第20話ダンジョンマスター

『…………』


 俺達の目の前には長い髪を持った女の化物がいる。 

 これがダンジョンマスターか…… 

 某ホラー映画のおばけそっくりだ。フィーネはバンシーって言ってたっけ? 

 戦闘前に先日取得した創造魔法、分析アナライズを発動する。

 それでこいつの力、弱点を探るんだ。


 目にオドを込める。


 イメージするのは大きな病院にあるようなMRI……

 

 意識の中で緑色の光線がバンシーを分析していく…… 


 そして視界の中に敵のステータスが表示される。



名前:バンシー

種族:アンデッド

Lv:382

DPS:355

HP:52892 MP:0 STR:1028 INT:12

弱点:???

能力:??? ??? 



 うわ…… 完全に脳筋タイプだな。

 MPが0ってことは魔法が使えないか。

 遠距離で戦うほうがいいな。

 それにしてもDPSが高い。だが勝てない相手ではないな。

 一応俺のDPSも確認しておくか。俺のDPSは敵の強さによって変わるはず。

 こちらのDPSが1でもあれば最終的には勝てるはずだ。

 要は攻撃が通りさえすればいい。俺は自身に向けて分析を行う。



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

レベル:10

DPS:12

HP:6027 MP:17209 STR:4005 INT:30082

能力:剣術3 武術10 気功10 料理4 障壁2 分析1

魔銃5(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー)

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ

付与効果:体力自動回復 隠密 24時間STR、INT二倍



 DPSは12か。充分に勝機はあるな。


「桜! フィーネ! 蟲との戦いと一緒だ! 後方からの攻撃を頼む!」


「わ、分かった!」

「ライトさん! 気をつけてくださいね!」


 俺は一人で前に出る。

 近づいて分かったことがある。

 こいつ…… でかいな。

 身長は3メートルはあるのでは……?


 バンシーの得物は大鎌。長さはやつの身長と同等ってとこか。

 俺はバンシーの制空圏に入らない距離を取りハンドキャノンを構える。


 頼んだぞ、相棒……


 俺はバンシーの額を狙い、トリガーを引く。



 チキッ…… ドンッ

 

 バスッ


『ヴァ……?』


 低い音の発砲音が鳴り響く。

 一撃を食らったバンシーは上体を逸らし、少しノックバックする。

 目の端にあるバンシーのステータスを確認。



名前:バンシー

種族:アンデッド

Lv:382

DPS:355

HP:52880/52892 MP:0 STR:1028 INT:12

弱点:???

能力:??? ??? 



 よし、ダメージは通っている。

 後はヘイトを取りつついつも通り戦えば…… 

 それにしてもこいつの能力が気になるな。

 一体どんな力を持っているのか?


 ふとバンシーの長い髪の間から視線が漏れる。

 俺を見てるな…… 次の瞬間、大鎌の横薙ぎが来る! 

 想定済みだよ!


【障壁!】



 ブゥゥンッ ガキィンッ



 俺は障壁を発動! バンシーの一撃を容易く弾く!

 これはDPSに関係なく全ての攻撃を弾く無敵の盾だ。

 だがこれにも弱点がある。

 障壁を張っている間は俺は一切の攻撃が出来ないんだ。

 なので今度は桜とフィーネが攻撃を開始する! 



「ファイアウォール!」



 ゴゥンッ



『ヴァァ……』



 目の前に火の壁が出現する! 

 目測数メートルはあろうかという火の壁がバンシーを包み込む…… 

 その後、桜の爆裂の矢が着弾。

 俺に一撃を食らった時より大きくノックバックする。

 俺は障壁を解除して距離を取る! そしてハンドキャノンを連射!



 ドドドドドドンッ



 六発の銃弾全てがヘッドショット! 

 どうだ! これでも平均キルレは2を下回ったことはない。

 まぁ俺のクランにはキルレ3ていうバカみたいに強いヤツもいたんだけどね。


 ダメージ確認だ。今の一連の攻撃でどれくらいのダメージを与えることが出来たか。



HP:52790/52892


 

 着実に削ることは出来る。それにしてもこの戦い方は有効だな。

 特に桜の爆裂の矢がありがたい。

 ノックバックを引き起こすことで俺はバンシーと距離を取ることが出来る。

 じゃあ次の作戦だ。


「桜はそのまま爆裂の矢を頼む! フィーネは色んな魔法を試してくれ! 弱点を探る!」

「了解!」「分かりました!」


 再びバンシーの攻撃が始まる。


『ヴァァッ!』



 ブンッ ガキィンッ

 ブンッ ガキィンッ



 俺は障壁を張ってヤツの攻撃を凌いでいるのだが、かなり怖い…… 

 これほんとにDPS355か!? 

 一撃を食らったら死ぬのではないだろうか……?


風弾エアバレット!」



 ドシュッ



 フィーネの魔法が直撃する。

 ダメージだけ確認するか。どれどれ?



HP:52785/52892


 

 風魔法ではDPSは5か…… 


「違う属性だ!」

「じゃあ! 氷槍っ!」



 ジャキンッ ザクッ



 フィーネの放った水魔法だろうか? 

 尖った氷がバンシーに直撃する。

 桜の爆裂の矢を食らった時のように大きくノックバック。

 もしや……? 俺は再度分析を発動。



名前:バンシー

種族:アンデッド

レベル:382

DPS:355

HP:52860/52892 MP:0 STR:1028 INT:12

弱点:水魔法

能力:??? ???



 氷槍のDPSは25か! 

 しかも弱点が分かった! 


「フィーネ! そのまま氷槍を撃ち続けろ! 弱点は水魔法だ!」

「分かりました!」


 俺はヘイトを取りつつ隙を見てハンドキャノンで攻撃、桜の爆裂の矢はダメージを与えつつノックバックを誘う。

 そしてフィーネの水魔法…… 

 こうして俺達はジリジリとバンシーのHPを削っていく。

 バンシーのHPが2万を切った所で変化が起こった。


 バンシーは上体を逸らし、大きく息を吸う。

 不自然なほど胸が膨らんでいるな。何をする気だ……? 

 限界まで息を吸い終わったところでバンシーは俺に向かって……


『ヴァアアアーーー!!』


 ビリビリビリビリッ


 うおっ!? なんだ? 大声出しやがった! 

 なんだ叫んだだけかよ……


 グッ……


 って体が動かない!? 

 バンシーはにやりと笑う。

 俺が動けないことをいいことにゆっくりと大鎌を振りかざして…… 

 俺に叩きつける!?



 ブォンッ ガキィンッ



 だが俺は障壁を張っている。

 大鎌は障壁に弾かれ、バンシーの表情は憎々し気に歪む。

 危ねー…… まじ死んだかと思った。

 もしかしてこれがコイツの能力か? 

 もう一度分析を発動する。すると……



名前:バンシー

種族:アンデッド

レベル:382

DPS:355

HP:19857/52892 MP:0 STR:1028 INT:12

弱点:水魔法

能力:スタンボイス ???



 スタンボイス…… 麻痺効果ってことか。

 敵を動けなくしてから大鎌で止めを刺す。

 これがバンシーの攻撃パターンか。

 くそ、最前線にいる俺は防御しか出来なくなったな。

 もし障壁を解いている時にスタンボイスを食らったら…… 

 俺は大鎌の餌食になるだろう。命は大事にだ。


「桜! フィーネ! すまんが攻撃は任せたぞ! 俺は障壁を張ることしか出来ない!」


「分かった!」

「任せてください!」


 頼んだぞ! その代わりヘイトはしっかり取っておくからな!

 その後もスタンボイスを受けつつバンシーの攻撃を受け続ける。

 俺が攻撃に参加出来ない分ダメージ量は減っているが、それでもこちらの攻撃は通っている。

 バンシーは憎々し気に俺に攻撃をし続ける。

 そしてバンシーのHPが一万を切った。もうすぐだ! みんな頑張れ!


 バンシーは再び大きく息を吸う。またスタンボイスかよ。

 馬鹿め、どうせお前の攻撃は俺に通らないんだ。


 無駄なことを……?



 

 ニタァッ ゾクッ……



 ふと背筋に悪寒が走る。

 バンシーは長い髪の間から視線を俺に送る。

 口元が歪む。いや、笑ってるんだ。


 そしてバンシーは特大のスタンボイスを放つ。



『ヴァアアアーーー!!』


 ビリビリビリビリビリビリッ


 うおっ!? 来ると思っていてもこの攻撃は強烈だ! 

 俺の体は麻痺し、その場から動けない! 


 俺を見てバンシーは笑う。攻撃が来るか?



 スッ……



 いや違った。 


 バンシーはその場からいなくなったんだ。


 文字通り、煙のようにその場から姿を消した。


 再び悪寒が走る。


 しまった…… こいつにはもう一つ能力があったんだ……


 硬直が解け後ろを振り向く…… そこには……


 桜とフィーネの背後で大鎌を構えて笑うバンシーの姿があった。


「桜! フィーネ! 逃げろ!」

「え? なんのこと……?」「サクラ! 危ない!」



 ドンッ ザクッ



 俺の言葉に気づいたのかフィーネが桜を突き飛ばす。だが……


 フィーネは……


 バンシーの一撃を胴に食らい……


 俺が見た光景……


 








 フィーネの上半身がこちらに飛んでくる悲しい光景だった。

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