第14話ダンジョンへ 其の五

「ライトさん…… お休みなさい……」


 私はライトさんに就寝の挨拶をするのだけど…… 

 あれ? ライトさんからは返事が無い。ライトさんを見ると…… 

 あ、もう寝てる。この人、寝つきがいいな。

 私の隣で寝ているサクラも気持ち良さそうに寝息を立てている。


 さぁ寝なくちゃ。起きたらダンジョンの攻略の続きなんだから。


 私は目を閉じる。何も考えない。

 いつもだったらすぐに眠りに落ちるのだけど……



 ……



 …………



 ……………………



 全然眠れない!? どうしよう!? 

 なんだかライトさんと同じ空間にいると思うと胸がドキドキしちゃって…… 


 こんな気持ちは初めて…… 私どうしちゃったのかな? 

 ライトさんに会ったのはたったの二日前なのに。


 二日前、私は魔物討伐のため、ヴェレンの町の近くの森に足を踏み入れた。

 畑の作物を食い荒らす大猪の退治をするために。

 でもそこで出会ったのは大猪ではなく、ゴブリンロードの一団だった。

 ゴブリンロードは強い魔物だ。

 個々の能力も高く、強大な力を持った魔物だけど、一番恐ろしいのは高い知性を持つということ。

 私は必死に戦ったけど、人間以上に連携を使いこなすゴブリンロードを相手に私はあっという間に捕らわれてしまった。


 ゴブリンロードは私を殺さなかった。

 でも彼らは私をアルブ・ネグロスに引き渡すと言った。

 それは私にとって死よりも恐ろしいこと。


 ネグロスは私達を転移の触媒として使うらしい。

 内包するオドを強制的に排出するんだよね……

 運よく生き残った人に話を聞いたことがある。

 その人はまだ二十歳にもなっていなかったが、その姿は老人のようだった。

 オドを吸いだされる際、激しい痛みを感じたそうだ。

 その痛みでほとんどの人がショック死する。

 運よく生き残ったとしても廃人、もしくは廃人同然にまで追い込まれる。


 いやだ。そんな目に会うぐらいならここで殺して…… 

 私は自身の運命を呪った。怖くて泣くことしか出来なかった。

 そんな時だ。


 鉄の馬。バイクを操り、ゴブリンロードを次々に倒していく人が現れた。


 それがライトさんだった。


 最初は怖かったけど…… 

 ライトさんはとても優しく接してくれた。

 ライトさんに助けられたその夜、私は夢を見た。

 おばあちゃんとの思い出の夢。

 おばあちゃんが幼い私に言ってくれた言葉。


 将来、私の前に人族の男の人が現れる。

 霧の中から現れたその人は、私達アルブ・ビアンコの救世主になってくれる。

 そしてその人は……



 ごすっ!



 痛い!? なんか鼻に硬い物が当たる!? 

 私は涙目で横を見ると…… サクラが寝返りをうっていた。

 サクラは寝相が悪いみたいね。

 なんかそのままゴロゴロ転がって私が寝てる場所を占領する。

 ちょっと、そこで寝られたら……


 私は寝る場所を取られてしまった。

 どうしようかな……? しょうがないか。

 私はサクラが寝ていた場所に横になる。

 隣にはライトさんの寝顔が……


 ダメ! 寝られるわけ無いよ! 

 そうだ。ライトさんの顔を見ないように背中を向けよう。

 これで眠れるかな?



 ギュッ



「桜……」 


 ライトさんが私の背を抱いてきた!?


「ちょっ!? ラ、ライトさん!?」


 ライトさんは応えない。

 その代わり強めに抱きしめられた……


 私は一睡も出来ないまま朝を迎えることになってしまった……



◇◆◇



 ふぁぁ。もう朝か…… 

 あれ? いつの間にか桜を抱き枕にして寝てたみたいだな。

 はは、昔を思い出すな。桜の背を抱いたまま一緒によく寝てたんだ。

 あ、そうだ。昔やったいたずらをしてやるか。



 ガブッ!



 俺は寝ぼけたまま桜の耳に噛みつく! 

 昔は美味しそうな餃子があったものでなんて言ってな。

 でもなんかこの餃子は…… いやこの耳は……? 

 なんか長細いな。人の耳じゃない?


「ひゃあん!?」


 なんだか色っぽい声がする。これはもしや……?

 俺は恐る恐る目を開ける。

 そこには涙目で言葉も無く抗議の視線を俺に送るフィーネがいた……


「フィ、フィーネ!?」

「ライトさんのバカ~!」



 バチーンッ



 俺はフィーネから二回目のビンタを食らうのだった……


 

 腫れた頬を抑えつつ、俺は人数分のコーヒーを淹れる。

 フィーネはそれを黙って受け取る。

 むぅ…… 目を合わせてくれない。

 せっかく彼女との距離が近くなったというのに……


「フィーネ、さっきは悪かった…… ごめんなさい……」

「…………」


 ぷいって横を向いたままフィーネはコーヒーを啜る。


「パパ、フィーネちゃんと何かあったの?」

「い、いや。なんでもない……」


 ほんとのことなんて言えるわけないじゃないか…… 

 まさか父親がうら若き乙女の耳を噛んだなんてさ。


「変なの。ほら、ダンジョンの攻略に行くんでしょ? フィーネちゃん、今日は何階層まで攻略するの?」

「そうですね。二人とも戦闘には慣れてきたみたいですね。私達三人の力を合わせれば今日中に40階層まで辿り着けるでしょ」


 40階層か…… 

 フィーネがソロで辿り着いた最も深い場所だよな? 


「フィーネ…… 40階層から下の情報はあるか?」


 フィーネはちょっとムスっとした顔で話し始める。


「そうですね…… ダンジョンの構造は今までと変わりませんでした。でも出現する魔物の種類が変わります。今まではアンデッドが主でしたが、今度は蟲や爬虫類の魔物が敵となります」


 蟲か…… それを聞いた桜の顔が青ざめる。


「パ、パパ! もうダンジョンはお腹一杯じゃない!? そろそろ帰ってもいいかもしれないよ!?」


 桜は昆虫が苦手だもんな。

 家にGが出たときも一人でパニックになってた。

 俺は苦手じゃないが得意でもないな。

 出来るなら相手にしたくない程度だ。

 まぁ蟲や爬虫類なら対処の仕方はあるな。


「桜、道中創造魔法で氷の矢を作っておいてくれ。出来るな?」

「氷? それが効果的なの?」


 おいおい…… これって小学校で習うことだろ? 

 いくら理科の成績が3だからってこれぐらいは知っておいて欲しかったな。


「変温動物、恒温動物って聞いたことはあるか?」

「ん? どこかで聞いたことがあるかも……」


「蟲、爬虫類は自分で体温調節が出来ない。俺達は寒い時は震えて体温を上げる。熱い時は汗をかいて体温を下げる。自身である程度は体温調節が出来るんだ。だが蟲達はそれが出来ない。寒いのは苦手ってことだ」

「へー、パパは物知りだね…… じゃあがんばって氷の矢を作っておくね!」


「あぁ頼んだぞ、じゃあフィーネ、そろそろ行こうか!」

「はい!」


 こうして俺達はダンジョンの40階層を目指す。

 その道中で俺も一つの新しい魔法、いや、新しい武器を考え付いていた。

 俺の考えが正しいならこれは有効な攻撃方法になるはずだ……



◆◆◆◆◆◆



 現在のステータス


名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:5

HP:4128 MP:12008 STR:2551 INT:25982

能力:剣術2 武術10 気功10 魔銃3(ハンドキャノン)

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス 無限コーヒー 無限タバコ

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上

New! 魔銃(ショットガン)



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:4

HP:3008 MP:12777 STR:2239 INT:20503

能力:舞10 武術10 気功10 魔導弓3(爆裂の矢)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 無限ラーメン

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上

New! 魔導弓(氷結の矢)



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:26

HP:215(1000) MP:408(1000) STR:65(1000) INT:1023(1000)

能力:剣術4 武術5 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

付与効果:亡き母の加護(効果は24時間 体力自動回復 ドロップ率向上) 来人の料理(各ステータス+500)

New! 来人の抱擁(一度だけ致死攻撃から回復)

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