第10話ダンジョンへ 其の一

 バイクを走らせること三十分。

 俺達は目的地付近に到着。

 フィーネもバイクの速度に慣れてきたのか今日は饒舌に俺に話しかける。


「ライトさん! バイクって本当に速いですね! ヴェレンの町からダンジョンまで半日はかかるんですよ!」

「もっとスピード出せるよ? やってみる?」


「これ以上!? い、いえ、結構です!」

「ははは! 冗談だよ! 異世界にいるとはいえ、安全運転で走ってるからね!」


「もう! ライトさんの意地悪っ!」


 益体も無い会話を楽しみつつドライブを楽しむ。

 ってそろそろ目的地かな。フィーネが俺の肩を叩く。


「ライトさん! バイクを停めてください! 着きました!」


 フィーネに促されてバイクを停める。

 辺りは…… 特に何もないな。

 地面にぽっかりと空いた大穴以外は。


「ここがダンジョンの入り口です。中には言うに及ばず多くの魔物がいます。気を引き締めていきましょう」


 桜もバイクを降りてフィーネに話しかける。


「フィーネちゃん。ラノベだとダンジョンって冒険者がいっぱいいるイメージなんだけど、ここには私達しかいないね」

「えぇ…… このダンジョンは銀級の冒険者しか来ちゃいけないことになってるの。それだけ危険な魔物がいっぱいいるのよ。ギルド登録の時同意書に記入したでしょ? 冒険者が怪我、死亡してもギルドは一切の保障に応じないって。命の危険があるのに身の丈以上のダンジョンを攻略するほど冒険者は馬鹿じゃないわ」


「でも私達って銀級じゃないし…… 大丈夫なのかな?」


 そう、俺達は冒険者の中でも最低ランクの木級冒険者だ。

 昨日冒険者になったばかりだしな。


「大丈夫よ。パーティーに一人でも銀級がいればダンジョンの出入りは認められている。だから冒険者は私に声をかけまくってたんだけどね……」


 なるほど、寄生ってやつか。昔はまってたFPSを思い出すな。

 レベルの低い寄生が高難度ミッションに行きたいってパーティーに潜りこんできたのを思い出す。


「では行く前に役割を決めましょう。この中では私が一番ステータスは低いですが、戦闘慣れはしています。浅い階層では私が前衛を務めます。ライトさん、サクラは後ろで私の援護をしてください」


「援護か…… 分かった。任せるよ。でもその前に。桜、おにぎりを三つ出してくれ。それと一つやってもらいたいことがあるんだ」


「おにぎり? いいよ、ちょっと待ってて」


 桜は懐からおにぎりを取り出す。

 死んだかみさんの加護がたっぷりつまったおにぎりだ。

 俺達は三人でおにぎりを頬張る。

 フィーネはおにぎりをとても気に入ったようだ。


「ほんと美味しいですね、おにぎりって…… この中に入ってる少し酸っぱい物がなんともいえません」


 はは、梅干しが気に入ったか。

 昨日おにぎりを食べてからもう24時間経つからな。

 加護の効果は切れてるはずだ。

 再びここで一時的にステータスアップをしておけば、今後の戦闘に役に立つだろ。


「で、次は何をすればいいの?」

「すまんが俺達の前で踊ってくれないか?」


「踊り!? こんな時に!?」

「いや、お前の能力に舞ってあったじゃん。もしかしたら何らかの付与効果もあるかもしれないぞ? ほら、恥ずかしがってないで!」


「うぅ…… バレエは好きだけどパパの前で踊るのは恥ずかしいよぅ……」


 桜はそう言いつつも踊りだす。

 おぉ、見事なもんだ。

 素人とはいえ、一応十年バレエを習ってきただけはあるな。

 足があんなに高く上がるなんてすごいな。

 一通り桜が踊ると何か体に異変を感じる……


「これは? 恐らく力が上がってるな。効果を確かめられないのが残念だが……」


「ふふ、ライトさん、ちょっと待っててくださいね」


 フィーネはいたずらっぽく笑ってから収納魔法を発動し、どこぞの空間から何かを取り出す。

 そこには…… ステータスを鑑定するための水晶が握られていた。


「フィーネ…… これをどこで?」

「ギルド長に無理言って借りてきちゃいました。ふふ、私この国で唯一の銀級冒険者ですからね。一応ギルドにも貸しがありますし」


 はは、この子って意外とこんなとこあるんだな。見た目はすごく真面目そうなのに。

 早速だが俺達は各々のステータス鑑定を行う。すると……



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:2

HP:3629 MP:10526 STR:2083 INT:22895

能力:剣術1 武術10 気功10

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:1

HP:1990 MP:9984 STR:1632 INT:19543

能力:舞10 武術10 気功10

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 

付与効果:体力自動回復 ドロップ率向上



名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:24

HP:189(500) MP:321(500) STR:52(500) INT:927(500)

能力 剣術4 武術5 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

付与効果:亡き母の加護(効果は24時間 体力自動回復 ドロップ率向上)



 やはり…… すごいな舞の効果って。


「今どんな気持ちで踊ったんだ?」

「え? 無事にダンジョンを攻略出来ますようにって思ったかも……」


 なるほど。踊り手の意思に応じて効果を変えるんだな。


「でもパパ、私達にはステータスアップの効果は付かないみたいだね」

「ほんとだ…… まぁいいさ。ただでさえチート級のステータスなんだ。これ以上上がってもあまり意味は無いだろう」


 フィーネも自分のステータスを見て驚いてるな。

 あれ? プラス500ってのは昨日も見たはずなのに。


「ラ、ライトさん…… この付与効果ですが……」

「体力自動回復とドロップ率向上ってやつ? そんなにすごいの?」


「すごいなんてものじゃないですよ!? 魔物を倒すと時折、魔石だったり素材を落とすことがあります! でも落とすのは稀なんですよ! 彼らが落とす物は貴重でギルドに行けば高額で換金出来ます!」


 ほう、この効果のおかげで旅の資金は早めに貯まりそうだな。じゃあ準備も出来た。行くとしますかね。


「じゃあフィーネ。ここで話していてもしょうがない。ダンジョンに挑むとするか」

「はい! ではライトさん、サクラ! 私について来てください!」


 フィーネは元気よくダンジョンに足を踏み入れる。

 地下に続く洞窟か。中は暗いんだろうな…… 


 想像の通りダンジョンに入ると数メートルほどで日の光は遮られ、辺りは暗闇に包まれる。

 この中を進むのか。


「パパ…… 暗いよぅ…… 怖いよぅ……」


 はは、もう泣き言いってる。はぐれないように桜の手を握る。


光あれライト



 ポゥッ



 フィーネがそう唱えると明るい光の玉が辺りを照らす。

 見えてきた物は……


 天然の洞窟だと思っていたが内部は石造りで明らかに何らかの手が加えられた構造になっていた。

 まさにRPGでいうダンジョンだな。


 フィーネの先導に従い、先に進むが……

 


 ザッ



 動きを止める。どうした?


「しっ…… 静かに…… 何かが来ます……」


 さっそくお出ましか。

 前方からカシャンカシャンと乾いた音がする。

 黒い影がこちらに近づいてくるのが分かる。


『…………』


 そこにはファンタジーでお馴染みのスケルトンっていう魔物がいた。

 言葉は発しないものの、カタカタと頭蓋骨を震わせている。

 不気味だな……

 こいつが初戦の相手か。

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