第19話ダンジョンへ 其の十
ブブブブッ……
ん…… 腕時計が振動をしてるな。
セットした目覚ましを解除する。
横を見ると桜とフィーネが気持ち良さそうに寝息を立てている。
二人を起こさないよう一人テントを抜け出す。
さて朝ごはんの準備だな。
俺の料理を食べることでフィーネは付与効果を得られる。
桜のおにぎりの効果と合わせてプラス二千。この効果を見逃す手は無い。
昨日の内にフィーネに用意してくれた食材を使い調理を開始。
だが調味料は限られており、出来る料理の幅は狭い。
くそ、みそ汁とか作りたいのにな。文句を言っても仕方ない。
今日はベーコンエッグと焼いたパン、酢があったのでそれを基にドレッシングを作り、野菜サラダも準備した。
香ばしい香りが辺りに漂う。
お湯が沸いたのでコーヒーも人数分用意しておく。
さぁ寝坊助さん達を起こすかな。
テントの中に戻り二人を起こす。
「ほら桜。ごはんだぞ」
「ん~…… パパ、おはよ……」
大あくびをしながら桜が起きる。
じゃあ次はフィーネだな。
「フィーネ、起きな」
「んむぅ……」
フィーネは起きない。だがその代わり俺に抱きついてくる……
前回はこのままキスをされたんだよな。ビンタのおまけ付きだったけど。
今回はキスを避けるため、そのままフィーネを抱き起こす。
お姫様抱っこをしたままフィーネをテントの外に連れ出した。
「ふふ、やっぱりフィーネちゃんって……」
なんだか桜がいたずらっぽく笑っているのだが。
「なんだよ…… しょうがないだろ? あのまま抱きつかれてたら、またキスされちゃうからな」
「え!? 二人ってもうキスしたの!?」
「あぁ、そうか。まだ言ってなかったか。でもあれは事故みたいなもんだ。キスの内に入らないよ」
「パパ…… そんな簡単に言ってるけどさ……」
桜は顔を赤くしている。はは、
まぁお前さんもその内彼氏が出来たらキスの一つでもするようになるさ。
俺は恋愛については放任している。
どうせ禁止したって好きになる時は突然やってくるもんだ。
まぁある程度礼節を持って、順番を守って恋愛すればいいのさ。
「ん…… あ、ライトさん!? どうして私を抱っこしてるんですか!?」
「フィーネが抱きついてきたんだよ…… そんなことよりごはんにするよ。ほら、降ろすからね」
フィーネを降ろしたところで朝ごはんの開始だ。
今日はダンジョン最深部に挑む。みんなしっかり食べておけよ。
◇◆◇
朝ごはんを終え、準備を整える。
上手くいけばこのダンジョンとは今日でおさらばだ。
今思うとそんなにここに居なかったな。今日で五日目か。
初めは五十階層と聞いて数週間は要すると思ってたけどね。
フィーネはテントを亜空間にしまい、準備完了。
俺と桜は手際の良さに関心する。
「パパ、やっぱりさ、収納魔法って便利だよね……」
「そうだな。覚えたい?」
「そうだね。あれば便利かも……」
俺もそれは考えた。
これがあればアイテム管理など効率的に行える。
調理もスムーズに行えるはずだ。でも……
「止めておこう……」
「え? なんで?」
俺に止められたのが意外だったみたいだな。
止めたのには理由がある。
「そうだな…… 曖昧な説明になってしまうかもしれないが。スマホを例にしてみよう。能力や魔法をアプリと考えるんだ。でもさ、色んなアプリを入れすぎるとスマホってどうなる?」
「えーっとね…… 動作がもっさりする?」
「そうだな。メモリってのは有限だ。アプリを入れすぎるとスマホ本体に負担をかける。この場合のスマホってのは俺達自身のことな。恐らく覚えられる能力、魔法には上限があるはず。それにアプリを管理するのも大変だし、結局使わないアプリだって出てくるだろ? だったら作り出す魔法は本当に必要なものだけにした方がいい。今後のためにもね」
「今の説明分かりやすかったよ! じゃあ収納魔法はフィーネちゃんに任せることにするね!」
よかった。理解してくれたか。
恐らくではあるが、一度産み出した能力、魔法なんかは削除することは出来ないだろう。
今後のことを考えるとあまり創造魔法を乱発するのは止めておこうとの結論に至った。
いや、もちろん必要とあらば魔法を作り出すつもりなのだが。
さてフィーネの準備も出来たようだ。
俺達はダンジョンへと続く階段を降りる。
昨日の段階でキャンプ地付近に階段を見つけておいたのだ。
三人で階段を降りる。って先が見えないな……
大○戸線より長い階段なんじゃないか?
「フィーネ…… 随分下るんだな。ダンジョンってこんなものなの?」
「いいえ…… 他にもダンジョンは行ったことがあるのですが、こんな長い階段は初めてです……」
「そのダンジョンってのは?」
「駆け出しの頃に一度行ったことがあるんです。でもそこの最下層は十階で、ダンジョンマスターも大して強くはありませんでした……」
そういえばダンジョンについて知らないことがあるな。
ダンジョンマスターってのはボスのことだよな?
「フィーネ…… ダンジョンマスターっていうのはダンジョンの主、ボスってことだろ? 一度倒せば終わりってことにはならないの?」
「それはよく分かってないんです。所説ありますが、ダンジョンマスターを倒すとそのダンジョンに住む魔物が最深部を目指します。そこで一定期間過ごすと魔物はダンジョンマスターに変化すると聞いたことがあります……」
なるほど。ダンジョンってのはそういったサイクルで動いているのか。
でもダンジョンが存在してる理由ってなんだろうね?
「ダンジョンってさ、何のために存在してるの?」
「え……? そういえば考えたこと無いですね。私達の世界では当たり前にある物ですから。強くなるため、お金のため、理由は様々ですが冒険者は疑問を感じずにダンジョンに挑みますね……」
当たり前にあるものか。ダンジョンはこの世界にとって生活の一部なんだな。
じゃあ俺達も利用しない手は無いよな。
まぁ危険は伴うだろうけど……
そんなことを考えながら階段を降り続ける。
どれくらい経っただろうか。このまま地獄まで続いてたりして……
「着きました……」
先導していたフィーネが動きを止める。
そこには…… 禍々しい彫刻で彩られた大きな扉が。
おぉ…… いかにもボスの部屋って感じだな。
フィーネは振り向いて話始める。
「ライトさん、サクラ…… お二人の力は凄まじいものです。ですが、この先は危険が待っているはずです。どんな魔物がいるか分かりません。ここで引き返しても私達を非難する者はいないでしょう。ドロップ品も多数得ることが出来ました。どうしますか? このまま行きますか? それとも……」
そうだな。フィーネの言っていることは正しい。
撤退することも勇気の一つだ。
いかに俺達がバカみたいに強いステータスを持っていようとも無敵ではない。
レベルも上がったし、ここで無理をする必要はない。
でも……
「フィーネ、桜、多数決だ。俺はみんなの意見に従う。そうだな…… 今後も迷うことがあったら多数決で決めよう」
「え? それでいいんですか? だってパーティーリーダーはライトさんじゃ……」
おいおい…… いつ俺がリーダーになったんだよ。
単にこの中で年上だってだけだろ?
ははは、フィーネの方が冒険者歴は長いのにな。
「まぁいいか…… それじゃダンジョンマスターに挑みたい者! 挙手!」
フィーネと桜が手を上げる!
もちろん俺もね。
ははは…… みんな挑戦してみたいんだな。
「あ…… あはは」
「うふふ……」
「はは! そういうことだな! それじゃいっちょやってみますか!」
「はい! 頑張りましょう!」
意見は一致した。大丈夫。俺達ならやれるさ。
俺は扉に手をかけ、渾身の力を込めて扉を押し開ける。
ゴゴゴ……
鈍い音を立て扉が開く。
そこにあるのは広い空間。円形状だな。
イメージ的にはローマのコロッセオって感じかな。
中に足を踏み入れる。辺りを注意深く観察するが……
何もいないな…… すると後ろから音が聞こえる?
バァン……
扉が閉まる。後ろを振り向くと……
閉まった扉はゆっくりと消えていき……
壁と同化した。
フィーネが扉があった場所を探る。そして……
「閉じ込められましたね。恐らくダンジョンマスターを倒さないと出られないでしょう……」
ははは…… まさにRPGだな。
だいぶこの世界にも慣れてきたけど、ボス戦は初めてだ。
さて、どんな魔物が出てくるのやら。
ゾクッ
ふと、前方から気配を感じる。出たか……
いつの間にかソイツはいた。
長い髪。薄汚いドレス。項垂れているので顔は見えない。
某ホラー映画のおばけにそっくりだな。
違うのはその手に死神が持つような鎌を持ってることか。
「バンシー……」
フィーネが呟く。それがこいつの名前か。
俺は魔銃ハンドキャノンを発動する。
さぁ戦闘開始だ。
もう引退はしたが俺は且つては三百人を束ねるクランリーダー。
FPSで培った力を見せてやる。
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