第49話来人の想い、フィーネの想い

 フィーネが泥酔してる。

 このままではいかんと思ったのでフィーネを抱っこしつつ宴会を抜け出した。

 道中ずっと頬にキスをしてくるのだが…… 

 フィーネって甘え上戸なんだな。


 俺達に用意された寝室に戻り、フィーネをベッドに寝かす。

 かなり酔いが進んでるな。急性アルコール中毒とか? 

 ちょっと心配なのでおでこにキスをしておく。

 これで状態異常は回復するだろ。


「んふふ…… もっと……」

「だーめ。大人しく寝てな」


「やー…… ライトさん、こっち来て……」



 ギュッ ガバツ



 うわ。強引に抱きついてきて、ベッドに引き込まれた。

 フィーネは俺に抱きついたまま……


「あのね? わたしね? ライトさんのことが大好きなんだよ? 知ってる?」

「…………」


「あー、ずるーい…… 何も言わないなんてー。わたしね? 初めて会った時からライトさんのことが好きだったんだよ? ゴブリンからわたしを助けてくれたライトさんの姿…… かっこよかったなぁ……」

「…………」


「みんなでダンジョンに行ったでしょ? わたしがバンシーの攻撃を受けて死にかけた時すごく怖かった。でもライトさんのおかげで生き返って。その時思ったの。自分の気持ちに正直になろうって」

「…………」


「アズゥホルツに入って、アバルサの町を助けた時…… ライトさんはアイシャさんとキスをしてた。わたしね、すごくくやしかったの。悲しかったの。ライトさんを盗られたって思っちゃったの。やなの。ライトさんは私の物なの。だれにもあげないの。でもあの時はまだ私の気持ちを口に出して伝えてなかった…… だからライトさんは私の気持ちに気づいてなかったよね?」

「…………」


「でもね? ライトさん言ってくれたよね? 少し時間をくれって? それってわたしにもまだチャンスがあるんだよね? ライトさんを待っててもいいんだよね? 挨拶の場でフィオナって呼んでくれたよね? キスもしてくれたよね?」


 矢継ぎ早に自分の気持ちを伝えてくる。

 だがまだ俺は想いを言葉に出来ない。まだなんだ。

 フィーネへの気持ちは固まっている。

 だけど、俺にはまだ考えなくてはいけないこと、選ばなくてはいけないことがある。

 それを解決してからじゃないとフィーネの気持ちに応えてはいけないんだ。


「ライトさん…… わたしね…… ライトさんのことが大好きなの…… ずるいよ…… ライトさんは何も言ってくれないんだもん……」


 フィーネはゆっくり目を閉じる。

 すまんな。フィーネの言う通り俺はずるい男なんだ。

 だから…… 今はこれで我慢しててな。


「フィーネ……」


 彼女の腕を払い、優しく顔に触れる。


「ライトさん……? ひゃあん……」


 口付けを交わす。


 ごめんな。俺の想いを今は言葉にすることは出来ない。


 もう少しだけ時間をくれ…… 


 答えが出たら言葉にするから……


 気持ちが伝わるように長めに口づけを交わす。

 口を離す瞬間、フィーネの舌が名残惜しそうに俺の舌に絡まってくるが…… 

 今日はこれでお終いな。


「んふふ…… ライトさん……」

「ほら、今は寝ておきな。フィーネが寝るまでそばにいてやるから」


「じゃあ…… 寝るまでギュってして……」

「はいよ」


 しょうがないのでフィーネを抱きしめながら横になる。

 数分でフィーネの寝息が聞こえてきた。お休みな。


 さて、宴会に戻るかな。桜やシーザーが待っている。

 フィーネを起こさぬように部屋を出ると……


「パパ……」


 あれ? 桜が部屋の前にいた。迎えに来てくれたのか?


「桜? どうした?」

「あ、あのさ、少し聞いてもいいかな?」


「いいぞ。なんだ?」

「ここじゃ話し辛いね…… 部屋に戻っていい?」


 桜と二人で部屋に戻る。

 隣ではフィーネが寝てるのでバルコニーで話すことにした。

 二つの月が真上に出てるな。もう真夜中だ。


「さて…… ここならいいか。で、話ってなんだ?」

「う、うん…… フィーネちゃんのことなんだけどね…… 結局パパの気持ちってどうなってるのかなって思ってさ」


「俺の気持ちか。すまんが一本吸っていいか?」

「タバコ? まぁ…… いいよ……」


 懐からタバコを取り出して火を付ける。

 深く吸い込んで…… 


「ふぅ…… 不味いな。だが美味い」

「不味くて美味いってどういう感覚なの? タバコを吸う人の気持ちなんて理解出来ないよ。でさ、パパの気持ちなんだけど……」


「気持ちか…… 正直な、まだ整理しきれてないんだ。今これを言葉にすると俺に残された選択肢は一つだけになってしまう。フィーネの想いに応えたい気持ちはあるよ。でもな、それを言葉にすると…… 俺はフィーネだけを選ぶことになってしまうんだ」

「フィーネちゃんだけを? 別にいいんじゃないの?」


「いや駄目だろ。フィーネを選ぶってことは俺がこの世界で生きることになるってことだ。それともフィーネを地球に、日本に連れてくか? 異世界人だぞ? あの長い耳を隠して生き続けろと? そんな窮屈な思いをフィーネにさせられるか? 俺がフィーネを選んだらお前はどうする? この世界で一生過ごすか? 

 俺がこの世界にフィーネと残ってお前だけ日本に帰ったら桜は一人になっちまう。まだ子供のお前を一人ぼっちにさせるわけにはいかない。会社だって仕事を放り出して転移してるんだ。みんなに迷惑が掛かってる。俺が受け持ってるお客さんだっている。俺がいないことで損失を出してるのは間違いないだろうし。

 それにな、日本にはママ…… 凪がいるだろ? 俺はあいつを一人ぼっちにさせたくないんだ……」


 数年前に死んでしまった最愛の妻…… 

 凪はまだ俺の胸の中で生き続けている。

 そんな愛する人を…… 彼女の墓を誰も訪れることなく、無縁仏になっていくなんて…… 

 そんなことは出来ない。それが俺が日本に帰りたい一番の理由なんだけどな。


「ママのお墓…… そうだね。たしかにパパの気持ちは分かるよ。でもさ、私のことは一旦抜きにして考えてみて? もしもだよ? パパが死んじゃって私とママが残される。パパは私達に何を望むと思う?」


 そんなの決まってる。すぐに答えられる質問だ。


「俺のことはさっさと忘れて幸せな人生を歩んで欲しい。出来ればいい人と再婚して今まで以上に幸せになって……」

「それはママも同じだよ! 絶対ママも同じことを考えてるよ! パパは馬鹿だよ! 私のことばっかり! 死んじゃったママのことばかり考えてる! 大事なのはパパの気持ちなんだよ! パパだってもっと幸せになりなよ! その為にどうすればいいか考えればいいんだよ! 私の幸せ? 会社のこと? そんなの言い訳! 決断から逃げてるだけだよ!」


 そうかもな…… 桜はいい子だな。

 今はかなり怒ってるが彼女なりに俺の幸せを願ってこんなことを言ってくれてるんだ。優しい子だ……  


「桜…… おいで」

「え? って、わわ!?」


 桜を抱きしめる。優しい子に育ってくれてありがとな。

 お前のおかげで少し前に進めそうだよ。


「桜、お前にもお願いする。もう少し考える時間をくれ。お前の言う通り俺が…… いやみんなが幸せになれる方法を考えてみるよ」

「うへぇ~…… タバコくさいよ~…… で、でもパパはこれでフィーネちゃんのことを……」


「あぁ。近い内に想いは伝えようと思う。だがそれは俺の口から伝える。お前は言うなよ?」

「そ、そうなんだ。それじゃ一応聞いておくけど…… パパはフィーネちゃんのこと、どう思ってるの?」


「好きだ」


 桜の顔がパァァっと明るくなる。

 はは、お前も嬉しいか。


「良かった! これでフィーネちゃんも報われるね! でも秘密にしておかないといけないのか…… 私、口が軽いからなぁ」

「お前なぁ…… まぁ人の口には戸は建てられないからな。でもなるべく言わないようにな」


「うん! がんばるよ! それじゃこれからどうする? 飲み会に戻る?」

「あぁ。みんなを待たせてるからな。そうだ、次の目的地だけどな……」


 桜と次の計画を立てながら宴会の席に戻る。

 酒は飲めないから料理を楽しみ、シーザーと奥さんの惚気話を聞き、桜の手をペロペロしにくる王様を退けつつ、宴会はお開きとなった。



 翌日……


「んー…… 頭痛い……」


 フィーネがのそのそ起きてきた。二日酔いかな? 

 彼女に水を渡すと一気に飲み干す。

 酔い覚めの水飲みたさに酒を飲みとはよく言ったものだ。


「ふぅ…… あれ? そういえば私、宴会に参加してたんじゃ…… どうしてこの部屋にいるんですか?」

「はは、記憶が無いのか。飲み過ぎだよ。酒は程々にな。気分はどうだ?」


「ちょっと気持ち悪いです…… でもなんかすごくいいことがあったような記憶が…… あれ? 思い出せない……」


 まぁあれは忘れたほうがいいかもしれないな。

 俺だけの思い出として取っておこう。


「そのまま寝てな。何か消化のいいものでも作ってやるから」

「んふふ。それじゃライトさんに甘えちゃおうかな」


 そう言ってベッドに戻っていった。

 フィーネが回復したのはその翌日。

 俺達は建国祭の催し物を楽しむ。

 武道大会を観戦したり、露店で買い食いしたり、パレードを見たりと心から祭りを楽しむ…… 


 こうして祭りは終わりを迎え、王都ティシュラは平常運転に戻る。

 さぁ次の目的地に行かないと。

 俺達は王様に王都を出ることを伝えると……


「聖女様方…… 行ってしまわれるのですな。皆様が望めば名誉市民として永住権を差し上げようと思っていたのですが……」

「ははは、気持ちだけで結構ですよ。私達は旅の目的がありますからね。短い間ですがお世話になりました。祭りに参加出来たこと光栄に思います。では……」


「あぁ! お待ちを! 聖女様! 最後にその御手に口づけを!」


 王様は三度みたび桜の手をペロペロする。


「うへぇ~…… もう嫌~……」


 桜、よく我慢したな。ペロペロから解放され俺達は王都前に城門へ。

 そこまでシーザーが見送ってくれた。

 フィーネが収納魔法を使いバイクを取り出す。

 みんなでバイクに跨ってからエンジンスタート! 



 ドッドッドッドッドッ



 ご機嫌なエンジン音が鳴り響く。さてと行きますかね!


「ライト殿…… 機会がありましたら是非王都にお越しください。貴殿の安全な旅路を祈ります」

「はい! シーザーさんもお元気で!」


 アクセルを回す! 

 さて次の目的地は西に進んだところにある町テッサリト! 

 そこにはアレがあるはずだ!


「パパー! 祭り楽しかったね! また来たいね!」

「私もです!」


 はは、次の祭りは来年だろ? 

 次は…… まぁあるかもしれないけどね。

 今は旅を急ぐぞ! 飛ばすぞ! しっかり掴まってろよ!


 

◆◆◆◆◆◆



 ここまでのステータス



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:35

HP:47520 MP:80021 STR:35827 INT:71123

能力:剣術8 武術10 創造 10 料理8 分析7 作成7 

魔銃8(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー スナイパーライフル)

アルブの恩恵1

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ

New! 結束(パーティメンバー全員に経験値が分配される。戦闘に参加してなくともレベルアップ可能)



名前:サクラ シブハラ

レベル:33

HP:38763 MP:55909 STR:25456 INT:55420

能力:舞10 武術10 創造 10 分析5 回復3 慈愛3

魔導弓8(爆裂の矢 氷結の矢)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 無限ラーメン 無限調味料)

New! 結束(パーティメンバー全員に経験値が分配される。戦闘に参加してなくともレベルアップ可能)



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:51

HP:2608(20000) MP:3345(20000) STR:995(20000) INT:6820(20000)

能力 剣術5 武術6 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

New! 結束(パーティメンバー全員に経験値が分配される。戦闘に参加してなくともレベルアップ可能。フィーネは来人、桜から得た付与効果をパーティにいる間、永続的に受けることが出来る)

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