第11話ダンジョンへ 其の二

 目の前に魔物が迫っている。

 ダンジョンで最初に遭遇した敵…… スケルトンだ。

 幸いにして相手は一体。

 桜はその恐ろしい姿を見て俺の後ろに隠れたブルブルと震えている。


「パ、パパ…… ほんとに出たね…… あれ、CGとかじゃないよね……?」

「あぁ、本物だろうな。桜、戦う準備をしておけ。そういえばお前の弓はなんて名前なんだ?」


「あ、あぁ。あれね。一応魔導弓っていうんだ」


 魔導弓か。なかなかいいネーミングだな。


「魔導弓を出しておけ。あんなのと近距離戦闘を行う必要は無い。遠距離からちまちま削っていくぞ」

「待ってください」


 フィーネが俺達を制する。

 そして彼女は腰から剣を抜く。


「相手はスケルトン。下級の魔物に過ぎません。ライトさん、サクラ。魔物との戦いは初めてでしょ? お手本をお見せします」


 そう言ってフィーネは右手で剣を構える。

 スケルトンもそれに呼応するかのようにボロボロになった剣を構える…… 


 スケルトンは剣を構えたままジリジリと近づいてくる。

 フィーネは動かない…… 


 距離は更に近くなる。 


 あと数歩近づけば必殺の距離になる。


 くそ…… 冷や汗が出るな。

 スケルトンが一歩歩み寄ったところで……



 ザッ!



 フィーネが動く! 斬りかかるとばかり思ってた! だが違う! 

 左手で素早くナイフを抜いて、そのままアンダースローでナイフを投げる!


 

 カシュッ



『…………!?』



 乾いた音を立てナイフがスケルトンの額に命中した。

 ナイフは根元まで刺さっている。

 だが相手は魔物。致命傷には至っていないようだ。動きを止めたに過ぎない。


 次の一手。フィーネが動く! 


風弾エアバレット!」


 風魔法だろうか。フィーネの左手から野球ボール大の魔法が放たれる。



 ベキィッ ドサッ



 空弾はスケルトンの右足に命中。

 足は粉々に砕け、スケルトンはバランスを失って地面に這いつくばる。


「シッ!」



 ブォンッ バシュッ



 フィーネが独特の掛け声と共に剣を振るう! 

 斬りかかるのではない。剣の腹を使ったようだ。

 なるほど…… 相手は骨の化物。肉を持たない。

 斬撃よりも打撃の方が効果的なのだろう。

 フィーネの一撃を頭蓋に喰らったスケルトンは頭を砕かれ動かなくなった。


「お見事」

「…………」


 俺は思わず称賛の声を上げてしまう。

 桜は…… 言葉を失っているようだ。

 フィーネは剣を鞘に戻し、颯爽と俺達のもとに戻ってくる。


「ふふ、こんなもんですよ」

「すごいな。これが魔物との戦い方か……」


「まぁ相手の弱点を理解して効果的な一撃を繰り出すのが一番ですね。スケルトンは私よりレベルは低いですが、斬撃には強い耐性を持っています。それを理解せず戦うと自分より弱い魔物に倒されることもあるんですよ」

「なるほどな。理解したよ。フィーネ。この階層の敵はスケルトンが多いのか?」


「はい。確かここから五階まではスケルトンしか出なかったはずです」


 そうか…… じゃあ次は俺と桜が戦ってみるか。


「フィーネ。次の戦闘は俺達に任せてくれないか?」

「はい、いいですよ。でも二人が持ってる武器は錆びた短剣ですよね。その剣で戦うのはあまりお勧めしませんが……」


「大丈夫。俺達には創造魔法があるからね。それを使ってみるよ」

「創造魔法……? え!? もう何か魔法を生み出したんですか!? 一体どんな魔法なんですか!?」


「はは、それは見てのお楽しみってことで」


 初めての戦闘はフィーネの勝利に終わった。

 今の戦いを見てヒントを貰った。

 俺は道中密かに創造魔法を発動し、とある物を作り出す。 

 桜にもこっそり耳打ちをしておく。


「……の矢を作っておいてくれないか?」

「え……? た、多分出来ると思う。やってみるね」


 桜と俺は創造魔法を使いながら先に進む。

 これがあれば後の戦いを優位に進めることが出来るだろう。



◇◆◇



 ダンジョンを道なりに進む。

 分かれ道などは無く、一本道が続くな。


「ねぇパパ…… ダンジョンってもっと迷路みたいな物を想像してたんだけど」

「桜もそう思うか。なんか思ってたものと違うな」


 桜と俺はぼやきながら歩みを進める。フィーネが後ろから話しかけてきた。


「ふふ、これも今の内だけです。10階層を超えるとビックリすると思いますよ」


 ん? どういうことなんだろうか。

 ものすごい罠とかあるのはごめんだぞ。

 そんなことを思っていると…… 


 前方から足音が聞こえるな。

 カシャンカシャンと乾いた足音だ。

 出たか……


「桜、来るぞ」

「う、うん」


 俺と桜は歩みを止める。

 フィーネの魔法が辺りを青白く照らし、遠くから白い何かが近づいてくる……


 スケルトンだ。だが、その姿は……


 先ほどのスケルトンとは違い、全身に黄金に輝く甲冑を纏っていた。

 手に持つ大振りな剣も見事な装飾が施されている。

 先頭を歩くフィーネが大声で……


「スケルトンロード!? なんで!? まだ1階層のはずなのに!?」

「フィーネ! どういうことだ!?」


「分かりません! ですがスケルトンロードは20階層から下にしか出ないはず! ライトさん、サクラ! 逃げますよ! いかにステータスが高くても二人は戦闘は素人です! 死んでしまっては元も子もありませんから!」


 なんだかよく分からないが、いきなり強敵に出会ってしまったみたいだな。

 ここは逃げるのが得策なのだろう。だが……


「フィーネ! すまんが我がままを聞いてくれ! 少しだけ試したいことがある! もし俺達の攻撃が通用しなかったら全力で逃げる! だから戦うことを許可して欲しい!」

「え? で、でも相手はスケルトンロードですよ!? レベルは20を超えてます! 以前私が戦った時は辛うじて勝つことが出来たくらいです! そんな魔物を相手に戦うなんて許可出来るわけ……」


「三分だ」


 俺はフィーネに向かい指を三本立てる。


「三分戦って勝てなかったら逃げる。約束する」

「さ、三分…… ライトさん、勝算はあるんですか…?」


「あぁ。そうじゃなかったら戦おうなんて思わないさ。すまんがおしゃべりはお終いだ。敵は待ってくれないみたいだしな」


 スケルトンロードは俺達にゆっくり近づいてくる。

 まだ剣が届く間合いじゃないが…… 

 だがこれは俺の、いや、俺達の距離だ。


「桜、まずはお前からだ」

「う、うん……」


 桜は自信無さげに魔導弓を発動。

 右手に弓、左手に燃え盛る矢が出現する。


 桜は弓を構え…… 



 ギュッ ギリギリッ……


 フォンッ



 放つ。


 炎を纏った矢は真っ直ぐにスケルトンロードに向かって飛んでいく。

 だが敵は桜の矢を撃ち落とそうと剣を振り下ろす!


「今だ!」「了解!」



 ドゴォンッ



 俺達の掛け声と共に矢がスケルトンロードの前で爆散する!


「な!? 今のは!?」


 フィーネの驚いた声が聞こえるが今は説明している暇は無い。

 もうもうと舞い上がる白煙の中からボロボロになった甲冑を纏ったスケルトンロードが現れる。

 ダメージは負ったみたいだが、死んではいないか。

 まぁ相手はスケルトン。もう死んでるみたいなもんだろうけどね。


「じゃあ俺の番だな。桜、よくがんばったな」

「うん! じゃあ選手交代! パパ、がんばってね!」


 桜は俺の後ろに下がる。さて俺のターンだな。


 イメージする…… 


 昨日産み出した、且つての俺の愛銃を…… 


 狙うは顔面。FPSではヘッドショットが基本だからな。


 ズシリとした感触を右手に感じる。


 青く光る銃身。現実世界では作り出せない性能を持つ悪魔の銃。


 この銃は強すぎて、運営から何度も弱体化を食らった。

 でもどんな時でも俺はこの銃を手放さなかった。

 こいつを使ってPVPでキルデス比40を出した日は脳汁ドバドバだったな。

 はは、懐かしいわ。


 使う弾は特別製だ。フルメタルジャケットではない。

 より広範囲にダメージを与えるためにホローポイント弾を創造した。


 俺は銃を構え…… トリガーを引く……


 

 チキッ…… ドンッ



 おぉ…… 懐かしい発砲音だ。

 耳に残る心地よい音がしたと思ったと同時に銃から放たれた弾丸はスケルトンロードの頭蓋を打ち砕いた。


 そして……



 ドゴォンッ!



 その体は爆発四散する。


 はは、FPSで使ってた時と同じ効果だ。

 クリティカルヒットすると敵は爆発するんだったよな。


 焦げ臭い匂いが辺りに漂う。

 立ち込める煙が薄くなる。

 そこには砕け散った鎧の欠片が散乱していた。

 よし、どうやら無傷で勝てたようだな。

 俺は振り向いて桜に話しかける。


「桜、俺達の勝ちだな」

「…………」


 あれ? 反応が無いな。

 この子のことだから勝利を喜ぶと思ったのに。


「桜?」

「や、やったー! 勝てたー! すごーい! もう私達って最強じゃない!? こんなダンジョン、もう攻略したも同然でしょ! パパ、フィーネちゃん! さっさと次の階層に向かいましょ!」


 ははは、さっきまで怖がってたくせに。

 でも二人で掴んだ初めての勝利だ。俺も少し乗ってやるか。


「あぁそうだな。俺達の勝ちだ。でもな、油断だけはするなよ。俺達はある程度は強いみたいだ。でもな、RPGみたいに死んでやり直すことは出来ない。死んだらそこで終わりだ。そのことは肝に銘じておいてくれよ」

「うん! 分かった!」


 ほんとに分かってんのかな……? 

 まぁいいか。さて、次は俺達の身勝手を許してくれたフィーネにもお礼を言わなくちゃ。


「フィーネ。我がままを言って悪かったね。って、あれ? フィーネ?」


 フィーネが黙ったまま、俺を見ている。

 心ここに在らずって感じだ。どうしたのかな? 

 俺はフィーネの頬を軽くぱしぱし叩く。


「フィーネ? どうした? 意識がどっかに行ってるぞ?」

「あ…… ラ、ライトさん……? 今の魔法って……?」


「あぁ、あれね。詳しくは休憩した時にでも話すよ。ってゆーかフィーネ、顔が熱いな。やっぱり熱でもあるんじゃないか? ここで少し休んでいくか?」

「いいいいえ!? だ、大丈夫でしゅ! さ、さっさと先に進みましょ! サクラ、行くわよ!」


 フィーネが桜の手を引いて俺から逃げるように先に進んでいく……


 あれ? やっぱり俺ってフィーネに嫌われてるのかな? 

 まぁ相手は19歳の女の子。40のおっさんなんか嫌悪の対象なのかもしれんな。

 まぁ取ってしまった歳をどうにもすることは出来ん。

 でもあんなに嫌わなくてもいいのになぁ……


 俺はそんなことを思いながら二人の後を追う……のだが、足元に光る何かが目に入った。

 これは指輪かな? もしかしてこれがドロップ品なのかもしれん。一応取っておくか。

 スケルトンロードの剣もあるな。これも持っていこう。



◆◆◆◆◆◆



 戦闘後のステータス


名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:3

HP:3770 MP:10856 STR:2234 INT:23579

能力:剣術1 武術10 気功10 魔銃1(ハンドキャノン)

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:2

HP:2087 MP:10239 STR:1701 INT:19742

能力:舞10 武術10 気功10 魔導弓1(爆裂の矢)

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:25

HP:201(500) MP:375(500) STR:59(500) INT:991(500)

能力:剣術4 武術5 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

付与効果:亡き母の加護(効果は24時間 体力自動回復 ドロップ率向上)


 

 ドロップ品 


猫の目の指輪(レリック 暗所での視界確保効果)

亡国の騎士の剣(レリック)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る