第50話待ち望んだ物

 ブロロロロッ! 



 街道をバイクで爆走中! 時速は80キロを超えている! 

 くそ! 直線だったらもっとスピードを出せるのに!


「ちょ!? パパ! 速すぎだって! 怖いよ!」

「きゃー! ライトさん! もっとゆっくり!」


 二人に促され、ようやく自分の犯した失態に気づく。

 しまった…… 十年間ゴールド免許を所持し、常に安全運転を心がけてきたってのに……


「す、すまん。どうやら我を忘れてたようだ……」

「全く。パパがテッサリトに早く着きたいっていう気持ちは分かるけど…… 私とフィーネちゃんも乗ってるんだからさ。少しは落ち着きなよ……」


「そういえばライトさんが急ぐ理由って何ですか?」


 そうか、フィーネには言ってなかったか。

 俺は路肩にバイクを停める。


「今日はここまでにしよう。お前達も疲れたろ?」

「もうクタクタだよー……」

「疲れました……」


 そうだよな。オドメーターは800キロを示している。

 平均時速80キロを十時間か。俺もなんだか肩が凝ったな…… 

 今日はここで一泊するとしますかね。

 恐らく明日にはこの国での最終目的地テッサリトに着く。

 そしてその先は第三の国、アスファル聖国がある。

 この旅の半分がもうすぐ終わる……


 さてと、感傷に浸るのはこれぐらい。

 もう半分なんじゃない。まだ半分なんだ。気を引き締めていかないとな。

 各々野営の準備に取り掛かる。

 フィーネが収納魔法からテントを取り出して、設営はみんなで行う。

 慣れたもんだな。あっという間にテントが出来上がる。


「それじゃごはんの準備に取り掛かりますね!」


 晩ごはんはフィーネの担当だ。因みに朝と昼は俺が作っている。

 実は最近得た能力のおかげかフィーネは俺の料理、桜のおにぎりを食べずとも付与効果を永続的に得ることが出来るようになった。

 結束という能力だ。どうやら同一パーティに属していれば戦闘に参加せずとも経験値を得るものらしい。

 それを確かめるため丸一日、俺は料理を作らなかったがフィーネの付与効果は消えることは無かった。


 だが今までのルーティンを崩すのもどうかと思ったので料理を作る順番は変えることなく今に至る。

 さて今夜の晩ごはんはなんだろうか? 


「パパー、お風呂を準備しようよー」

「あぁ、そうだな。じゃあフィーネ。料理は任せたぞ!」

「はい! 任されました!」


 俺と桜はテントの裏に移動して…… 位置的にここにするかな。


 体内でオドを練ってから…… 作成クリエイションを発動! 

 地面の土が盛り上がり湯船が現れる。

 慣れたもんだな。ってゆうか、作成はほとんど風呂専用魔法になっている。

 他にも色々作れるんだけどね。


「わぁー…… 相変わらず見事だね。そういえばさ、作成魔法を使えば何でも作れるの? 例えば車とか飛行機とか……」

「んー、多分無理。外側だけは作れても構造を理解していないものは作れないんだよ」


「え? じゃあ給湯器は?」

「こんなのは単純だろ? パイプに水を通してそれを温めて循環させるだけだし。機械でもこれぐらい単純なものだったらいいけど、これ以上複雑な物は無理だろうな」


「えー…… 日本に帰ったら新しいスマホを作ってもらおうと思ったのに……」


 あほか、あんな複雑なもの作れるか。

 あとはフィーネに水を張ってもらうだけだ。

 さてと、フィーネはそろそろ準備出来たかな? 

 今日のごはんは何だろうか?


「出来ましたよー」


 おぉ、いいタイミングだ。木製のテーブルには…… 

 素晴らしい…… ホカホカの味噌汁と、メインで豚カツがテーブルに並んでいるではないか。

 まぁ肉が豚なのかは謎だが。


「んふふ。ライトさんに教えてもらった料理で作りたかった物なんです。見た目はこれで合ってますか?」

「あぁ、完璧だ。桜、ソースを……」

「もう出してるよ。辛子もあるからね!」


 でかした! さて各々食卓について……


「「「いただきます!」」」


 サクサクの衣を纏う豚カツにソースをかけ、辛しを付けてからかぶりつく。  

 じゅわっと溢れ出す肉汁。ソースの複雑な旨味。辛子の刺激的な風味。

 美味い…… そして味噌汁を一口。油で少ししつこくなった口内を洗い流す。

 そしてさっぱりしたところで更に豚カツを一口。

 次は手元に置いてあるパンを……


 バンッ


「って、違う!!」

「ひっ!? ラ、ライトさん!? 美味しくなかったですか!?」


 あ、フィーネがちょっと悲しそうな顔をしてる。

 謝らなくちゃ……


「ごめんな…… 異世界人のフィーネ…… いや、この世界では異世界人は俺達だからしょうがないんだけど。豚カツってのはさ、お米と食べるおかずなんだ。パンじゃないんだよ……」

「オコメって…… サクラのおにぎりに使われてる不思議な穀物ですよね? 白くってピカピカしてる…… あれと一緒に食べる物なんですか?」


「そうなんだよ……」


 桜はそんな俺を見てそっとおにぎりを出してくれるのだが……


「ほら、パパ。これを食べて。でもパパの気持ちは分かるよ。私もごはんが食べたいな……」

「おにぎりを食べればいいんじゃないの?」


 フィーネはそういうのだけど、なんか違うんだよね。

 やっぱりお茶碗に入ったホカホカごはんが食べたいのだ。

 それに桜のおにぎりには必ず梅が入っている。

 梅干しは大好きだが、それがあると他の素材の味を殺すこともある。

 おにぎりを細工してお米料理を作ることも考えたが、料理の幅がかなり限定されるのだ。


 そして俺には更なる野望がある…… 

 桜の無限調味料の中に、なぜかがあったのだ…… 

 俺はアレを食いたい。

 この世界に来て三ヶ月が経とうとしているが、アレを食う夢を見たほど俺はアレを渇望しているのだ……


「それにしてもフィーネの豚カツは絶品だよ。また作ってくれないか?」

「んふふ! 喜んで!」


 さて食事の続きだ。これでお米があればなぁ…… 

 なんてことを考えながら食事を終える。さて次はお風呂の時間だ。

 いつもの如く二人が先に風呂に入る。

 今の内に…… 一人テントを離れ、胸元からタバコを取り出す。


 タバコを咥え、火を着ける。深く吸い込んで……


 タバコの先がチリチリと赤く燃える。肺が煙で満たされる……


 紫煙を吐き出して……


「まず…… でも、美味いんだな……」


 なんでこんなもの吸い始めちゃったんだろうな。

 桜が産まれた時に止めようって頑張ってみたけど駄目だった。

 禁煙外来にも行ったけど、結局失敗…… 凪に怒られたっけな。


 しばらく一人でタバコを楽しむ…… 

 遠くからフィーネが俺を呼ぶ声が聞こえるな。


「ライトさーん。もういいですよー」


 時間か。俺も風呂場に行き、体を洗ってから湯船に浸かる…… 

 ってあれ? 桜は? 中にはフィーネ一人だ。


「あいつはどうしたんだ?」

「サクラですか? 今日は先に出るって言って……」


 桜め…… 余計な気を使いやがって。

 なんかフィーネが俺のほうに寄ってきた。


「ふふ…… 気持ちいいですね……」

「あぁ…… ってフィーネ、胸が当たってるんだが」


「あの…… もう少しそっちに行ってもいいですか……?」


 そう言ってフィーネがさらに接近する。

 っていうか体を俺に預けてきた。


「少しこのままで…… お願いします……」


 むぅ…… 一応俺はフィーネの気持ちを知っている。

 フィーネには伝えてないが俺の気持ちも固まっている。

 だけどまだ言葉にはしていない。

 もう少しだけ考えなくちゃいけないことがあるからね……


 先に進むことは出来ないが…… 

 少しだけフィーネを抱きしめる。

 そのままゆっくりと湯に浸かる。


 フィーネが俺の顔を見上げる。

 恥ずかしそうな表情をしてから…… 軽くキスをしてきた。


 フィーネはゆっくりと口を離し……


「ふふ…… 先に出ますね……」


 そう言って風呂を上がり、俺は一人風呂に残される。


 風呂から上がったフィーネを目で追っていると…… 

 はは、わざとだな。俺に裸が見えるように着替えてるよ。


 着替え終わったフィーネは恥ずかしそうに笑ってから俺の視界から消えた。


 フィーネ…… 


 もうすぐ答えが出そうなんだ。


 もうちょっとだけ時間をもらうぞ……


 そしていつものように三人で眠り……


 いつものように目を覚ます。なぜか目が覚めるとフィーネが隣にいるんだけどな。


 俺は朝ごはんの準備に取り掛かる。

 簡単にごはんを済ませ、みんなでコーヒーを啜る。

 さてとそろそろ行かなくちゃな。


「ライトさん、昨日答えを聞くのを忘れてましたが、テッサリトに急いでいく理由ってなんですか?」

「あぁそれか」



 そう、俺は旅を急ぐ必要があった。テッサリトには俺と桜が望んでいた物があるはずなんだ。そうそれは……



「米だ。テッサリトには米があるはずなんだ」



 王都ティシュラで振舞われた酒、それは間違いなく日本酒の味だったのだ。

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