第42話建国祭

 バァン! バァン!



 空に撃ち上がる花火、沸き上がる歓声。

 俺は今、城に設置されたテラスにいる。

 下を見ると多くの市民で溢れかえってるな。

 開会式に呼ばれた人達なんだろうな。


 テラスには俺達、テリア顔の王様、虎獣人のシーザー、この国の重鎮の方々……


 はは、すごい顔ぶれだな。

 王様が前に出て開会の挨拶を始める。


「これより我が国アズゥホルツの生誕五百年記念祭を開催する! 愛する我が子らよ! よく来てくれた! 祭を大いに楽しむがよい! そして! そなたらも知っている者もおろう! 再びこの地に聖女が降り立った! サクラ殿! 前へ!」


 王様のご指名により桜がテラスの最前列に。


「さぁ、サクラ殿。我が国民に聖女として一言お願いします」


 挨拶か。桜に出来るかなぁ? 

 なんか桜はアワアワしてから逃げるように俺のもとに。


「パパ~…… スピーチなんて無理だよぅ…… 助けて~」


 やっぱりな。経験の浅いこの子に挨拶は無理だったか。

 しょうがないか…… 桜を下げて俺が前に出る。


「聖女は具合が悪いので代わりまして私が祝辞を努めさせて頂きます。私は聖女の父、渋原 来人と申します。お見知りおきを……

 本日は建国祭に参加させて頂き誠にありがとうございます。しかも王の祝辞の通り五百年という節目の大事な建国祭。その中で皆様に祝辞を述べると思うと胸に迫るものがございます。

 私共は一介の旅人ではございますが、この国を旅する中でアズゥホルツの皆様の温かさに触れ、何とか旅を続けることが出来ました。

 過酷な環境にも関わらず強く生きる皆様を見て、私共も皆様を習って強く生きようと思わせてくれました。

 僭越ながら申し上げます。この国、貴殿方はまだまだ可能性を秘めているように思います。この国は更に発展していくであろうと私は強く思います。

 アズゥホルツの建国祭、五百年の節目を祝うと同時に新しい出発点として心に残しておくようお願い申し上げます。

 長くなってしまいましたが、これを以て祝辞の挨拶とさせて頂きます。

 皆様! 祭りを楽しみましょう!」


「「「…………」」」


 ん? 何だか群衆が静かだな。もしかしてスベった? 

 もうちょっと砕けた挨拶の方が良かったかな?



 パチ…… パチ…… パチ……



 拍手だ。少しずつ拍手が鳴る。



 パチパチパチパチパチパチ!



「「「「わー!!!!」」」」



 次第と大きくなる拍手! 沸き上がる歓声! 

 うわっ! いきなり盛り上がってきたな! 

 一応下の皆さんに手でも振っておくか。


「桜! フィーネ! 前に出ろ! お前達も手を振るんだ!」


 俺に促され恥ずかしそうに手を振る二人。

 なんか小声で桜が話しかけてきた。


「パパ…… どこでそんな話術を……」


 話術? いや別に会社勤めしてたら大勢の前で話すことも多いしな。

 会議のプレゼンだったり、結婚式の司会だったり。


「経験だよ。人前で話すなんて要は慣れだ。お前もその内出来るようになるさ」

「私も? 私は無理だよ……」


 そんなことは無い。

 大人になれば嫌でも人前に出て話さなくちゃいけない時もあるんだ。

 今のうちに慣れておくと後が楽だぞ。


 取り合えずは盛り上がって良かったな。

 拍手は未だ鳴り止むことはなく続いている。


「素晴らしい挨拶でした! ライト殿! ありがとうございます!」


 なんか王様が尻尾を千切れそうなほど振り回しながら寄ってくる。

 喜んで頂いたようだ。

 一応成功したと思ってもいいかな?


 俺達は拍手と歓声を背に城内へと戻ることにした。



◇◆◇



「ふぇ~…… なんか一気に疲れた……」


 俺達の次の出番は午後からなので部屋に戻って一休み。

 桜はベッドにダイブしてからゴロゴロし始める。


 フィーネも疲れたのかな? さっきから一言も発していない。

 俺の顔を見て、なんか赤い顔をしている。

 熱でもあるのかな?


「フィーネ? 大丈夫か?」

「ひゃいっ!? だ、大丈夫です!?」


 大丈夫じゃないっぽいな。


「フィーネも大勢の前に出て緊張したか?」

「い、いえ…… そんなことは……」


 部屋の中に桜の笑いが響き渡る。


「あははは! パパ、フィーネちゃんはね! パパのスピーチする姿に見惚れちゃったんだよ!」


 え? まさかぁ…… あんなやっつけのスピーチで? 

 フィーネの顔を見ると…… 



 プイッ


 

 あ、目を反らされた。

 顔を更に赤くしてモジモジしてる。


「ちょっ!? サクラ! 何言ってるの!?」

「え~? ほんとのことじゃないの~? 私から見てもパパかっこよかったし~」


 ほう。桜にも好評だったか。少し嬉しい。


「ほらほら~。認めなさいよ~。パパのこと好きなんでしょ~」

「違うもん! ライトさんのことなんか…… きー! サクラのバカー!」



 ドッスン バッタン



 きーきーとキャットファイトをし始める。

 見ていてとても面白いのだが。


「ストップ」


 もみ合う二人を言葉で制する。

 ふざけている場合ではない。

 恐らく俺の考えている事が正しければ……


「桜、フィーネ。気を引き締めておけ。午後から俺達は来賓の挨拶をしなくてはいけない。王様が俺達に望んでいるであろう仕事の本番がやってくる」

「昨日パパが言ってたやつ? この国の力をアピールするチャンスなんだよね」


「そうだ。伝説の聖女として桜が各国の重鎮に会うということ。そんな伝説になるような者が祭りに参加しているだけで他国はこの国に一目置くようになる。あまり下手なことは言わないほうがいいな……」


 聖女と奉られてはいるが、桜は日本では一中学生に過ぎない。

 変なことを言ってボロが出たら、王様の顔に泥を塗ることにもなる。


「まずは俺が挨拶する。桜とフィーネは後ろで笑ってればいい」


 フィーネが静かに手をあげる。質問かな?


「あの…… なら私はお留守してた方がいいでしょうか? 主役はサクラですし、挨拶はライトさんがするなら……」


 それについては一つ心配がある。

 出来ればフィーネは参加しない方が…… 

 いや一人にしておく方が心配だ。ならば……


「フィーネも参加だ」

「どうしてですか……?」


「お前も大事な仲間だ。一人だけ仲間外れってのもね。だからフィーネ…… いいね?」

「…………」


 適当な理由を話す。

 考えていることは言わない方がいいだろうな。

 あまり心配をかけたくないし。

 納得していない表情だがフィーネは首を縦に振ってくれた。


「そうか。なら午後の出番に向けて少し休もうか。絶対に気疲れするからな。接待か…… 俺も苦手なんだよね」


 俺は人数分のコーヒーを淹れて出番を待つことにした。



◇◆◇



 一時間後……


 部屋をノックする音が。

 犬耳のメイドさんが俺達を迎えに来た。

 さあ時間か。行くとしますかね。


 挨拶の場は一階の大広間。

 そこにはきらびやかな衣装を着た人達で溢れかえっていた。


「あれは…… 聖女様よ!」

「伝説の聖女…… 意外と普通の女の子だな……」

「お付きの男の人ってスピーチした人でしょ……? 中々素敵よね……」


 なんか色々言われてるな…… 

 そのままメイドさんの先導のもと、広間中央に移動。

 そこには大きなテーブルが置かれており、豪華な料理が並んでいる。

 立食パーティ形式か。


「飲み物でもいかがかな? 聖女様方?」


 一人の僧侶らしき人が俺達に飲み物を勧めてくれる…… 

 獣人じゃないな。人族だ。

 白い髭を蓄えている。中々恰幅がいいな。

 これで赤い服を着てたらサンタクロースだ。


 俺は僧侶から飲み物を受け取る。

 これは…… 酒だな。


「ありがとうございます。ですがお気持ちだけ。お恥ずかしいことですが私は下戸でして…… 二人もまだ酒を飲むには早いですからね」

「ほっほっほっ。それは失礼。では果実水でもいかがかな?」


「そうさせて頂きます。ところで貴方は? 見た所、神にお仕えする方と見受けられますが?」


 その男は法衣のような服を纏っている。

 人族で宗教の匂いを感じさせる雰囲気……


「分かりますか。私はアスファル聖国の法皇ルチアーニと申します。貴方は聖女殿の父上ですな? 此度の活躍は私の耳にも入っておりますぞ。なんでも不思議な力を使い、ヴェレンで攻略不可能と言われたダンジョンを征したとか。

 特に貴方…… 確かライト殿でしたな? 貴方の活躍は我が国でも噂になってますぞ? ほっほっほっ」 


 法皇? アスファル聖国って言ったな。

 俺達の次の目的地か。

 たしか人族至上主義で他種族への差別がひどいってフィーネは言ってたが…… 

 こいつがそのトップってわけか。


「確かにダンジョンは攻略しましたが、仲間の力があってこそです」

「またまたご謙遜を……」


 そう言ってルチアーニは笑うのだが…… 

 こいつ油断出来ないな。

 俺達が噂になったのは獣人の国アズゥホルツが最初だ。

 ヴェレンのダンジョンを攻略したのは一部の人間しか知らないはず。


 アズゥホルツでの働きを知っているだけならともかく、それ以前の俺達の動きを知っている。


 牽制をかけてきてるんだ。

 こいつとはあまり話さないほうがいいな……


「お会いできて光栄です。法皇ルチアーニ様。本来でしたら深くお話を聞きたいところですが……」

「ほっほっほっ。機会はまた訪れましょう。来られるのでしょう? 我がアスファル聖国に」


 そこまで知ってるのか…… 


「そうですね。その時はお願いいたします……」

「お待ちしておりますぞ。我が国をあげて歓迎いたしましょう。こんな獣臭い国とは違い…… ほっほっほっ。失礼しました。まあ我が国を訪れた際は遠慮せず我が城へお越し下さい。お付きの亜人も特別に入城を許可しましょう。それでは……」


 なるほどね。丁寧を装ってはいるが、こいつは生粋のレイシストだ。

 こんなやつが国のトップか…… 


 俺の後ろに立つフィーネの顔…… 

 怒りに満ちている。フィーネ、よく我慢したな。


 クソ野郎と話した後も色んな人に話しかけられる。

 おいしい話を持ちかけてくる貴族が多かったな。

 桜を一人にしなくて良かった…… 


 適当に貴族の話を聞いたり、宗教勧誘をしてくるアスファル聖国の枢機卿の話しを流していると……



 うるさかった広間が突然静かになる。



 扉が開く音。

 


 その先には甲冑を着た一団が。



 褐色の肌。



 整った顔立ち。



 フィーネと同じ耳を持つ者達。



 やはり来たか……



「ヴィルジホルツより! 皇子、ルカ・ルクレツィオ・アルブ・ネグロス殿下の入場です! 皆様! 拍手を!」



 広間は拍手に包まれる。



 俺の隣にいるフィーネが殺気に包まれるのを感じた。

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