第12話ダンジョンへ 其の三

 さて、俺達はさらにダンジョンを進む。

 道中戦闘を繰り返しては階層を下り続け、なんとか十階層まで辿り着くことが出来た。

 だがそこは……



 チュンチュンッ

 サアァッ……



 目の前に広がるのは広大な草原、天井は無く、空が広がっている。

 鳥は飛び、兎が跳ねまわっている。

 そよ風が俺の頬を撫でる…… 

 俺達はいつの間に外に出たんだろうか?


「フィーネ…… これって一体どういうことだ……?」

「ふふ、言ったじゃないですか。十階層に着いたら驚きますよって」


 フィーネは俺を見ていたずらっぽく笑う。


「私も詳しくは分かりませんが、このダンジョンは十階層ごとにこんな空間が広がっているんです。なぜかここには魔物も出ませんしね。もしかしたら冒険者のための休憩所なのかもしれませんね」

「ダンジョンの中に休憩所? そんな馬鹿な……」


「まぁいいじゃないですか。ライトさん、大分時間が経っています。疲れたでしょ? 今日はここで一泊していきませんか?」


 ん? もうそんな時間なのか? 

 時計を見ると…… もう午後6時だ。

 閉鎖空間の中にいたから時間の感覚がずれてるんだろうな。


「パパー…… お腹が空いたよぅ……」


 桜はお腹と背中がくっつくみたいなジャスチャーをしている。

 はは、かわいい娘に無理はさせちゃいかんな。

 じゃあ一休みするとしますか。

 でもまさかダンジョンの中で一泊するとは思わなかった。


「くそ、こんなことなら食料を持ってくるべきだったな」


 俺は日帰りでダンジョンから帰ってくることしか考えてなかった。

 食料は一応だが桜の無限おにぎりがある。

 飢えて死ぬってことはないだろうが、一日の食事がおにぎりだけってのは寂しい。


 食事は空腹を癒すものではない。

 美味しい食事は気力も回復させ、明日への活力にもなる。

 だから俺は必ず桜と夕食を共にしている。

 その代わり、会社での飲み会はほとんど参加しなくなっちゃったけどね。

 どうせ俺は下戸だし。


「じゃあ食事の準備をしますね。今日は私が作りますから」


 ん? フィーネ、食料を持ってきたのか? 

 でもフィーネは軽装だ。食料が入ったカバンなんかは身に着けてないはず…… 

 あ、そうか。フィーネは収納魔法が使えるんだったな。

 道中で戦闘した後のドロップ品なんかもフィーネに預けてた。

 彼女はそれを受け取ってはひょいひょいとドロップ品をどこぞの空間に放りこんでたんだ。


 フィーネは見えない空間に手を突っ込んで食材を取り出す。

 出てきたのは様々な調味料、野菜、肉、調理器具。すごいな。

 これがあれば何でも作れるわ。


「わー、フィーネちゃん、すごいね!」


 桜の称賛を聞いてフィーネはちょっとドヤ顔になった。

 ははは、フィーネって面白いな。基本は真面目ないい子なんだろう。

 でも時折見せる子供っぽさがかわいい。

 フィーネはご機嫌なまま調理を開始した。


 俺も手伝うかな……? 

 いや、止めておこう。せっかくフィーネがご馳走してくれるんだ。

 ここは大人しく待っているとしよう。



◇◆◇



 待つこと一時間。

 ダンジョンの中にも関わらず、夕日が西に沈み、辺りは暗闇に包まれる。

 まだかな? 俺お腹空いちゃった……


 桜は空腹に耐えきれず、懐から無限おにぎりを取り出し、それに齧りついている。

 俺も一つもらおうかな? いや、駄目だ。

 フィーネのごはんを待っていてあげないと。そしてようやく……


「出来ましたよー」


 おぉ! 待ってました! 

 俺と桜はご主人に呼ばれた犬のようにフィーネの下に駆け寄る……のだが、俺達の目の前にはなんか紫色の汁物が鎮座していた……


「フィーネ…… これってなんて料理?」

「え? 名前なんて無いですよ。お肉とか野菜とかを適当に煮ただけです」


 なぜ…… なぜ野菜と肉を煮ただけなのに、こんな毒々しい色になるんだ……


 いや、きっと色味が悪いだけだ。

 きっと味は美味しいに違いない。


「パパ…… これって食べられるのかな……?」

「桜。作ってくれた人の前でそんなこと言うんじゃない…… ほら、フィーネが一生懸命作ってくれたんだ。食べなさい」


「えー…… パパが先に食べてよ……」

「いや、お前が毒見…… いや、何でもない。それじゃありがたくいただきます……」


 俺は勇気を出してお椀にスプーンを入れる。

 紫色の汁を恐る恐る口に運ぶ。



 ズズッ……


 

 なんだか酸っぱいような、甘いようなよく分からない匂いが鼻腔に突き刺さる。

 スープの味を舌が感じた時…… 


 ん? か、辛い!? 

 いや、酸っぱい!? 

 なんか…… 



 不味い!!



「げほっ! げほっ! フィ、フィーネ! これなんだ!? 味見したのか!?」

「え? 味見? しましたよ。美味しくないですか?」


 フィーネには酷だが本当のことを言うべきだろうか?

 いや、言う必要は無いだろう。

 俺はフィーネにこのヤバ汁を食べるように促す。


「どれどれ? ん……!? ごほん! ごほん!! な、なにこれ!」


 いや、それは俺が聞きたいよ…… 

 フィーネの咳が収まるのを待つ。

 しょうがない。俺は桜におにぎりを人数分出しておくように指示しておいた。



◇◆◇



「おかしいなー…… いつもはもっと美味しく出来るはずなのに……」


 フィーネは半べそをかきながらおにぎりを齧る。

 この子、料理の基本とか解ってるのかな?


「フィーネ…… 誰に料理を習った?」

「習う? いえ、料理を習ったことはありません。小さい時に親とはぐれてしまったので……」


 そうか…… たしかフィーネの種族、アルブ・ビアンコの多くはアルブ・ネグロスに捕まってるんだったよな。

 彼女は誰に習うわけでもなく、一人で強く生きてきたんだろう。

 でもこのままじゃいかん。フィーネはまだ若い。その内結婚するかもしれない。

 将来の旦那を悲惨な目に会わす訳にもいかん。

 俺は半べそをかくフィーネの横に。


「フィーネ。まだ材料はあるか?」

「え? は、はい。食材は買えるだけ買ってきましたから……」


 そう言ってフィーネはありったけの食材を亜空間から取り出す。

 見たことも無い野菜が多い。

 俺はそれらを手に取って匂いを嗅ぐ。

 酸味を感じさせる赤い実はトマトみたいだな。

 そしてこの丸っこいのは玉ねぎみたいな匂いがする。

 他にも香りの強い野菜が数種類。肉の類も豊富だな。

 生肉、加工肉、なんでもあるじゃん。

 これだけあればどんな料理でも出来る。


「フィーネ。一緒に料理するぞ」

「え……? は、はい!」


 フィーネは笑顔で立ち上がる。突如料理教室を始めることにした。

 一応俺は素人ながら料理は好きだ。

 高校を出てからはずっと一人暮らしだったからな。

 レストランでアルバイトをしたこともある。

 その中で料理のバリエーションを増やすことが出来たのだ。

 和洋中なんでもござれだ。


 でも今日はあまり時間が無い。簡単に出来るものは……


「フィーネ。俺と一緒に野菜を切るぞ」

「はい!」


「こら! 大きさは均等に! 火の通りにムラが出来るだろ!」

「はい!」


「見てろ。まずは火の通りにくい物から先に鍋に入れる。香りの強い野菜は最初の方に入れちゃ駄目だ。香りが飛んじゃうからな」

「はい!」


「味付けは最小限。素材の味を活かす程度でいい。塩は一摘まみずつ鍋に入れるんだ……」

「はい……」


 こうして待つこと15分。あっという間に完成したのは……


「あー、ミネストローネだね。パパのミネストローネって大好き!」


 俺は人数分のミネストローネを器に盛りつける。

 パセリのような香草があったので彩りとして微塵切りにして器に振る。

 フィーネはその匂いを嗅いでうっとりしている……


「いい香り…… これが異界の料理なんですね」

「あぁ、簡単に出来て野菜もたっぷり摂れる。作り方は覚えたか?」


「はい! ちゃんとメモもしました!」

「はは、そうか。それじゃ熱いうちに食べよう!」

「頂きまーす!」


 三人で改めて食事を楽しむ。

 俺は食べ慣れた味だから特に美味いとは感じない。

 いつもの俺の味だ。


「んー! やっぱりパパの料理って美味しい! 我が父ながら女子力高いね!」

「はは、お褒めに預かり光栄です。ってゆうか桜、お前も料理しろよ?」


「えー。だってパパが作ったほうが美味しいんだもん」


 益体も無い会話を楽しみながら食事を進める。

 やっぱり食事ってのはこうじゃなくちゃね。

 フィーネは言葉も無くスープを食べ続ける。

 あ、器が空になってる。

 俺は言葉も無くフィーネから器を奪い、お代わりをよそう。


「あ、ありがとうございます……」


 はは、若いんだから遠慮しちゃいかんよ。

 この後もフィーネはお代わりを繰り返す。

 しっかり味を覚えておいてくれよ。

 次はフィーネに作ってもらうからな。



◆◆◆◆◆◆



 十階層を終えてのステータス



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:5

HP:4128 MP:12008 STR:2551 INT:25982

能力:剣術2 武術10 気功10 魔銃3(ハンドキャノン)

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上

New! 亡き妻の加護(無限コーヒー 無限タバコ) 料理2



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:4

HP:3008 MP:12777 STR:2239 INT:20503

能力:舞10 武術10 気功10 魔導弓3(爆裂の矢)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上

New! 亡き母の加護(無限ラーメン)



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:26

HP:215(1000) MP:408(1000) STR:65(1000) INT:1023(1000)

能力:剣術4 武術5 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

付与効果:亡き母の加護(効果は24時間 体力自動回復 ドロップ率向上) 来人の料理(各ステータス+500)


 

 ドロップ品 


猫の目の指輪(レリック 暗所での視界確保効果)

亡国の騎士の剣(レリック)

大きな宝石(レリック)

スケルトンの髄液(換金素材)

聖樹の苗木(体力自動回復効果)

血塗られた暗殺者の短剣(レリック)

極北の冒険者のマント(マジック 体温維持効果)

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