第53話歓迎会

 ドン ドコ ドン 

 ドコドコ ドン


 町の中央では火が焚かれ、太鼓の音が響き渡る。

 火の回りには住民が大勢集まっているな。

 町長のフワルに俺達の歓迎会をするから顔を出せと言われ、ついて来たら…… 

 まるで祭りが始まるみたいだ。


 フワルは既に地面に蓙を敷いて、座りながら酒を飲んでいる。


「なぁ、歓迎会って聞いたんだがこんなに盛大にやらなくても……」

「ははは! 気にするんじゃないよ! 収穫祈願の祭りとあんたらの歓迎会をまとめてやっちまおうと思ってね! 楽しんでおくれよ!」


 なるほどな。中々生産性の高い考え方だ。

 収穫祈願か。日本でいう秋祭り的な感じなのかな?


 俺達も用意された蓙に座ると、係りの者だろうか。

 獣人達が酒と料理を出してくれた。


「さぁたんと食っとくれ! 酒も…… そうか、あんたは飲めないんだったね。全く、酒が飲めないなんて人生半分損してるよ!」


 それはかつての上司によく言われたな。

 でも酒が飲めないからこそ飲み会に参加せず家族の時間を増やすことが出来たんだ。

 損してると思ったら大間違いだぞ!


 まぁそんなことフワルに言っても始まらん。

 せっかく彼女が用意してくれたんだ。

 ありがたく楽しませてもらうとするかな。


「俺は水でも充分楽しめるよ。フワル、歓迎会を開いてくれてありがとうな」


 あ、なんかフワルの顔が赤くなった。もう酔ったのかな?

 

「そ、そうかい? あんたがそう言うならいいけど…… そうだ! もし物足りないと感じたら言っとくれ! あんた女はいける口だろ!? 娘がいるくらいだ! 一人寝が寂しかったらあたしが……」「ストップ。それ以上言わないでいいから」


 なんなんだこの女は!? いや、フワルだけではないな。

 以前訪れたアバルサでは犬獣人のアイシャに寝込みを襲われたし。

 この国の貞操観念は一体どうなっているのだろうか……?


 なんかフィーネが俺の腕にしがみついてフワルを睨み付けている。

 フワルに聞こえないようにして……


「こらフィーネ! そんな顔をするんじゃない! ところでさ、この国では人族がモテるのか? アイシャといい、フワルといい俺に言い寄ってくる理由が分からん……」


 フィーネはちょっとムスッとした顔をする。


「獣人は強い異性に惹かれる傾向があるんです…… ライトさんはガロでデスハンドを退治して、アバルサではオークを退けたでしょ? ティシュラではルカをやっつけたし……」


 強い異性か。それがモテるポイントなのね。

 俺が独り身であれば嬉しいとこだけど……


「まぁいいさ! 今は祭りを始めよう! ほらみんな! 聖女様と豊穣神に踊りを捧げるんだ!」

「「「うおぉー!」」」


 フワルの声を皮切りに火を囲んでいた住民が雄叫びを上げる! 

 獣人達は…… あれ? なんかみんな服を脱ぎ始めたんだが……? 


 半裸になった獣人達は思い思いに踊り始める。 


 腰を振り……


 体をくねらせ……


 あ、桜とフィーネがポカーンてしてる。


「パ、パパ? これってなんなの……?」

「俺もよく分からんが…… 確か日本でも裸祭りってあるだろ? あれは生まれたままの姿、つまり無垢な姿で神様と交渉を行う意味があるらしい。多分それに近い……と思う」


「そ、そうなんだ……」


 日本にも奇祭の類いはあれど実際見たことはないし。

 あ、なんか半裸のセクシー猫獣人が俺の目の前にやって来て、腰をクネクネ踊り始める……


「ウフフ…… 今夜のお相手はいかがですか?」


 結構です…… ひとしきり踊った後猫獣人は去っていく。

 だが今度は垂れ耳のかわいこちゃんがやって来ておしりをフリフリ……


「んふふ…… ステキな方。いつでも私の寝所にいらしてね……」


 行きません…… なんだか俺に対するアピールが続く。

 最終的に総勢十名を超える半裸の集団に囲まれてしまった。

 もう…… 止めて下さい……


 呆気に取られている俺とは対照的にフワルはとても楽しそうに笑う。


「ははははは! これで今年のイリュザは大丈夫だね! 神様もきっと喜んでるよ!」

「そ、そうか…… ところでさ、もうすぐハガーブって魔物がやって来るんだろ? いつもどうやって追い払ってるんだ?」


「そうだね…… やつらは空を飛んでくる。空に向かって矢を放つんだ。落ちてきてもまだ生きてるやつもいるからね。そいつらは女衆が鎌で首を落とすんだ」

「なるほど。桜、フィーネ。今日はおいとましよう。帰って作戦会議だ」


「なんだい? もう帰っちまうのかい? 祭りはまだ始まったばかりだよ? この後が一番盛り上がるんだ! 全員下着を脱いでね……」「二人共! 帰るぞ!!」 


 桜とフィーネの手を引いて急いでフワルの家に戻る! 

 なんなんだ!? 奇祭にも程があるぞ! 

 流石に全裸祭りを二人に見せる訳にはいかん。


 部屋に戻ると二人は疲れたようにベッドに座り込む。

 まだポカーンってしてるな。


「な、なんかすごいお祭りでしたね……」


 若い二人にはかなり刺激が強かっただろうな。

 疲れてるところ申し訳ないが……


「フィーネ。一応聞いておくが、ハガーブ退治に参加してくれるんだよな?」


 あ、急に顔色が悪くなった。ハガーブは蟲の魔物らしい。

 フィーネは蟲が大の苦手だ。一緒に戦ってくれるのは嬉しいのだが……


「だだだ、大丈夫です! ハガーブなんて怖くありませんから!」

「そうか…… 作戦を話すぞ。さっきフワルも言ってたがな、俺は空を飛んでくるハガーブを迎撃する。フィーネには落ちてきたハガーブにとどめを刺してほしいんだが…… やれるか?」


 桜がフィーネを心配そうに見つめている。ならお前も戦えよ……


「でもパパ、さっき新しい武器を作ったじゃん。それを使って蟲をやっつけられないの?」


 それが出来たら一番なんだけどね。


「俺の武器、アサルトライフルだが弾数は多く、リコイルコントロールもしやすい。射程もそこそこ長い優れものなんだけど…… 一発の威力が弱いんだ。ダメージを与えることは出来ても俺一人で大群を殲滅するのは無理だろうな」


 俺のアサルトライフルはいわゆる手数武器。

 ダメージソースとしては優秀だか決定打に欠ける。

 一発の威力だったらハンドキャノンに遠く及ばないだろう。

 だが、弾数の多さからリロード回数が少なくて済み、かつ弾を長時間ばらまくことが出来る。

 敵の多いミッションではかなり有効な武器なのだ。


 まさに害虫駆除にはもってこい。問題はフィーネが蟲が苦手ということだけだ。


「ラ、ライトさんのためですもん。ハガーブなんて…… ふぇーん……」


 あかん。とうとう泣き出した。

 泣くぐらい怖いなら無理しなくていいのに。

 フィーネの横に座り頭を撫でる。


「よしよし。泣くなって。なんでそんなに無理しようとするんだ。俺一人だったら無理だけど、町のみんなも退治には参加するんだ。フィーネがいなくても大丈夫……」

「だめ! だって…… きっとフワルさんがライトさんに言い寄ってくるもん…… そんなのやだ!!」


 なるほどな。そういうことだったか。

 俺の気持ちをまだ伝えることは出来ないが…… 

 せめてフィーネの涙は止めてあげたいな。


「フィーネ。心配いらないぞ。フワルは美人だか俺の好みじゃないしな」

「ほんとに……?」


「本当だ。だからそんなに泣くんじゃない。そうだ、ハガーブを退治したら米を使った美味い料理を作ってやるからな。楽しみにしておけよ」

「ぐす…… はい…… 分かりました。そういえばライトさんはイリュザを使ってどんな料理を作るんですか? まだ聞いてませんでしたよね?」


 そうか、フィーネにはまだ伝えてなかったんだよな。

 先日桜の能力、無限調味料の中にどんなものがあるか調べてたんだよね。

 そしたら見つけたんだ。 


 俺が愛して止まない……


 日本では国民食に認められている……


 毎日食べても飽きることのない……


 家に帰った時にこの香りがしたらテンション上がること間違い無し……


 それは……


「カレーだ」


 そう、無限調味料の中にカレールーがあったのだ。

 俺は必ず米を手に入れる! そしてカレーを作るんだ!


「カレー? 美味しいんですか?」

「美味い! 間違いない! 絶対フィーネも気に入るはずだ!」


「ライトさんがそこまで言うなら…… 私カレーを食べてみたい! ライトさん! ハガーブ退治、がんばりましょうね!」

「おう! みんなで浴びるほどカレーを食うぞ!」


 さぁ、夜も更けてきた。寝る時間だな。

 明日はハガーブがやって来る。カレーのためだ!


 米は俺が守る!

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