第52話害虫

 酒作りの町、テッサリト。

 この国での最終目的地でもあるこの町で俺達は米を買うために訪れた訳だが……

 何やら問題が発生しているようだ。

 町長の猫獣人のフワルが言っていたがもうすぐハガーブが来るとのことだ。

 ハガーブってなんだろ? いや、何にしても米を手に入れるためだ。

 何だってやってやるさ。


「フワル、もし良かったらそのハガーブを……」

「だめ! ライトさん、だめっ!!」


 なんだ? 俺がフワルに言いかけたところでフィーネが俺を止めるのだが…… 

 フィーネは俺を引っ張って、フワルと距離を離す。

 そして涙目で顔を横に振ってイヤイヤってしてる。


「どうしたんだ?」

「ライトさん、逃げましょう! この町にいちゃだめ!」


 すっごい怯えてる。

 フワルの様子から察するにハガーブってのは魔物なんだろうけど、このフィーネの怯えようは…… 

 相当危険な魔物ってことなんだろうか?


「フィーネ…… ハガーブってのは何なんだ? そんなにヤバいやつなのか?」


 フィーネはガタガタ震えながら口をパクパクさせている…… 

 百戦錬磨のフィーネがここまで怯えるとは…… 

 俺の心配を他所にフワルが突然笑い出す。


「あはははは! あんた耳長のくせにハガーブが怖いのかい!?」


 フワルは腹を抱えて笑ってるのだが…… 

 あれ? さっきはかなり困ってる様子だったのに……


「フワル…… 説明してくれないか?」

「あぁ。ハガーブってのは魔物の一種なんだけどね。かなり弱いよ。だからあんなのに怖がってるお嬢ちゃんを見てるとおかしくってしょうがないのさ。ハガーブなんて子供でも退治出来るのにね!」


 ん? 弱い魔物だと? 

 フィーネは冒険者。それもランクの高い銀級冒険者だ。

 この怖がり方と辻褄が会わないな。

 今度はフィーネが俺の胸に抱きついてくる。怯え方が尋常じゃない……


「でもさ、このフィーネの怖がり方を見ると…… フワル、もう少し詳しく頼む」


 フワルは呆れ顔で説明を始める。


「ハガーブってのはね、単体では弱いんだけど、なにせ数が多い。大群で行動するんだ。肉は食わないから、あたし達が襲われるってことは滅多にない。だけどさ、イリュザが収穫時期を迎えると毎年決まって大群で押し寄せるんだ。被害は年によってまちまちだけど、悪い年なんかは種籾すら残らない時もあるんだよ」


 なるほどね。

 つまりハガーブってやつの襲撃が終わってからじゃないと米を売ってくれないわけだ。

 それなら俺達のやることは決まってるじゃん。


「フィーネ、何をそんなに怖がってるんだ? フワルの言う通り数が多くても弱い魔物……」

「蟲なんです! ハガーブは蟲の魔物なんです!」


 あちゃー。そういうことだったか。

 確かフィーネは蟲が大っ嫌いだったはずだ。ヴェレンのダンジョンでも足がすくんで動けなくなるぐらいだったからな。


 これはフィーネは戦力外かな……? 

 それにしてもよくこんな調子で冒険者なんてやってこれたな。

 ここは俺と桜でがんばるしかないか。桜に視線を送る……が、一瞬で目を反らす。

 まさかお前も……


「桜……」「絶っっっ対に嫌っ!」


 まだ何も言ってないじゃないか……


「お前なぁ…… 桜だって米を食べたいって言ってたじゃないか。ここはグッと我慢してだな……」

「蟲を相手にするくらいなら一生お米を食べなくてもいいから! 私やらないからね!」


 そんなにかい…… むー、ここは俺一人でがんばるしかないな。


「フワル…… そのハガーブってやつだけど、もし俺が退治を手伝ってさ、米…… いや、イリュザが無事だったら売ってくれないか?」

「あんたが手伝ってくれるのかい!? そりゃ鬼に金棒だ! 確かあんたらはガロとアバルサも救ったんだよね!? こっちからお願いしたいくらいだよ!」


 おぉ、好感触だ。米を手に入れるためだ。

 ハガーブが何だか知らんが魔物に食わせる米はねぇ!


「それじゃ契約は成立だな。ハガーブってのはいつぐらいにやって来るんだ?」

「そうだね…… 太陽と月の動きから考えると、明後日には来るだろうね」


 明後日か。少し時間があるな。

 相手は大群だ。手持ちの武器では対応しきれないかもしれない。

 久々に創造するかな……


「分かった。それじゃ作戦もあるだろうから後で顔を出すよ。それまでどこか休めるところを……」

「それならここに泊まりな!」


 ん? ここにか? 

 前回はアバルサの町で町長のアイシャの家に泊まったが、彼女に寝込みを襲われたんだよな。

 まぁフワルはそんなことしないだろ。

 恐らく俺はフワルの好みの男ではないはずだ。

 見た感じ俺よりもいかつい男が好きそうなタイプだな。


「そうか。それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」

「ははは! 自分の家と思ってゆっくりしとくれ! あんたが望めばとぎだってしてやるからさ!」


「そうさせてもらう……?」


 ん? 伽ですと? 

 確か伽って……


「あの…… フワルさん……?」

「なんだい? あたしじゃ気に入らないってのかい? これでもこの町では一番の名器……」

「ストップ! それ以上言わなくていいから! 桜! 何も聞くな!」


 あぶねー…… 一体何を言い出すんだこの人は…… 

 ってゆうか、アイシャといいフワルといい、この国の人間の貞操観念はどうなっているのだろうか? 


 あれ? なんかフィーネがぷるぷるしてる。

 その顔は……怒りだ。かなり怒ってるな。


 フィーネが近寄ってきて鬼の形相で俺を睨む。超怖いです…… 

 なんかまたビンタが飛んできそうだな。

 俺の予想通りフィーネは手を大きく掲げて……!



 ブンッ ガシッ



 だがビンタが飛んでくることはなく、フィーネは俺の腕をガシッと掴んで……


「私も戦います!」


 え!? さっきまであんなに怖がったのに!? いきなりどうした!? 


「フ、フィーネ。相手は蟲なんだぞ? あんまり無理はしなくても……」

「やります! 絶対にやるんだから!」


 フィーネの表情は決意めいたものだった。

 不退転。まさにその表現がピッタリと当てはまる。戦いに赴く戦士の顔だ。

 まぁ、足はガタガタと震えてるのだが…… 大丈夫かな、この子?


「ま、まぁそんな無理をしないようにな」

「だ、大丈夫ですから! む、蟲なんてへっちゃらですし!」


 うーむ。これは大丈夫じゃないな。

 幸いハガーブは弱い魔物らしいから、フィーネにヘイトが向かわないように戦わないと。


 ならやっぱりアレが必要だな……


「なんだい? お嬢ちゃんも戦うのかい? ははは! さっきまで震えてたくせに! まぁいい! ほら、あんたらの部屋を用意するから上がっておくれ!」


 フワルに案内され、家の一室を借りることに。

 部屋は大きめのベッドが一つ…… 

 またみんなでぎゅうぎゅうになって寝ることになるんだろうな。 


 桜は荷物を下ろすと一人でベッドを占領する。


「はー、楽チン。でさ、私は戦わないけどハガーブってどんな蟲なんだろうね?」


 おま…… そんなことを言ってるとアレは食わさんぞ…… 

 まぁいい。取り合えず今は作戦会議だ。


「ハガーブか…… フィーネはどんな魔物か知ってるんだよな?」


 まだ俺の腕にしがみついている。よっぽど怖いんだな。


「ハ、ハガーブは個体の戦闘力は低いけど…… と、とにかく数が多いの! うぅ…… 想像しただけで寒気が…… やつらは空を飛ぶことが出来るから塀や柵は無意味なの。そしてね、田畑の作物を食い荒らす害虫として知られてるわ……」


 害虫か…… 数が多いのであれば、やはりあの武器が必要だ。


「フィーネ、ちょっと離れててな」


 しがみつくフィーネと距離を取る。


 目を閉じる。


 集中……


 イメージする……


 かつてはまったFPSを……


 この武器は嫌われものだった。


 PVPでこれを使うやつはファンメの対象だったな。


 装弾数二百五十発で超高レート。 


 そのくせ集弾率が異常に高く50メートル先からワンマガジン撃ち切っても全て的に命中させることが出来る。


 そしてこの武器が最も嫌われる理由。 


 俺が遊んでいたFPS内で唯一の属性持ちのメインウェポンだった。


 俺はPVEでしか使ったことが無かったな……


 創造する……


 最も嫌われたアサルトライフル……


 ヘルメスを……


 両手に重量を感じる。


 目を開けると…… 俺の手には白銀の銃身を持つアサルトライフルが握られていた。


「ラ、ライトさん…… それは……?」

「新しい武器だよ。効果は…… まぁごろうじろってとこだな!」


 さぁこいつを使って害虫駆除と行きますかね!

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