第36話恒久対策 来人の気持ち

「フィーネ…… 気をつけろよ………」


 アバルサの町の城門前。今からフィーネがオークの囮となる。

 すまん…… こんな危険な役目を押し付けてしまって……


「はい! 大丈夫ですよ! 任せてください!」


 自信に溢れた笑顔で言ってくれるのだが、心配だ。

 フィーネが強いのは理解している。だが敵は多数。

 ヘイトを取った後はフィーネが囲まれないようにしなくてはな…… 

 その為にも新しい武器を創造した。これがあれば…… 

 あ、しまった。一つ忘れてたことがある。


「あ、そうだ。そろそろ二十四時間経つな。フィーネ。こっち来て」

「なんですか? って、ひゃあぁん!?」


 フィーネを抱きしめておでこにキスをする。

 やはり事前にキスさせてくれなんて言えない…… 

 異世界とはいえ、四十のおっさんが二十歳になっていない子にキスをするんだ。

 嫌ですって言うに決まってる。

 

「毎度ごめんな……」


 ほんと、申し訳ないと思ってる…… 

 俺の能力なのかよく分からないが、なぜか俺のキスには色んな付与効果がついている。

 その中でも一度だけ致死攻撃から回復が大きい。

 これのおかげでフィーネは命が助かっている。


 思い出す…… 

 ダンジョンでバンシーという魔物の一撃を喰らいフィーネは死ぬところだった。

 もうそんな思いはしたくないからな。 


「これでよし…… ステータスを確認した。ちゃんと付与効果は付いてる。だけど致死攻撃からの回復は一度だけだ。油断しないでくれよ?」


 俯きながら首を縦に振る。

 目を合わせてくれない…… 

 うぅ…… そんなに嫌だったか。

 ここが日本じゃなくて良かった…… 

 セクハラで一発アウトだわ。

 まぁ準備は終わった。後は実行に移すのみ。


「フィーネ…… 気をつけるんだぞ……」

「はい…… 行ってきます……」


 フィーネは森に入っていく。

 頼んだぞ。


 俺は城壁に昇り、懐から指輪を取り出す。

 それを指にはめる。すると……


 暗闇に包まれていた辺りの視界が一気に開ける。

 初めて使うがすごいなこれ。

 地球で言うところの暗視ゴーグルと同じ効果だ。


 これはヴェレンのダンジョンで手に入れた猫の目の指輪だ。

 効果は暗所での視界確保。 

 夜のスナイピングに最適なアイテムだ。


 森に入ったフィーネを目で追う。 

 俺はその動きに合わせて城壁の上を移動。

 フィーネには町の外周を回るように逃げろと言ってあるので、ピンチになったらいつでも援護出来るようにしているのだ。


 フィーネの姿が見えなくなってきた。

 じゃあこれの出番だな。スナイパーライフルを構え、スコープを覗く。

 使い慣れた8倍率スコープだ。フィーネの姿がはっきり映し出される。

 これでよし…… 

 ちなみにスコープの倍率はこれ以上の物もある。

 最大で20倍なんてのもあったな。

 でも倍率が高ければいいというものではない。

 厳選を重ねた結果、この倍率が俺に一番合っていると結論付けたんだ。



 突如スコープで見るフィーネの動きが止まる。



 フィーネは後ろを振り返る。



 彼女の視線の先には……



 出たか。オークだ。

 見た目はRPGでいうオークその物だな。

 大型の魔物、直立歩行のブタがそこにいた。



「フィーネ…… がんばれよ……」


 声が届くはずもないがエールを送る。

 フィーネは走り出す。

 よし、作戦通りだな。

 フィーネを追ってオークも走り出す。

 ここからフィーネ達まで五百メートルはあるだろうか。

 


『ブォォォッ……』



 オークが鳴いている。

 ここまで届くんだからかなりの大声だな。

 仲間を呼んでるんだ。


 俺の予想は当たり、色んな所からオークが湧いてくる。

 フィーネを追ってくる奴らは放置でいいだろう。

 だが彼女の前方から迫ってくる奴は始末しないとな……



 スナイパーライフルを構える。


 狙うは頭。


 一撃必殺だ。



 チキッ……



 指をトリガーにかける。


 使う弾丸はスマートバレット。


 ホーミングはしないが有効射程内なら風や重力の影響を受けずに直進する。


 フィーネを待ち構えているオークを狙い……



 ガォンッ



 独特の発砲音が鳴り響く。

 このスナイパーライフルは俺が遊んでいたFPSの中では威力が低いほうに分類される。

 だがリコイルコントロールがしやすく連射もしやすい。

 じゃじゃ馬ショットガンとは対照的な武器だ。


 威力は低くとも関係無い。

 脳天を狙えばいいだけのことだ。


 発砲音と共にスコープ内に見えるオークの頭が弾け飛ぶ。

 フィーネがこっちを見てるのが分かった。

 あ、手を振ってる。こらこら、逃げないと。


 再びフィーネは走り出す。

 俺もそれを追って城壁の上を走る。


 前方から迫るオークを排除しつつ、フィーネの逃走経路を確保。

 彼女の後ろには…… 百体を超えるオークが迫ってるな。

 安心しろ。



 絶対に守ってやる。



 


 一時間ほどフィーネは逃げ回った。

 次第と動きが遅くなってくる。

 すまんな…… そりゃ疲れるよな。

 よく頑張ったぞ。


 フィーネの前方から迫るオークはもういない。

 ヘイトは取り切ったということだ。

 恐らく森にいる全てのオークはフィーネに迫っているだろう。


 ようやくコイツの真価が発揮される時が来たか。


 マガジンを外す。


 想像する。


 且つて運営がお遊びで作った弾丸。


 メガ・エクスプローダーを……


 なんのバグか分からんが数日その弾丸がゲーム内で出回ったんだ。


 言うに及ばず俺もその弾丸を試した。

 その弾丸は実在するらしい。

 だが威力の割にはコストがかかるということで現在は製造されていないそうだ。


 だがゲーム内では違う。

 それ以上に威力を高めてある。

 本来は弾丸の先に少量の火薬を埋め込むそうだが、これはC4を埋め込んである。

 しかも着弾と共に爆発するよう設定してあるので俺が自爆する心配も無い。


 こうして運営が対処に追われている間、PVPではスナイパーライフルによる爆散祭りが開催された。

 敵も味方も腹を抱えて笑ってたな。

 楽しい思い出だ。


「ははは……」


 思わず笑ってしまった。

 相手が百体いようとも関係無い。

 このスナイパーライフルのマガジンは15発。

 それを打ち切る前に……




 倒す。




 ガォンッ




 放たれた弾丸は着弾と共に爆発。

 この弾丸を使う時はボディショット狙いだ。

 発生した爆風が効果的に回りのオークにダメージを与える。

 爆風に巻き込まれた数体が地面に倒れ動かなくなる。



「次」


 ガォンッ


「次」


 ガォンッ



 後はただの繰り返しだった。

 オークはフィーネに近づくことなく数を減らしていく。

 雌を求める本能で動いているオークでさえも異変に気付き、その場から逃げ出そうとするが…… 


 逃がすと思う?


 

 ガォンッ



 最後の一撃がオークの頭に命中。と同時に爆発四散する。

 そして最後に一言……


「ビューリホー……」


 俺のクランではこれを言う決まりだった。

 まぁそのルールを作ったのは俺なんだけどね。


 一応最後にスコープでオークが残っていないか確認。

 動いている魔物はいないな。これでよし…… 

 だが完全に倒しきったとは限らない。

 明日もこれの繰り返しだ。スナイパーライフルからハンドキャノンに持ち替えてフィーネのもとに駆け付ける。

 フィーネは俺に気付いたのか……


「ライトさん!」



 ガバッ ギュウゥゥゥゥッ



 わわっ!? 抱きつかれた! 

 少し震えてるな。ごめんな、怖い想いをさせて。


「よくやった。フィーネががんばってくれたからオークを退治出来たよ。本当にありがとう……」

「ううん…… だってライトさんのこと信じてましたから……」


 そうは言ってくれるが、その顔には涙が浮かんでいた。


「帰ろうか……」

「はい…… で、でも暗くて足元が……」


 そうだな、俺は猫の目の指輪を付けてるから暗所でも問題無いが。

 さらに言えばフィーネは疲労困憊だ。

 しょうがないな。フィーネを抱っこする。


「ひゃあん!?」

「お疲れ様。まともに歩けないだろ? このまま帰るよ」


「は、はい……」


 そう言って俺に抱きついてくる。

 そのまま帰路に着く。

 道中でフィーネが話しかけてくる。


「私…… 頑張りましたよね……?」

「あぁ。フィーネのおかげだ」


「ふふ…… それじゃご褒美をもらってもいいですか?」

「いいよ。なんでも言ってくれ。ラーメンか? スイートポテトだって作るぞ?」


「違います! 確かにそれも好きだけど…… もう!」



 ギュッ チュッ……



 フィーネはちょっと怒ってから俺の顔を押さえて……


 キスをされた…… 


 前回よりも長い……


 ゆっくりとフィーネの唇が離れる……


 これは……? 


「フィーネ……?」

「何も聞かないで…… お願い……」


 言葉を遮る。もしかして……? いや、まさか……


 疑問に思いつつ、俺はフィーネを抱いたままアバルサの町に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る