INT:12452

能力:火魔法6 風魔法5 吸血(ライフドレイン)


 

 うお…… 強敵じゃん。アンデッドのくせに魔法も使えるのか。

 近距離、遠距離をこなすオールラウンドプレイヤーだな。

 苦手な相手だ。


 先日戦ったサーペントよりは弱いが数が多い。ここは慎重に……


 丹田でオドを練ってから……


 外に放つ!


【障壁!】



 ブゥゥンッ

 


 直径三メートルはあろうかという球状のバリアーが俺を包む。

 障壁のレベルが上がったせいか、一度障壁を張っておけば障壁内部に出入り自由なのだ。

 ゲームには無かった能力なのだが、地味にありがたい。


「フィーネ! 危なくなったら避難しろよ!」

「はい!」


 さて戦闘開始だ! フィーネが剣を構えつつ魔法を唱える!


【アグニ アグニ アグニス ダロス! フレイムウォール!】


 ゴゥっと大きな音を立て炎の壁がマミーを包む! 

 だがマミーはものともせずこちらに向かって…… 


『ヴ………!』



 ドヒュッ



 速い!? アンデッドとは思えぬ速さで俺達に突っ込んできた! 

 腕を振りかぶってフィーネに手刀を振り下ろす!


 やらせるか! 俺はハンドキャノンでマミーの腕を狙う!



 ドドドドドドンッ



 俺のハンドキャノンはレートは低いが六連射までは可能だ。

 放たれた弾丸は肩口から二の腕を撃ち抜く! 



 ドサッ



 マミーの腕が千切れ、地面に落ちる。すぐさまマミーのステータスを確認!



名前:マミー

種族:アンデッド

Lv:151

DPS:9582

HP:25701/54207 MP:45074 STR:57421 INT:12452

能力:火魔法6 風魔法5 吸血(ライフドレイン)




 いい感じにHPが削れてるな! とにかく数を減らさないと! 

 俺はハンドキャノンを後方の二体に撃ち込む!



 ドドンッ



『ヴ……?』


 攻撃を喰らったマミーが俺に向かってくる! 

 よし! ヘイトは俺に向いている! 

 アンデッドとは思えない程の速さで襲ってくるが、俺は既に障壁の中にいる。

 障壁を破ろうとガリガリ爪を立てているが…… 

 この障壁は特別でな。かつて遊んでいたFPS、レイドのボスですらこの障壁を破ることは出来なかった。

 その代わり俺も一切攻撃が出来ないんだけどね……


 俺が二匹を相手している間に……



 ブォンッ ザシュッ



 フィーネは大上段からマミーに剣を振り下ろす!


『ヴゥ……』


 マミーはバックステップで剣撃を避けてから貫手をフィーネの喉元に!?


「危な……!」「しっ!!」


 フィーネの独特な掛け声。

 振り下ろされた剣をそのまま上に斬り上げる! これは……



 ズバァッ



 燕返しだ。二の太刀を股下から喰らったマミーは真っ二つになる。

 すごいな…… フィーネはマミーを倒したのを確認すると、今度は俺の援護にまわる。


「ライトさん! 一匹は私が!」

「おう! 任せた!」


 障壁を解除! 俺の障壁は解除する時任意で衝撃波を放つ。

 ダメージは少ないものの周りにいる敵をノックバックさせることが出来る。


『ヴゥゥ……』


 マミーが大きく態勢を崩す! 

 チャンス! ハンドキャノンからショットガンに持ち代える! 

 弾丸はもちろんスラッグ弾だ!


 マミーの足元に銃口を向けて……


 ドドドドドドドドドドンッ


 十発のスラッグ弾を喰らいマミーの体には大きな穴が開く。


『ヴァ……?』


 何が起こったのか分からないような呻きを上げてマミーは地面に吸い込まれるように倒れる。

 あと一匹! リロードしてから…… 

 いや、その必要は無いみたいだな。

 フィーネの突きがマミーの顔面を貫いている。


『ヴ…………』


 呻くマミーを気にすること無くフィーネは剣を横に走らせ…… 



 ズバッ



 マミーの頭を両断した。

 すご…… フィーネってこんな強かったっけ? 


「ふぅ! 何とかなりましたね!」

「お見事…… 無傷の勝利だな」


 フィーネは剣を鞘に戻してから笑顔に戻る。

 いつものかわいい笑顔だ。


「うふふ。誉められちゃいました。ん? これは……?」


 フィーネが動かぬマミーの体から何か抜き取る。 

 キラキラと輝くそれは…… 拳大の大きな宝石だった。


「これはドロップ品ですね。価値は分かりませんけど、こんな大きな宝石…… いくらになるんだろ?」


 桜の付与効果のおかげだな。早速ドロップ品を手に入れることが出来たか。

 他の二体からも宝石を手に入れることが出来た。


 幸先の良いスタートだな。このまま先に進むとしますか!



◆◆◆◆◆◆



 これまでのドロップ品


 ダイヤモンド×3(マジッククラス)

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