第21話切り札

 フィーネはバンシーの一撃を食らい、胴を両断された…… 

 ゆっくりとフィーネの上半身がこちらに飛んでくる……


 受け止めなくちゃ……



 ドサッ 



 俺は無意識にフィーネを受け止める。


 目が合った。言葉も無く俺達は見つめ合う。


 フィーネは自分に何が起こったのか理解していないようだ。


 俺はフィーネを抱きしめる。


「あれ? 何が起こったの? ライトさん? あれ? なんだか…… 足の感覚が無いの? どうして?」


 混乱してる…… どうしよう…… 

 俺はこの子を助けられない。ラノベみたいな回復魔法は使うことは出来ない。

 くそ…… このままじゃフィーネは……


「フィーネ…… 大丈夫…… 大丈夫だよ……」

「大丈夫? 私どうなったんですか?」


 フィーネが下に視線を送る。

 駄目だ…… 見るな……


「あれ? 私の足……? いやぁー!? ねぇライトさん!? 私どうなっちゃうの!? このまま死んじゃうの!? やだ! やだよ! 怖いよ!」


 俺はフィーネを抱きしめることしか出来ない…… 

 桜は俺達を見て茫然としてる。

 幸いにしてバンシーは近くにいない。

 遠目から俺達を笑って見てやがる……


「桜! こっちに来い! 急げ!」


 俺の声に我を取り戻したのか桜はこちらに駆け寄ってくる。

 そしてフィーネを見て泣き崩れた。


「そんな…… フィーネちゃん……」


 フィーネの口からはゴボゴボと血が溢れ出す。

 次第と顔色が青くなってくる。


「ライトさん…… 死にたくないよ……」


 畜生…… 

 これがゲームならリセット出来るのに。やり直せるのに。

 でもこれは現実なんだ。俺の腕の中で仲間が死のうとしている。

 妻のことを思い出す。凪も俺の腕の中で死んだ。




『来人君…… ごめんね…… 桜のこと…… 頼んだよ……』

『凪…… 死なないでくれ…… 俺を置いていかないでくれ……』

『ごめんね…… 愛してるよ……』




 そう言って凪は死んだ。

 そしてフィーネの命の火も消えようとしている…… 

 俺は無力だ。フィーネに何もしてあげられない。

 出来るのは彼女が息絶えるまで抱きしめていてあげることだけだ。

 妻にしてあげたのと同じように……


「ライトさん…… 寒いよ…… 怖いよ…… もっと強く抱きしめて……」

「あぁ……」


 フィーネを抱きしめる。


「ふふ…… 嬉し……」



 フィーネの体から力が抜ける。



 瞳は虚空を見上げている。


 






 フィーネが死んだ。





 ザッ


 俺は一人障壁から抜け出す。

 フィーネの亡骸と桜を置いて。


「パパっ! どこに行くの!」


 桜…… お前だけでも助ける。

 恐らくバンシーを倒さないとここから出られないだろう。

 刺し違えてでも……





 お前を殺す。




 イメージする。



 且つてはまっていたFPSを。



 昨夜創造魔法で作り出した悪魔の兵器。



 どんな武器より瞬間火力が高く。 



 一度ロックすれば地獄の果てまで標的を追尾する。



 着弾すると爆風と共に小型クラスター弾が敵をズタズタにする。  



 しかもそのクラスター弾の全てにも自動追尾性能がついている。



 悪魔の兵器、ゲームバランスを崩壊させるロケットランチャー……



 その名も…… 悪夢ナイトメア……



 それだけではない。俺はこの兵器に制約を課していた。

 一日に使える回数は一回のみ。持てる全てのMPを消費する。

 最後の切り札としてとっておくつもりだったんだけどな。


 俺はロケランを構える。

 サイトの中心にバンシーを捕える。



 ピッ



 一度だけ鳴る電子音。ロックが完了した証拠だ。



 この一発に俺の持てる全てを込める。



 あばよ……



 トリガーを引くと弾頭が発射される!



 シュオンッ ゴォォォォッ


 スッ……



 勢いよく砲身から弾頭が飛び出す。バンシーはそれを見てから姿を消す。

 恐らくバンシーのもう一つの能力は瞬間移動なんだろうな。

 でもな……


 一度悪夢こいつにロックされれば逃げることが出来ない。

 こいつの追尾性能は異常だ。

 一度クラン内で実験したことがある。

 身内戦を行う中でこいつの性能を確かめたかったんだ。

 俺はこいつにロックされたまま走り回った。

 マップの端から端までね。だけどこいつからは逃げ切ることが出来なかった。

 狭い通路でも壁に当たることなく俺目掛け飛んでくる…… 

 瞬間移動なんて関係ない。

 目標を失った弾頭は空中で円を描きながら待機している。



 スッ……



 そしてバンシーが再び姿を現した。



 ゴォォォォッ キュンッ



 旋回していた弾頭はバンシー目掛け急降下。

 それに気づいたバンシーは悲鳴を上げる。


『ヴァ……!?』


 それ以上は聞き取れなかった。




 ドゴォォォンッ 




 爆音がこの空間に鳴り響く。

 激しい炎と爆風がバンシーの体を吹き飛ばす。


 だが、それだけでは終わらない。

 弾頭に搭載された二百を超えるクラスター弾がバンシーの体を引き裂く。

 しかもだ。そのクラスター弾の全てに完全追尾性能が備わっている。

 恐らくバンシーは最初の一撃で死んでいるだろう。

 だがクラスター弾に体を引き裂かれ……


 

『…………』



 バンシーの姿は虚空へと消えた……




 勝った…… 


 だが虚しい勝利だ。


 失った物が大き過ぎる…… 


 俺は桜とフィーネのもとに戻る。

 桜はフィーネの亡骸の前で涙を流す。

 俺を見上げ……

 

「桜…… もう大丈夫だぞ…」

「パ、パパァ…… フィーネちゃんが……」


 分かってるよ…… 

 桜を抱きしめる。後でお墓を作らなくちゃな…… 

 フィーネの亡骸を抱きしめ話しかける。

 もう聞こえてないだろうけどね……


「フィーネ…… 助けられなくてごめんな…… 今まで俺達を助けてくれてありがとう……」

「ん……」



 ギュッ



 え? フィーネが抱きしめ返してくる?

 フィーネの体が薄っすらと光を帯びる。


 なんだ? 何が起こった? 



 あ…… そうか、忘れてたよ。ははは…… 

 そう言えば桜とフィーネには一つ付与効果があったんだ。

 ちゃんと今朝もそれをかけて来たのをすっかり忘れてた。

 そう、その付与効果とは……



来人の抱擁(一度だけ致死攻撃から回復)



 こういうことだったのか。

 フィーネの失われた下半身は光が強くなった次の瞬間には元通りになっていた。

 青かった顔色が血の気を取り戻す。

 そして目が開き……


「ん…… ここは? ライトさん? サクラ? 一体どうなったの?」


 キョロキョロと不思議そうに俺達を見つめていた。


「フィーネ…… よかった……」

「うわぁぁぁん! フィーネちゃん! 心配したんだからっ!」


 桜はフィーネに抱きついて無事を喜ぶ。

 俺も嬉しいよ…… 

 フィーネは自分の置かれた状況を理解出来てないみたいだな。


「わ、私はバンシーの攻撃を受けて死んだんじゃ……?」

「俺の能力だよ。確か来人の抱擁ってあっただろ? それの効果でどうやら生き返ることが出来たみたいだ」


「そうですか…… 私達、勝てたんですね……?」

「あぁ…… フィーネのおかげだ。そしてフィーネ……」


「なんですか? って、ひゃあぁんっ!?」


 俺はフィーネを抱きしめる。

 強く、とても強く……


「フィーネ…… 桜を助けてくれてありがとう…… 君が身を挺して桜を救ってくれなかったら…… 君は俺達の恩人だ……」

「ラ、ライトさん!? そんな…… 恩人だなんて……」


「フィーネ…… 出来ることなら何でもするよ。俺に出来ることならね」

「出来ること……? ふふ、そうだ。じゃあここから出たらラーメンが食べたいです!」


 はは、お安い御用だ。いくらでも作りましょうとも。


「もう一つ……」


 なんだ? まだリクエストがあるのかな? 

 はは、この際だ。何個でも言ってくれ。


「目を閉じてくれませんか……?」

「目を? いいけど?」


 目を閉じる。

 ん? なんか吐息が近いな? 



 チュッ



 え? この唇に当たる感触……?


 少しだけ目を開ける…… 

 フィーネが俺にキスをしていた…… 

 唇が触れるだけの。付き合い始めた若いカップルがするような。


 だが久しぶりの感触…… 

 かみさんを失ってから誰ともしたことが無い失って久しい感触だ。


 フィーネの唇がゆっくりと離れる…… 

 あれ? フィーネって俺のこと嫌いなんじゃ……?


「フィーネ…… どういうつもりだ?」

「ふふ、秘密……」


 フィーネは恥ずかしそうに笑う。

 女ってのは分からんな。

 キスか。何気にフィーネとは二回目なんだよな……


 顔を真っ赤にしながら俺達を見ていた桜が近づいて……


「もう! 娘の前でイチャイチャしないで! ほら、ダンジョンは攻略したんでしょ! もう帰るよ!」


 はは、そうだな。こんなところに長居は無用だ。

 さて帰るとしますかね。俺は立ち上がる。

 フィーネは……? ん? なんだか立てないみたいだ。


「どうした?」

「なんだかフラフラしちゃって…… あれ? 貧血かな?」


 そうか。命は助かったが失った血は取り戻せないんだろうな。

 仕方ない。俺はフィーネを抱っこする。


「ひゃあんっ!?」

「ほら、行くよ。掴まってな」


 俺はフィーネをお姫様抱っこして五十階層を後にする。

 さて町に戻って祝勝会だな。


 部屋を出る前に桜が何か拾ったようだ。


「パパ、多分ドロップ品だよ」

「そうか、大事に仕舞っておけよ」


 こうして俺達のダンジョン攻略は終わる。

 レベルも上がったし、ドロップ品も多数拾えた。

 万々歳だな。さて帰るとしますかね。



◆◆◆◆◆◆



 ダンジョン攻略後のステータス



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:15

HP:9742 MP:27779 STR:6283 INT:32476

能力:剣術3 武術10 気功10 料理4 障壁3 分析2 

魔銃6(ハンドキャノン ショットガン ロケットランチャー)

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ

付与効果:体力自動回復 隠密 24時間STR、INT二倍



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:14

HP:7083 MP:24761 STR:4998 INT:30021

能力:舞10 武術10 気功10 分析2 魔導弓6(爆裂の矢 氷結の矢)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 無限ラーメン

付与効果:体力自動回復 隠密 24時間STR、INT二倍

New! 亡き母の加護(無限調味料)


名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:33

HP:721(2000) MP:1139(2000) STR:255(2000) INT:2153(2000)

能力:剣術4 武術5 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

付与効果:亡き母の加護(各ステータス+1000) 舞(体力自動回復 隠密 24時間SRT、INT二倍) 来人の料理(各ステータス+1000)

New! 来人のキス(一度だけ致死攻撃から回復、且つ状態異常回避、MP自動回復)


 

ドロップ品 


猫の目の指輪(レリック 暗所での視界確保効果)

亡国の騎士の剣(レリック)

大きな宝石(レリック)

スケルトンの髄液(マジック 換金素材)

聖樹の苗木(マジック 体力自動回復効果)

血塗られた暗殺者の短剣(レリック)

極北の冒険者のマント(マジック 体温維持効果)

ブラックダイヤモンド(マジック 換金素材)

幸運の指輪(レジェンダリー 隠れステータスLuc向上)

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