第43話ルカ・ルクレツィオ

「ヴィルジホルツより! 皇子、ルカ・ルクレツィオ・アルブ・ネグロス殿下の入場です! 皆様! 拍手を!」


 広間を包む拍手の嵐を背に進む一団。

 褐色の肌。エルフ耳。恐らく…… 

 いや、隣にいるフィーネが発する殺気が物語る。


 奴らがフィーネの仇であり、俺が求める日本に帰れる手段である転移船を持つ者達。


 アルブ・ネグロスだ。

 肌の色こそ違えど、線の細さ、切れ長の耳。

 フィーネとほとんど同じ種族だ。ファンタジーでいうダークエルフだな。

 甲冑を着こんだ一団の中に一人だけ煌びやかな服を着た者がいる。

 長い金髪。整った顔。そいつは俺達に近づいてくる。

 そして……


「探したぞ…… アルブ・ビアンコの娘、フィーネよ」

「…………」


 フィーネはルカと呼ばれた男の問いかけに沈黙で答える。

 フィーネは城内ということもあり帯刀はしていないのだが…… 

 それを忘れているのだろう。腰に手を当てている。

 あるはずも無い刀を抜こうとしてるんだ。


「こんな所で出会えるとはね…… さぁ私と共に帰ろう。我が国、ヴィルジホルツへ」

「失礼。お話の途中申し訳ないが」


 俺はフィーネとルカの間に割って入る。

 そうしないとフィーネがこいつに殴りかかるかもしれないからな。


「なんだ? 私は下々の話を聞くほど暇ではないのだよ。退きたまえ」


 下々…… 

 たしかに一小市民に過ぎない俺だが、面と向かって言われると腹立つな。

 だがここは殿中。大人の対応といこう。


「退けないな。フィーネと話をしたいなら俺を通してからだ」

「なッ!? 無礼な!」



 ザワザワッ



 俺とルカの間に緊張が走る。ギャラリーも騒めき始めた。

 それを察したのかルカのお付きの者だろうか。

 ごついスキンヘッドのネグロスが近づいてくる。


 やるか? 相手になるぞ?

 だが意外なことにそいつは……


「若。落ち着いてください。我々はアズゥホルツに客人として招かれたのです。この場ではこの者もあなたも立場は同じ。無礼な振る舞いはこのバルゥが許しません。この者が申す通り、ビアンコの娘と話をしたいのであればこの者の許可を得なければならないでしょう。いいですか?」


 バルゥと呼ばれた男はルカを睨みながら諫める…… 


「わ、分かったよ…… それじゃ…… 先程は失礼した。私はルカ・ルクレツィオ・アルブ・ネグロス。ヴィルジホルツの第一皇子だ。そこにいるアルブ・ビアンコの娘と話がしたいのだが…… よろしいか?」


 ほう、一応は丁寧に話せるみたいだな。

 なら断る理由は無い。

 だけど話す話さぬを決めるのは俺じゃない。フィーネだ。


「フィーネ。皇子様が話したいって言ってるけど、どうする?」

「…………」


 フィーネは黙りながらも俺の前に立つ。

 強い子だな。本当はこいつを殺したいぐらい憎んでいるのだろう。

 自分を捕えようとした相手であり、仲間の仇なんだからな。


「フィーネ…… 君は何か勘違いをしてるね。私は君を傷つけるような真似はしない。それどころか、君を我が妻に迎えたいと思っているんだよ」


 ん? どうゆうことだ? 

 フィーネが狙われてた理由…… 

 たしかフィーネの一族はネグロスが他の世界に転移するための生贄として利用されてたはず。

 そしてフィーネは自身が持つ強い魔力のせいで遠く離れたヴェレンでもネグロスに狙われてた……はずだよな?


 ルカの話を聞いていたフィーネの髪が逆立つのが分かる。

 そりゃ怒るよな…… 

 仇だと思ってたやつにいきなり嫁に来いだなんて言われたら。


「あんた!? そんなこと聞けると思ってるの!? ふざけるんじゃないわよ!」

「フィーネ!」


 今にも飛びかかりそうになるフィーネを言葉で止める。

 少し落ち着かせないと……


「ルカ……皇子だったな。悪いけど俺にも分かるように話してもらうぞ」

「ふん、なんでお前なんぞに話さなくてはならん」


「いや、別に話さなくてもいいよ。それならフィーネとこれ以上話すのは許可しないだけだ」


 ルカの顔が怒りで歪む。

 はは、意外とガキだなこいつ。扱いやすいわ。


「くっ! しょうがない…… なら何が聞きたい? 言え」

「そうだな…… お前達ネグロスがフィーネを狙ってたのは知ってる。だが、フィーネを狙う理由が俺の思ってるそれと違うような気がしてな。フィーネを転移の触媒に使うんじゃなかったのか?」


「ははは、純血種のフィーネをそんなことに使う訳なかろう」


 なんだか分からない言葉が出てきたな…… 

 純血種? フィーネが特別ってことか? 

 後で何のことか聞いておくかな……


「で、お前さんはフィーネと一緒になって、どうするつもりだ? 幸せな家庭を作るとか?」

「それもいいだろう。だが違う。フィーネには我が御子を孕んでもらう。純血種同士の間に生まれた子は我々より遥かに高い魔力を持つ。それを触媒に使えば三千世界の全てを掌握するだけの転移を行うことが出来るだろうからな」


「つまり…… お前とフィーネの子供を転移の触媒に使いたい……ということで合ってるかな?」

「如何にも」



 如何にもねぇ……



 こいつ。



 クソ野郎だわ。



 自分の子供を使い捨ての乾電池にするつもりなんだ。



 もうなんか怒りを通り越して呆れてしまう。



 ルカは俺達を無視するかのように話を続ける。



「フィーネ。聞いた通りだ。私は君を傷つけるつもりはない。それどころか君が私と一緒になってくれたら捕えているビアンコの全てを解放しよう。抵抗するのならそれもよかろう。だが、そうなったら君の一族はどうなるかは…… 言わなくても分かるね? さぁフィーネ。いや、フィオナ。君を我が妻として迎えよ……」

「その名で呼ぶな!!」


 フィーネが激昂する。今までで一番の怒りだ。

 フィオナ? たしかアバルサの町を発つ前にフィーネにお願いされたんだよな。

 フィオナって呼んでって。もしかして特別な名前だったとか? 


 よく分からんが、ルカのクソ野郎にこれ以上言わせておくのも我慢の限界だ。

 激昂するフィーネの前に出る。


「汚い声でその名を呼ぶな。フィオナと呼んでいいのは俺だけだ」


「「…………!?」」


 ん? あれ? フィーネもルカも、すんごいビックリした顔してるけど…… 

 でもフィーネには前にフィオナって言ったじゃん。どうした?


「フィオナ? 大丈夫か? フィオナ?」

「ラ、ライトさん、そんな…… 私の聖名を…… 嬉しいです…… ふえーん……」


 え? え!? なんかフィーネが泣き出した! 

 ルカに言われたら怒って、俺に言われたら嬉しい? 

 一体どういうことだ?


「き、貴様!? まさか! 耳を噛み合う仲だというのか!?」


 なんだ? めっちゃ怒ってるぞ?

 そりゃフィーネの耳は寝ぼけて噛んだことはあるし、フィーネも何だか知らんが俺の耳を噛んだこともある。

 よく分からんが、ルカがこれだけ焦ってるんだ。

 肯定してもっと悔しがらせてみるかな。

 いや、少し誇張して言ってみよう。


「あぁ。フィオナとは毎日耳を噛み合ってるぞ。噛みまくりだ。なぁフィオナ?」

「ライトさん!!」



 感極まったフィーネが俺に抱きついてくる!? 

 何なんだ!? 理解出来な……



 ガバッ ガジガジ……



 フィーネは俺に抱きついて耳を甘噛みしてくる……



 そして囁くように……



「あなたに心と命を捧げます……」



 そう言って……



 チュッ



 ふっかーいキスをされた。



 あー…… なんだこの展開は……? 

 理解が追いつかない……



 今分かるのは俺達のキスを見ているルカがものすごく怒ってるってことだけだ。



 ちょっとフィーネ、そんなに舌を絡めるな…… 

 多分ルカは襲い掛かってるぞ?


 俺の心配通り、ルカは殿中にも関わらず剣を抜いて俺に突きつける。



「決闘だ! 貴様! 外に出ろ!」


 あちゃー、まさかの展開になったな。

 まぁ少なくともこんなクソ野郎にフィーネを渡すつもりはない。


 その挑戦…… 受けてたとう! 

 だがここは殿中。しかも建国祭の最中だ。

 せっかくの祭りをつまらない決闘で中断させたくないなぁ…… 


 あ、いい事思いついちゃった。

 ルカのアホに痛い目を見せつつ、祭りを盛り上げる方法。

 それは…… 


 フィーネ? そろそろ口を離してくれないかな? 

 ルカの挑戦を受けられないでしょ?


 俺の想いを無視するようにキスは続く。

 もういいや。今はフィーネのしたいようにさせておこう。

 一応ルカのステータスを確認しておくか。


 キスを続けたまま目にオドを込める。


 どれどれ? こいつのステータスはっと……



名前:ルカ・ルクレツィオ・アルブ・ネグロス

年齢:25

種族:アルブ・ネグロス

Lv:124

DPS:892

HP:3043 (10000) MP:7432(10000) STR:1990(10000) INT:8771(10000)

能力:剣術8 火魔法7 風魔法7 

武具による能力補正:各ステータス+10000



 強いな…… だが勝てない相手じゃない。

 さて対人戦は久しぶりだな。


 いっちょやってみますか! 

 平均キルレ2以上の実力を見せてやるぜ!

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