第54話駆除

 奇妙な祭り兼俺達の歓迎会が終わった翌日。

 今日はハガーブなる魔物がやって来る日だ。

 フワルに連れられ町の中央にある広場に集まる。


 多くの住民がいるな。男はその手に弓矢を。女は鎌や鉈を手にしている。

 作戦は昨日フワルが言った通りか。


 住民に向かってフワルが激を飛ばす。


「いよいよハガーブがやって来るよ! 去年は収穫前のイリュザが半分喰われた! だが今年はそんなことはさせない! こっちには聖女の父! ライトがいるんだからね! みんなも知ってるだろ! ライトはガロ、アバルサを救っただけじゃなく、建国祭で耳長皇子をのした豪の者だ! 

 いいかい!? 今年はイリュザを全部守る! 蟲に食わせるイリュザなんて無いことを教えてやんな!」


「「「うおぉー!!」」」


 住民から雄叫びが上がる! これで士気は高まったな。

 フィーネは俺の横で震えているが。

 昨日の勢いはどこに行ったのだろう……?


「フィーネちゃん? ほんとにやるの?」

「だ、大丈夫よ! ハガーブを退治してカレーを食べるんだから……」


 死地に赴く友を心配しているのだろう。

 そんなに心配ならお前も参加しろよ……


「桜、よかったらお前も……」「絶っっっ対に嫌っ!」


 おのれ桜…… お前にカレーは食わさんぞ…… 


「さぁ、みんな行くよ!」


 フワルの号令のもと、俺達は稲田に向かう。黄金色に輝く穂波。

 美しい…… 古き良き日本を思わせる光景だ。ここが今から戦場になるのか。


「みんな着いたね…… それじゃ散開!」


 住民達は散らばって行き、この場には俺とフィーネだけが残される。

 さていつでも来い…… あ、その前に。


「フィーネ?」

「な、なんですか? って、ひゃあんっ!?」



 ギュッ チュッ



 フィーネを抱きしめてキスをする。軽くだけどね。

 こうすることで俺はアルブの恩恵という能力を発動出来る。

 フィーネも俺に抱きしめられたことで致死攻撃を避けることが出来る。

 ハガーブは弱い魔物だと聞くが一応念のためだ。

 ちゃんと付与効果は付いたかな? 確認しておこ。

 分析アナライズを使いステータスを…… どれどれ?



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:40

HP:68953 MP:99573 STR:50651 INT:89991

能力:剣術8 武術10 創造 10 料理8 分析7 作成7 

魔銃8:ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー スナイパーライフル

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ

付与効果:アルブの恩恵1(フィーネと口付けを交わすことで発動。一度だけ致死攻撃回避)

New! 魔銃(アサルトライフル)



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

レベル:55

HP:4059(20000) MP:5212(20000) STR:1301(20000) INT:8927(20000)

能力:剣術5 武術6 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法 結束

付与効果:来人のキス(一度だけ致死攻撃から回復、且つ状態異常回避、MP自動回復)



 よし、問題なさそうだな。フィーネを抱擁から解放してっと。

 あれ? そろそろ俺のキスには慣れてきたと思ったのに。顔が赤い。

 おかしいな。戦闘がある時なんかは毎回おでこにキスをしてたのに。


「フィーネ? 大丈夫か? すまんな。アルブの恩恵を発動するためには口にキスをする必要があるみたいで……」

「い、いえ。気にしてませんから…… んふふ」


 はは、照れてるだけか。さてと、気持ちを切り換えないとな。


「フィーネ…… 来るぞ!」

「え? は、はい!」


 東の空…… 雲の中に黒い点が現れる。

 次第と点は白い雲を黒く染めていく。

 そして聞こえてくる羽音……



 ブブブ…… 


 ブブブブブブ……


 ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ



 来た! ハガーブだ! 空一面に羽ばたく蟲の群! 

 その姿は…… これはイナゴか! でっかいイナゴだ! 


「フィーネ! 構えろ! 撃ち落とした蟲は頼むぞ!」

「はい!」


 アサルトライフルを空に向けて構える。


 超高レート。マガジンには二百五十発の弾丸が込められている。


 このアサルトライフルの名前はヘルメス。

 その由来はレートの高さにある。

 二百五十発の弾丸をわずかに二十秒で撃ち尽くす。


 しかも使う弾には氷属性が付いている。

 一発の威力は弱いが相手は蟲の魔物だ。寒さには弱いはず。

 ハガーブに対して有効なはずだ。


 トリガーに指をかける。



 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン



 ハガーブ目掛け発砲。はは、相変わらず静かな発砲音だ。

 ヘルメスの一撃を受けたハガーブがボタボタと地面に落下する。

 くそ、やはり多くはまだ息があるな。フィーネは俺の隣でアワアワしてる。


「フィーネ! やれるか!?」

「~~~もう! 行ってきます!」


 フィーネはハガーブ目掛け走り出す! 

 剣を抜いてギチギチ言いながら地面を這いずるハガーブを……


「シッ!」



 ザクッ ギチギチ……



 独特の掛け声と共に剣を振り下ろす! 

 ハガーブの首を難なく落とす。


「フィーネ! そいつだけじゃないぞ! 生きてるやつを見つけて始末するんだ!」

「もう! 分かってますよ!」


 ははは、やけくそになってるな。

 フィーネは怒りながらも次の獲物目掛け走り出す。

 さぁ、俺もがんばらなくちゃね! アサルトライフルを構え!



 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン



 相変わらずすごいな、このライフル。

 これでまだ半分も撃ち切ってないんだ。PVPで嫌われる訳だよ。

 後から撃っても撃ち勝てることだってあるぐらいレートも高いしな。


 その後も空に向かってアサルトライフルを撃ち続けるが、一向に数が減らない。

 どんだけいるんだよコイツら……



 ゴスッ ドサッ



「あいた!?」


 ん? フィーネを見ると…… 

 ハガーブの体当たりを喰らってしりもちをついてる。


「大丈夫か!?」

「う~、もう逃げたいです……」


 がんばれ! ハガーブを退治したらカレーを作ってやるからな!



 ドカン……



 ん? なんか遠くから爆発音が聞こえ…? 

 町の方から俺達の上空目掛け、赤く光る矢が撃ち込まれる。

 矢がハガーブの群に達した時……



 ドカン ドカン! ドカン!!



 空に響く爆発音! うわ!? これは……? 桜の爆裂の矢だ! 

 はは、自分は手伝わないって言ったくせに。

 あいつめ、ハガーブから見えない場所で援護射撃をしてくれてるんだ。


 羽を焼かれ、飛ぶことが出来なくなったハガーブが落っこちてくる。

 そいつらはフィーネに任せるか!  


「桜の援護だ! フィーネ! 今からもっと蟲が落ちてくるからな! とどめは任せるから!」

「も~いや~……」




 害虫駆除をし続けること六時間…… 

 ようやく空を埋めつくしていたハガーブの密度が薄くなってきた。

 さぁもうすぐだぞ! 

 新しいマガジンを創造し、リロード。残るハガーブを狙い……



 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタン



 トリガーから指を離す。

 マガジンを撃ち切る前に最後のハガーブが地面に落ちる。

 フィーネはそいつらに向かって……


「はっ! やぁ!」



 ブンッ ドシュッ



 最後のハガーブの首を落として…… 

 あ、腰が抜けたみたいだな。その場にヘナヘナと座り込む。

 少し心配なのでフィーネの様子を見に行く。


「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですぅ……」


 ははは、泣き言言ってる。まぁよくやったよ。

 一面首を失ったハガーブだらけだ。蟲が苦手なのによくがんばったな。

 桜も結局は手伝ってくれたし。見た感じ稲穂は無事みたいだな。


「よくやったな。偉いぞ」

「ふぇーん…… ライトさん…… 怖かったよぅ……」


 はは、また泣き出しちゃったよ。

 取り合えず俺達の仕事は終わりだな。

 これならフワルも米を売ってくれるだろ。

 さぁ、町に帰って一休みだ。


「フィーネ、帰ろうか。ってゆうか立てるか?」


 フィーネはフルフルを顔を横に振ってから両手を俺の前に。

 そして……


「抱っこして下さい……」


 はいはい。俺はフィーネをお姫様抱っこして町に戻って行った。

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