第18話ダンジョンへ 其の九

 ドンッ


『ギッ……』


 俺のハンドキャノンから放たれた弾丸はリザードマン的な魔物の額に命中。

 地面に倒れる前に爆発四散する。

 空になった薬莢を取り出し素早くリロードする。

 まぁ魔物は今ので最後の一匹だったんだけどね。


「ねぇパパ、私達の弓矢とか銃とかって魔法で出来てるんでしょ? だったら弾を込める必要無くない?」


 桜は分かってないな…… 

 確かにその考えはあった。

 だがリロードは絶対に必要だ。なぜなら……



 シャララッ カチッ カチッ カチッ



「浪漫だよ。見ろよこのリロードアクション。どう、かっこよくない?」


 桜の前でもう一度リロードを行う。

 このハンドキャノンが持つ特有の性能、高速リロード。

 通常の銃より素早くリロード出来るのだ! 

 だが桜は俺をあきれ顔で見てから一言。


「はぁ…… パパのそうゆうとこ、未だに理解出来ないよ…… やっぱりB型だね」

「はは、そうかもな。凪も俺の無駄なこだわりには苦労してたみたいだしな」


 死んだかみさんはA型で、俺のこだわりなんかは理解してもらえなかった。

 桜はA型だから凪の気持ちがよく分かるのだろう。

 そんなやり取りを見ているとフィーネがフォローしてくれた。


「でも…… そのリロードという行為は必要なものかもしれません」

「え? なんでなの?」


「魔法っていうのは、なんらかの制約を付けた方が強い威力を発揮するの。例えば、一日に使える回数を制限する。MPの他にHPを消費するとかね。こちらに不利な発動条件を足すことで威力を増すってこともあるのよ」

 

 ほら見たことか。やはりリロードは重要なのだ。

 これを行うことできっと威力が増すはずなのだ!


「よく分からない世界ね…… そういえば今って何階層なのかな?」


「ここは…… 四十九階層ね。間もなく最深部となりますが…… 今日はここで終わりにしておきませんか?」


 時計を見ると…… 夜の九時か。

 そうだな。ここで無理をする必要は無い。

 今日はここで一泊だな。俺はオドを練り、広範囲に障壁を張る。

 直径5メートルはあろうかという球状の障壁が俺達を包む。


「これでよし…… フィーネ、野営の準備を頼む」


 俺の作り出した障壁は魔物の侵入を許さない。

 こうして俺達は魔物の巣窟の中でも安心して眠れるわけだ。

 一応ステータス鑑定で分かったのだが障壁を発動するのに消費するMPは百、そして一時間ごとにMPを百ほど消費するようだ。

 十時間障壁を張っても消費するMPは千程度だ。

 あまり戦闘に影響は出ないだろう。

 それよりも敵地で安心して眠れる方が重要だ。


 テントを張り終えたフィーネが俺のもとに。


「じゃあライトさん、今夜は私が料理を作りますが…… 作りたいものがあるんです」


 フィーネが恥ずかしそうにお願いしてくるな。

 何を作りたいのか?


「ライトさんのラーメン…… 作り方を教えてください……」


 はは、お安い御用だ。

 でも野菜を茹でてラーメンに盛りつけるだけだぞ? 

 教えることなんて…… 

 まぁいいや。俺とフィーネは二人で調理を開始した。

 更に桜におにぎりを出してもらい、海苔は巻かずに直火で炙る。

 焼きおにぎりも作ることにした。


 今夜は野菜たっぷりジ○ウ系ラーメンと焼きおにぎりだ。

 ラーメンも美味しいがこの焼きおにぎりが何とも…… 

 フィーネと桜もご満悦のようだ。

 幸せな気持ちのまま三人で焚き火に当たる。

 夜も更けてきた。でも今日は寝る前に…… 


 たっぷりとお湯を沸かし、それを持って俺は二人と距離を取る。

 上着を脱いでお湯に浸したタオルで体を拭き始める。



 ゴシゴシッ



 ふぅ…… 気持ちいいな。

 でもやはり風呂への想いは捨てられない。

 桜とフィーネは二人で体を拭き合うようだ。

 二人の声がここまで聞こえてくる。


「わー、フィーネちゃん、おっぱい大きいね! いいなー」

「そ、そう? でも戦う時に邪魔なのよね…… ちょっとサクラ、くすぐったいわよ……」

「えー、いいじゃん。触っても減るもんじゃないし」


 桜がセクハラをしているようだな。

 そうか、やはりフィーネの胸は大きいか…… 


「あーぁ、やっぱりお風呂に入りたいなー。頭もしっかり洗いたいし」


「そのお風呂っていうのは、そんなにいい物なの? ふふ、私も入ってみたいな」


 その言葉を聞いて俺は決心した。

 そうだ、風呂を作ろう。

 今は出来ないだろうが、このダンジョンを攻略し気持ちに余裕が出たら創造魔法を使って…… 


 ある程度ではあるが考えはあるのだ。

 俺の能力を使えば…… きっとアレは作れることだろう。


 でも今は戦うことに集中しよう。



◇◆◇



 体を拭き終わり、ある程度ではあるがリフレッシュ出来た。

 フィーネは眠気が来たのか、先にテントの中に入っていく。


「お先に失礼します…… お休みなさい……」


「うん、お休みね。フィーネちゃん」


 桜と二人か。親子で二人っきりになるのは久しぶりな感じがするな。お湯を沸かし、コーヒーを淹れる。


「ほら、熱いぞ」

「うん。ありがと……」


 二人で焚き火に当たりながらコーヒーを啜る。

 幸せな時間が過ぎていく……


「ねぇパパ…… 私達って帰れるのかな……?」

「不安か?」


 俺は桜のすぐ横に座り直す。

 娘の不安を解消するのも父親の役目だよな。

 桜の肩を抱く。


「大丈夫だ。俺達ならやれるさ。どんな時も二人で乗り越えてきただろ?」


 数年前、妻の凪が死んでから俺と桜は親子二人三脚で生きてきた。

 この子も寂しかっただろうに、そんな素振りを見せることなく気丈に振舞ってきた。

 そんな桜を見るといじましくてな……


 だから俺は自分の幸せは後回しにして、桜のことを一番に考えてきたんだよな。

 この子が作り出す輝かしい未来…… 

 それは俺達が生きる地球でしか成し遂げられない。

 この世界では駄目なんだ。


 だがそのためにはこの世界を生きて出なくてはいけない。

 強くならないと…… 桜に一つ提案する。


「桜、魔法を創造してみよう」

「魔法? どんな?」


 俺達が生み出そうとする魔法。それは……


分析アナライズだ。ラノベでは鑑定とも言うな」

「それってフィーネちゃんが持ってるステータス鑑定用の水晶みたいなやつのこと?」


「その通り。だがそれは敵、魔物のステータス鑑定のために作りたいんだ。敵の情報を得るっていうのはとても重要なんだ。俺達はこれからどんな強敵に出くわすか分からん。勝てない相手だっているかもしれない。だが敵の強さなんて見て分かるものじゃないだろ? だから分析が重要なんだ」

「そうか…… 強さとか弱点が分かったら優位に戦うことが出来るもんね」


 理解してくれたか。じゃあもう一つ付け加えておくか。


「桜、分析魔法を作り出す際、DPSを表示するようにしておいてくれ」

「DPS? なんなのそれ?」


 俺はDPSについての説明を始める。

 DPS…… それは一秒間に与えるダメージ量のことを言う。

 ダメージ効率と言ってもいいだろう。

 これはステータスよりも重要な表記となる。

 俺達のステータスはなぜかチート仕様と言ってもいい程に高い。

 だがレベルの高い魔物には勝つことが出来ても圧勝とはいかないのだ。

 これはレベル差がある故にDPSが下がっていることに他ならない。

 今後の戦いにおいてはステータス以上に重要な要素になるだろう。


「なんとなく分かったよ…… でさ、もし敵のDPSがすっごく高かったらどうするの?」

「その答えは簡単だ。逃げるだけだ」


「逃げるって……」

「だってしょうがないだろ? 例えば鑑定した魔物のDPSが千だったとする。俺達の今のHPが五千程度だ。これはつまり敵の攻撃が当たり続ければ俺達は五秒でお陀仏ってことになる」


 桜の顔から血の気が引いていくのが分かる。

 不安にさせたくて言ったわけじゃない。

 この過酷な世界で生き残るために必要なことだからだ。


「じゃあ早速分析魔法を創造してみよう」



 目を閉じて集中する……


 イメージするのは大きな病院とかで使われているMRIと言われるものだ……


 全方向から魔物を観察、その弱点を探る……


 そのイメージを己が両目に込める……


 少し目に痛みを感じた時……


 分析魔法は完成した……


 

「恐らく出来た…… すまんが試させてもらうぞ。桜、動くなよ」


 俺は桜を見つめる。


 すると視界の中にステータス表記が現れた。



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:9

DPS:52

HP:4998 MP:16732 STR:3209 INT:27892

能力:舞10 武術10 気功10 魔導弓5(爆裂の矢 氷結の矢)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 無限ラーメン 

付与効果:体力自動回復 隠密 24時間STR、INT二倍



  DPSは52か。かなり強いな。


「桜、お前のDPSは52だったぞ」

「えー…… たったの52? 私って弱いのかな?」


「いや、逆だよ。52って言ったらそんなに高い数値には思えないかもしれない。でもあくまでDPSっていうのは一秒間に与えるダメージのことを言うんだ。そうだな。じゃあDPSが52のお前が一分間俺を攻撃したとしよう。その数値はいくつになる?」

「えーっと…… 52かける60秒だから…… 3120?」


「正解。俺のHPは六千を超えている。だが俺はお前に攻撃を受け続ければ二分で倒されるってことが分かる」

「なんだか難しいね…… DPSについてはパパに任せるよ。もし逃げなくちゃいけない時は指示してくれればいいかな」


「はは、桜は数学が苦手だもんな。でも分からなくても分析は創造しておくんだ。絶対にお前の助けになるはずだ」


 桜も俺に習ってオドを練る。

 数分もすると分析魔法を習得したようだ。

 桜は頭を使って疲れたのか大きなあくびを一つ。


「ふあぁ…… 眠くなっちゃった。そろそろ寝ない?」

「俺はもう少しやることがある。先に寝ててくれ」


「そう…… じゃあお休みね、パパ……」


 桜はテントに入っていく。

 お休みな、桜。




 俺は一人、焚き火に当たり考える。



 恐らく明日はこのダンジョンの主と相まみえることになるだろう。



 俺は強い。だが、絶対に勝てるとは限らない。



 だから少しでも…… ほんの少しでも勝率を上げておく必要がある。



 はは、死ぬ危険が有るならもうダンジョンから撤退してもいいのにな。



 でも、なぜか挑みたくなったんだ。



 俺もガキだな。且つてはまったFPSで、攻略不能と言われたレイドに立ち向かうみたいにドキドキしてる。



 俺は一つの武器を思い出す。



 バランスブレーカー。



 それがその武器が持つ二つ名だった。



 その名の通り、その武器が有ると無いとでゲームの難易度が変わる。



 ゲームが上手い下手に関わらずその武器を連発してるだけで高難易度ミッションが簡単に攻略出来てしまうぐらいだったからな。



 俺はその武器を嫌った。その武器を持っていないとレイドなどの高難易度ミッションに誘われないという暗黒時代がそのゲームの中で発生したのだ。



 だから俺はクランを作った。特定の武器を持たずとも皆と一緒にゲームを楽しめるクランを……



 そんな忌まわしい武器。だが今の俺にはそれが必要だ。



 娘を…… フィーネを守るためにも……



 イメージする……



 どんな武器より瞬間火力の高い…… 



 一度ロックすれば地獄の果てまで標的を追尾する悪魔の兵器……



 着弾すると爆風と共に小型クラスター弾が敵をズタズタにする……  



 しかもそのクラスター弾の全てにも自動追尾性能がついている……



 悪魔の兵器、ゲームバランスを崩壊させるロケットランチャー……



 その名も…… 悪夢ナイトメア……



 ズシンッ



 両手にショットガン以上の重さを感じる。

 銀色に輝く砲身には見事なエングレーブが刻まれている。

 猛禽を思わせるレリーフが付いており、神々しさも感じさせる。


 俺はそのロケランに一つの制約をかけておいた。

 これで威力も上がるだろう。こいつを使い……


 必ずこのダンジョンを攻略してやる。

 決意を胸に俺は二人が眠るテントに入っていった。

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