第79話愛してる

 フィーネを救出してから二日目。

 俺は今リアンナ奴隷解放戦線のアジトにいる。


 目の前にはベッドで横になるフィーネ。

 その顔は…… よかった。いつも通りの可愛い寝顔だ。



 トントン



 誰だ? 部屋に入ってくるのは…… 

 桜とチシャだ。二人は心配そうにフィーネの顔を覗く。


「どう? フィーネちゃん起きた?」

「いや、まだだよ。かなり疲れたみたいだしな」


 フィーネを助けてから丸二日経つが彼女はまだ眠ったままだ。

 最初にフィーネを見た桜とチシャは泣き出しちゃってな。

 無理もない。フィーネの状態は酷いものだった。

 だが桜のチート回復魔法、エスクトラヒールのおかげで元通りの傷一つ無い、いつものフィーネに戻すことが出来たわけだ。

 恐らく目覚めないのは疲労からくるもの……だと思う。

 一つだけ心配なことがある。それは……



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:72

HP:8951(50000) MP:9817(50000) STR:1753(50000) INT:10824(50000)

能力:剣術5 武術6 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法 結束

付与効果:人のキス(一度だけ致死攻撃から回復、且つ状態異常回避、MP自動回復)

状態:恐怖



 フィーネの状態に恐怖という項目が加わっていること。

 これは俺の付与効果や桜の回復魔法では治せないみたいだ。

 チシャが心配そうにフィーネの頭を撫でる。


「お姉ちゃん…… まだ起きないのかな?」

「フィーネは疲れてるんだ。もう少し寝かせてあげような?」


「うん……」


 チシャはフィーネが酷い目に会ったことを自分のせいだと思ってるんだろうな。

 チシャを抱きしめる。


「はわわ」

「大丈夫だよ…… フィーネはきっと起きるから……」


「うん……」


 桜も心配そうに……


「パパ、寝てないんでしょ? 目の下に隈が出来てる。無理しちゃダメだよ?」


 え? 俺の心配だったか。

 確かにフィーネを助けてから彼女につきっきりだしな。

 一応は寝ているのだ。椅子に座ってだが……


「少しはベッドで寝なよ。疲れが取れないよ? そんなんじゃフィーネちゃんが起きた時に倒れちゃうよ?」

「大丈夫……じゃないよな。分かった。それじゃ…… 少しだけ休むかな……」


 俺は床にクッションを置いて、そこに横になる。


「分かってないじゃん…… 私はベッドで寝なって言ってるの! ほら起きて! フィーネちゃんは私が見とくから!」

「いや、でもだな……」


「ダメ! ほら行った行った! チシャちゃん! パパをお部屋に連れてって!」

「うん! お父さん、行こ!」


 桜とチシャに強引に起こされ、俺はフィーネのいる部屋を追い出される…… 

 しょうがない。少しだけ寝るかな。

 腕時計のアラームを三時間後にセットしてから横になる。

 あれ? チシャが一緒にベッドに潜り込んできた。


「お父さんとお昼寝ー」


 そう言って抱きついてく……



 …………



 ……………………



◇◆◇



 ブブブブ……


 ん…… 寝てたか…… 

 隣ではチシャが寝息を立てている。

 腕時計のアラームを止めてから、チシャを起こさないようにベッドを抜け出す。

 いてて…… 俺も疲れてるんだろうな。体のあちこちが痛い。

 若いとは思っていても実際には四十だし。体力の衰えを感じるな。


 気だるい体に鞭うってフィーネがいる部屋に戻る。


 扉を開けると桜が椅子に座ってうたた寝をしている。桜の肩を叩いて……


「んあ? パパ……」

「ありがとな。少し休めたよ。交代しようか」


「そうだね。フィーネちゃんも目が覚めた時に誰かいた方がいいもんね」

「あぁ。お前も寝てこい。チシャが部屋で寝てるんだ。一緒に寝てきな」


「うん。ふぁあ…… それじゃお休みね……」


 桜は部屋を出ていく。お休みな、桜。

 俺はフィーネが寝ているベッドの横に椅子を置いて…… 

 彼女の手を握り、頭を撫でる。可愛いおでこにキスをする。


「ん……」


 フィーネは目をぎゅっと瞑ってから…… 

 ゆっくりと目を開ける。起きたか。よかった……


「フィーネ?」

「いやぁぁぁ! 止めて! 助けて!」


 突如フィーネが暴れだした!? 

 急ぎ彼女を抱きしめて落ち着かせる!


「大丈夫!! 俺だ!! 来人だ!!」

「いや! お願い! 酷いことしな…… ライトさん……?」


「そうだ! 俺だ!!」


 フィーネはぼんやりと俺の顔を見て…… 

 そして泣き出した。


「う…… ふぇーん…… 怖かったよ…… 痛かったよ……」

「大丈夫…… 大丈夫だ……」


 フィーネを抱きしめるが…… ガタガタと震えている。

 これが恐怖か。PTSDってやつだな。

 フィーネを包容から解放し顔を合わせる。

 いつもの可愛い顔には恐怖が滲んでいるようだ。


「こ、怖かったんだよ…… 酷いことされたの…… 私の指を…… 目を…… 耳! 私の耳!!」


 フィーネは混乱したように自分の耳を触る。

 ちゃんと自分の耳があることが分かったら少し安心したのか、涙が止まる。


「耳がある……? う…… うぇぇん……! ライトさん! あのね…… あいつらね…… 私の耳を……」


 再び泣き出す。恐怖の記憶を次々に思い出し、フィーネは苦しんでいる。

 これは魔法では治せないだろう。


 かわいそうに…… 代われるものなら代わってあげたい。

 それは出来ないのだから、彼女にしてあげられる最善のことをしてあげよう。


 俺がフィーネにしてあげられること…… 

 なんだろうか? 分からない。こういう時は……


 そうだ。俺がフィーネにしてあげたいじゃなくて、俺がフィーネにしたいことを考えよう。


 それは…… するべきではないのは分かっている。

 いや、その内しようとは思っていたのだが…… 

 フィーネを助けるためだ。彼女の心が壊れる前に…… 

 俺が出来る精一杯のことをしてあげよう。


 流れるフィーネの涙を拭いてあげてから……


 軽くキスをする。


 そして……


 フィーネの耳を噛む。


 優しく…… 気持ちが伝わるように……


「フィオナ……」

「…………?」


 フィーネのもう一つの名前を呼ぶ。


 桜に教えてもらったんだ。フィオナっていうのはフィーネの聖名。

 神とつがいになる者しか呼んではいけないらしい。


「ライトさ……? ん……」


 深めのキスをしてから……


 これは言葉にして言ったことはない。


 言ったら確実に引き返せなくなる。


 それだけ俺にとって重い言葉だ。


 だがフィーネが相手なら……

 

 キスをしながらフィーネを優しく押し倒す。


 口を離しお互いの目を見つめ合う。


 俺がフィーネに言う言葉。


 ごめんな、凪。これを君以外の女性に言うことになるなんて。


 自分の気持ちに嘘は付けない。


 フィーネの心を埋め尽くしている恐怖を喜びに変えてあげたい。


 だから俺は言う。


 フィーネが大切な人だから……



「愛してる」

「…………」



 フィーネの目から再び涙が溢れだす。


 これは…… 喜びの涙だな。 


 再びキスを交わし、フィーネの服を脱がす。


 彼女は恥ずかしそうに俺を受け入れる。


 最後の一枚を脱がし……


 

 これ以上は言う必要無いよな?












 隣ではフィーネが横になっている。裸でだ。

 女性と肌を合わせるのは何年ぶりだろうか? 

 久しぶりの行為の相手が異世界人になるとはね…… 

 人生何が起こるか分からないもんだな。


 気を失うように眠っているフィーネの顔を撫でる。

 あれ? シーツには赤い染みが…… 初めてだったか。

 俺は上手く出来ただろうか? 

 久しぶりだったので少々興奮してしまった。

 痛い想いをさせなかったか心配だ。


「んぅ……」


 少し目を開けたフィーネが抱きついてきた。



「大丈夫? 痛くなかったか?」

「少し痛いです……」



「そうか…… ごめんな」

「ううん…… ライトさんにされるなら……」



「そっか」

「…………」



「どうした?」

「お腹空きました……」



「作るよ。何が食べたい?」

「カレーライス…… デザートにスイートポテトも……」



「いいよ。それじゃ作ってく……」

「行かないで…… やっぱりもう少しそばにいて…… 私を抱きしめて……」



「いいよ」

「ん…… ライトさん……」



「どうした?」

「もう一回してください……」

 


「優しくするから」

「はい…… それと……」



「なに?」

「もう一回言ってください……」



「フィオナ?」

「それも嬉しいけど……」



「あぁ、そうか。照れるからあんまり言いたくないんだけどな」

「でも言ってください……」



「愛してる……」

「もう一回……」



「愛してる……」

「私もです……」



 キスを交わし、俺達は再び一つになる。


 異世界転移して…… フィーネの気持ちを知って…… 


 これからどうしようか考えたけど……


 ははは、もう引き返せないみたいだな。

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