第35話恒久対策 フィーネの気持ち

「フィーネ…… 気をつけろよ……」

「はい! 大丈夫ですよ! 任せてください!」


 私とライトさんは今アバルサの町の正門前にいる。

 目の前には鬱蒼とした森…… 

 ここからオークが来るんだよね。 


 オークはかなり強い魔物だ。

 図鑑で調べたことがあるんだけど、レベルは40前後って書いてあったかな。

 一対一なら充分に戦える。でも敵は複数。集団で来られたら……


 ライトさんには大丈夫って言ったけど、本当は怖い。

 だってオークが人前に現れる時っていうのは発情期に入って雌を求めるってことだもの。


 オークは他種族の雌を自らの苗床として利用する。

 つまりオークに捕まったら……


 嫌だ…… オークに汚されるなんて想像もしたくない。

 私の体に触れていいのはライトさんだけ…… 

 って私何考えてるの!?


 ダメダメ…… 集中しなくちゃ……


「あ、そうだ。そろそろ二十四時間経つな。フィーネ。こっち来て」


 ん? ライトさんがちょいちょいって手招きする。

 どうしたんですか?


「なんですか? って、ひゃあぁん!?」


 ライトさんは私を抱きしめる!?


「毎度ごめんな……」



 チュッ



 あ…… ライトさんが目を閉じて…… 

 私のおでこにキスをしてくれた。


 次の瞬間、体に力がみなぎる。

 それとは別に心に温かい火が灯る。


 ライトさんは口を離して話しかけてくる。

 もうお終いなんですか? 

 もう少し長めにしてもらいたいな……


「これでよし…… ステータスを確認した。ちゃんと付与効果は付いてる。だけど致死攻撃からの回復は一度だけだ。油断しないでくれよ?」


 ライトさんのキスは色んな付与効果が付いている。

 そのおかげでこれまで優位に戦うことが出来た。

 いつの間にかライトさんがキスをしてくれるのを待っているようになっちゃったんだよね。


「フィーネ…… 気をつけるんだぞ……」

「はい。行ってきます……」


 ふふ、そんな心配そうな顔しないでください。

 私は大丈夫ですよ。あなたから力と勇気を貰いましたから。



 ザッ ペキッ



 私は振り返ることなく森に足を踏み入れる。

 僅かに漏れる月明かり。視界はかなり悪い…… 

 本来なら夜の森での独り歩きは力無い者にとっては死を意味する。

 それだけ危険な行為。でも今はそれを逆手に取る。

 私を狙う魔物、オークのヘイトを取るんだ。


 でもやっぱり怖い…… 

 少し足が震えてるのを感じる。

 そうだ、楽しいことを考えよう。


 初めてライトさんに出会った時のこと……



 ゴブリンロードに捕まってるところを助けてもらったんだよね。

 バイクを降りてヘルメットを取った時のライトさんの顔…… 

 かっこよかったなぁ……



 森を出て野営をした時にラーメンを作ってくれた。

 初めて食べた異界のごはん。

 すごく美味しかった。

 でも最初は味わってる余裕が無かったんだ。 

 だってライトさんがお箸の使い方を教えてくれた時…… 

 手を握ってくれたんだ。ライトさんがあんなに近くに…… 

 うぅ…… 思い出すとなんだか恥ずかしくなっちゃう……



 ヴェレンの町に向かう道中。

 私はバイクの速度に驚いてしまった。

 森の中では馬ぐらいの速度しか出さなかったので、ここまで速く走れるとは思ってなかったんだ。

 だってヴェレンまで三十分だよ? 

 あんな速い乗り物に乗ったのは初めて。

 怖くてずっとライトさんの背中にしがみついてしまった。



 町の近くに着いたんだけど、足がふらふらしちゃって…… 

 バイクを降りる時足がもつれちゃった。

 でもライトさんが私を支えてくれたんだ。

 既にライトさんのことを意識してしまっていたので、恥ずかしくて何も言えなかった。

 ライトさんは勘違いしたのかな。

 私のおでこに手を当てて、熱があるぞだって。

 ふふ、ライトさんが鈍いってこの時に気づいたんだよね。


 

 更に森の奥に進む。恐怖が薄れてきたのかな? 

 でもなんだかライトさんのことを思い出すと楽しくなってきちゃった。

 そうね、次は…… 嬉しいけど恥ずかしい思い出。



 ヴェレンで一泊した時、二人とは別の部屋で寝てた。

 魔物に襲われた後だし、すごく疲れてたんでベッドに入ったらすぐに寝ちゃったんだ。

 あんまり覚えてないけど夢にライトさんが出てきたのは覚えてる。

 もうすぐ目が覚める。

 夢の中だからライトさんに何してもいいかななんて思ってしまった。

 だから夢の中のライトさんに抱きついてキスしちゃったんだ。



 私って今まで生きるのに必死で誰かを好きになることは無かった。

 でも私だって想像ぐらいするよ。

 いつかは理想の人が私の前に現れて…… 

 でも異性との付き合い方なんて知らない。

 だから目が覚める前に勇気を出してライトさんにキスをしたんだ。

 でも、目が覚めたらライトさんがいた…… 

 私を起こしに来たんだ。それに気付かずに混乱した私は……

 


 ライトさんを思いっきりビンタしてしまった……



 さようなら、私の初恋……



 そう思ったんだけど、ライトさんは笑って許してくれた。

 あんなことされたのに…… 

 ライトさんの懐の深さに驚いた。



 ヴェレンで防具を買った。

 防御力が低いレザーアーマー。

 一度斬られたら使いものにならなくなる。

 これでダンジョンに挑もうとする冒険者なんていない。

 でもライトさんは創造魔法を使ってレザーアーマーを強化した。

 試しに私のナイフでレザーアーマーに刃を入れてみたんだけど…… 

 まるでナイフが鈍らになったかのように刃を弾かれる。

 この時ライトさんのすごさを実感したんだ。

 ついでに私の防具も強化してもらった。

 すごく嬉しかった……



 ダンジョンに入り、ライトさんにいいところを見せようと私は張り切っていた。

 スケルトンとの戦闘。最初はお手本を見せようと私が戦った。

 格下だったし、負けるはずもない。

 私の勝利をライトさんは褒めてくれた。

 冷静を装ってたけど、ほんとは飛び上がるくらい嬉しかったな。



 でも次に現れた敵はスケルトンロードだった…… 

 一度戦ったことがあるけど、かなりの強敵だ。

 いくらステータスが高くても、戦闘に不慣れなライトさんが戦うべきではない。

 逃げないと……



 だけどライトさんは戦うことを申し出た。

 三分という制限時間内に勝てなければ撤退するという約束のもとに私は戦うことを許可した。

 いつでも援護出来るように体内でオドを練っておく…… 

 でも私の心配は杞憂に終わった。

 サクラの魔導弓の一撃の後、ライトさんの魔法、ハンドキャノンでスケルトンロードを倒してしまった。



 おかしいよ!? だってスケルトンロードのレベルは20を超えてたはず…… 

 二人が強いのは分かってたけど、想像以上だった。

 道中の戦闘も私は二人の戦いを見ているだけだった。

 かっこいい……

 私は戦い方の指導をするふりをして、ライトさんの活躍に見惚れていた。



 ダンジョンで野営をしてる時、サクラと話す機会があったんだけど…… 

 サクラは私の気持ちに気づいてたみたい。ライトさんのことが好きってことがバレていた。

 深くは聞いたことは無いけど、二人の話からライトさんの奥さんはお亡くなりになられているって分かった。

 だからちょっと心苦しかったんだ。

 このままライトさんを好きでいていいのかなって。



 でもサクラは私のことを応援してくれるって言ってくれた。

 それにテントで寝てる時はライトさんの隣で寝ていいとまで言ってくれたんだ。

 うぅ…… 嬉しいけ思い出すだけで照れちゃう…… 



 ある晩ライトさんの隣で寝ている時のことだ。

 夜中にこっそりサクラと私が寝ている場所を取り換えっこする。

 ふふ、サクラありがとね。スヤスヤと眠るライトさんの顔を見る…… 

 普段は大人の人っていう感じですごくかっこいい。

 でもあの寝顔…… 男の子みたいだ。かわいい…… 

 ふと、ライトさんの顔を触ってしまう。

 ライトさんは目をぎゅって閉じた後、私を抱き寄せた…… 



 この時初めて言ってしまったんだ……


 


 ライトさん…… 大好き……


 


 もう自分の気持ちに嘘は付けない。

 いつかはライトさんが起きている時に自分の気持ちを伝えよう……




『ブォ……』


 この声…… 

 出たわね? 

 後ろを振り向く。

 そこにはオークが三体。

 涎を垂らして私を狙っている。


「来なさい!」



 ダッ



 私は全力で森を走る! 

 オークの注意を引きつつオークを一か所に集める! 

 これが私の仕事!


 心配ないよ! 

 だってライトさんが守ってくれるんだもん! 


 ライトさん! 任せたよ!

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