第9話お買い物

 俺達3人はダンジョン攻略の準備をするため町を巡る。

 防具の類は全くないので簡素な物でいいのでヴェレンの町で揃えていくことにした。


 まだ朝が早いというのに店は開店してるな。

 いいことだ。お天道様が顔を出すと商売を始めるんだろう。

 その代わり閉店が早いみたいだけどね。


 桜が物珍しそうに商店を観察する。


「ねぇパパ! 美味しそうな物が売ってるよ! ちょっと見ていこうよ!」


 桜は俺の手を引いて露店に連れていく。

 おいおい、俺達は今無一文なんだからな。

 装備を買うのもフィーネに金を借りて揃えようってのに。

 でもいい匂いだな…… ちょっと見てみるか。


 露店の前に着く。日本ではお祭りをやってる時に出てる露店とよく似てるな。

 売ってるのは…… 焼き鳥っぽいな。

 串に刺した肉を炭火で焼いているようだ。


 俺達に気づいた店主が話しかけてくる。


「おう、いらっしゃい! よかったらどうだ! ヴェレン名物の焼きトカゲだ! 美味いぞ!」


 トカゲかよ…… でもトカゲってのは鳥肉によく似た味だって聞いたことがある。

 桜はトカゲだと知って青い顔をしているが。


 俺はちょっと興味がある。現地の物を食べるのも教育の一環だろう。

 ぎこちなく俺達を先導するフィーネに話しかける。


「なぁフィーネ」

「な、なんでしょうか!?」


 焦っている…… 

 今朝のキスのことだな。あれは事故なんだから仕方ないことだ。

 フィーネは全力で俺にビンタしたことを謝ってきたが、俺は気にしてないよ。

 まだほっぺは痛いけど……


「すまんが焼きトカゲを三本買ってくれないか? 桜に食べさせてあげたくてね」

「や、焼きトカゲですか? いいですよ。私も好きですし」


 そう言ってフィーネが買い物を始める。

 彼女は腰につけている小袋から通貨を取り出し……


「焼きトカゲ三本だな! 六百オレンだ!」

「あら、高いわね。ゲイルの露店では一本百五十オレンだったわよ」


「ゲイルのとこは肉が小さいし、古い肉使ってんだよ! 俺のトカゲは今朝仕入れたばかりの新鮮なものだ! 肉も大きい! 自慢の逸品だ! 値段以上の価値を約束するぜ!」

「ふふ、分かったわ。じゃあ六百オレンね」


「毎度!」


 フィーネは焼きトカゲを俺達に渡してくれる。

 俺はゲテモノにあまり抵抗は無く、迷いなく口に運ぶ。

 味は…… 美味いな。トカゲと聞かなければ焼き鳥と信じて疑わないだろう。

 桜は相変わらず青い顔をしてるけど。


「桜、美味いぞ。お前も食べな」

「でもパパ…… トカゲなんだよ……?」


「おいおい、俺達はこれからしばらくこの世界で生きていかなくちゃいけない。ある程度は現地の食材に慣れておくんだ。お前には無限おにぎりがあるから餓死することはないだろうが、これからずっとおにぎりだけじゃ栄養が偏っちまうぞ」

「そ、そうだね。じゃあ勇気を出して……」



 パクリッ



 桜は目を瞑って焼きトカゲを口に入れる。

 食い意地のはったこの子のことだ。きっと気に入るに違いない。

 俺の予想は当たり、桜は一瞬で笑顔に戻る。


「なにこれ!? 美味しい!」


 桜は夢中で焼きトカゲを頬張りだす。

 はは、予想通りの反応だ。それにしてもこの世界の通貨はオレンっていうのか。

 焼きトカゲが一本二百オレン。そんなに高い物じゃないだろ? 

 なんとなくだが日本円とあまり変わらないレートみたいだな。

 ラノベでよく見る金貨、白金貨みたいな通貨はあるのだろうか? 

 一応フィーネに聞いてみるか。


「フィーネ。この世界の通貨なんだけど、どうなってるんだ? 単位はオレンっていうのは分かったんだが」

「通貨ですか? ではこれを」


 フィーネは小袋から通貨を取り出す。

 先程は気付かなかったが色んな種類があるな。


「まずはこれ。石貨です。一オレンですね。それでこの大石貨が十オレン。銅貨が百オレン。大銅貨が千オレン。銀貨が一万オレン。この大きな銀貨が十万オレンです。今は持っていませんが金貨は百万オレンの価値があります」


 なるほど…… これは分かりやすくて助かるな。

 この世界の貨幣価値は理解した。

 次は防具だな。いくらぐらいするのだろうか。

 まぁそんなに高い物は必要ない。

 なぜなら一つ試してみたいことがあるんだよね。


 焼きトカゲを食べ終えた俺達は目的地の武器屋に到着。

 おおぅ…… いかにもファンタジーといった様相だ。

 軒先には様々な武器、鎧が陳列されている。

 ガタイのよい店主が厳めしい顔で俺達を迎えてくれた。


「いらっしゃい…… 今日は何が必要だ……?」


 こわ…… 思わずすくんでしまう。

 こんな感じの人苦手なんだよね。

 ラーメン屋でも頑固親父がやってる店とか好きじゃないし。

 でもここは勇気を出して……


「ぼ、防具をお願いします」

「防具か…… 華奢だな…… お前にはフルプレートは着こなせんだろう…… ライトアーマーがいいとこだろうな……」


 そう言って店主はライトアーマーなる物を俺に見せてくれたのだが…… 

 見た目は全然ライトじゃなかった。

 一センチはあろうかという金属の板を加工して作った物だろうか。すごく重そう。


「あ、あの、大変申し訳ないのですが、もっと軽い防具をお願いします。この子も着れるぐらいの軽い物を……」

「軽い防具か…… だが、そんな防具じゃ大した防御力は期待出来んぞ……?」

 

 店主は厳めしい顔を更に険しくして裏に引っ込んでいった。 

 その様子を見ていたフィーネが俺に話しかける。


「ライトさん。お金の心配ならいりませんよ。もっといい防具を選んでください。これからダンジョンに行くんですから。あなたが強いのは分かりますが、油断は死を招きます。だからもっといい防具を……」

「大丈夫。ちょっと俺に任せてくれないか?」


 フィーネは困った顔で俺を見てくる。

 はは、心配しなさんな。一応考えてはいるんだから。


 店主はすぐに戻ってきた。

 両手にはすごく軽そうな革の鎧を持って。


「ほら、レザーアーマーだ…… だがこんなのは駆け出しの冒険者が使うもんだ…… 一回斬られたらボロボロになっちまうぞ……」


 そう言って店主はレザーアーマーを俺に渡す。

 軽いな…… これなら桜も着こなせるだろ。


「ありがとうございます。これを二つください」

「そうか…… どうせここで埃を被っていた品だ…… 二つで三万オレンでいいぞ……」


 三万オレンか。まぁそこそこいい値段だな。

 フィーネは代金を渡し、店を出る。

 さて、これを着れば俺も冒険者の仲間入りか。

 レザーアーマーを受け取った桜も嬉しそうにしているが、フィーネが心配そうな顔をしている。


「ライトさん…… レザーアーマーでダンジョンに挑もうとする人なんていませんよ? 今からでも遅くありません。せめてライトアーマーを……」

「俺も考え無しにこれを買った訳じゃないよ。いいかい? 俺には気功、創造魔法がある。それを使ってだな……」



 目を閉じる…… 


 イメージする…… 


 世界最強の繊維を……


 炭素によって作られる六員環ネットワーク……


 それが同軸管状になった物質……


 カーボンナノチューブを……


 

 ギュォォォンッ



 頭の中でカーボンナノチューブが描かれる。

 俺はそのイメージのまま、手に持つレザーアーマーの中に走らせる。


 これでよし…… 


 桜とフィーネは俺の様子を茫然と見つめていた。


「ラ、ライトさん、今何をしたんですか?」

「これか? 創造魔法でレザーアーマーを強化してみた。そうだ、フィーネを安心させるためにも…… フィーネ。君のナイフでレザーアーマーを切ってみてくれ」


「え……? でも私のナイフもそこそこの業物ですよ? いいんですか?」

「あぁ、遠慮なくやってくれ」


 俺はレザーアーマーを地面に置いた。

 さて上手くいったかな? 

 フィーネは躊躇しながらもレザーアーマーに刃を入れる……



 グッ ギリギリッ……



 フィーネの表情が驚きに変わる。


「なっ!? 刃が入らない! 一体どうなってるんですか!?」


 ふふ、成功したみたいだな。説明してやるか。


「レザーアーマーの中に特殊な繊維を埋め込んでみたんだ。俺の世界ではカーボンナノチューブって言ってね。ものすごく強い繊維なんだよ」

「パパ、カーボンナノチューブって何?」


「まぁとにかく頑丈な繊維だって思えばいいさ。SFとかで軌道エレベーターとかって聞いたことないか?」

「それってたしか…… 確か宇宙に物を引っ張り上げるんだよね?」


「そうだ。軌道エレベーターを作る際にカーボンナノチューブを使うってのをテレビで見たことがあってね。俺は創造魔法でそれを産み出したのさ」

「パパすごいね…… そんなのよく思いつくね」


 はは、長く生きてりゃそれなりの雑学も身に着くさ。

 俺は桜のレザーアーマーの中にもカーボンナノチューブを通す。

 ついでにフィーネの一張羅にも同じことをしておいた。


 フィーネは嬉しそうに自分の鎧を撫でる。


「私の鎧がこんなにも強化されるなんて……」

「色々助けてくれたお礼だよ。むしろ君の方が俺達の面倒を見てくれてるしね。すまんが今はこれくらいしかしてあげられない。金も必ず返す」


「いいいいいえ!? お金なんて受け取れませんよ! だってライトさんに強化されたこの防具って多分レリックぐらいの防御力を持ってますよ! こんなの店で買ったらいくらになるんだろ……?」


 はは、喜んでくれたみたいだな。

 俺と桜はレザーアーマーを着こむ。

 これで準備完了だな。

 じゃあ早速ダンジョンに行きますか! 


 俺達はヴェレンの町を出て、近くの茂みに隠してあるバイクに跨る。

 今日も三ケツか。


「フィーネ! ダンジョンはどこにあるんだ!?」

「南に真っ直ぐ進んでください! ここから20キロ先です!」


「よし、行くぞ! しっかり掴まってろよ!」


 俺はバイクを走らせる。

 ダンジョンにはどんな魔物がいるのだろうか? 

 怖くもあるが、ワクワクの方が強いな。

 はは、ガキの頃に戻った気分だ。

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