第8話来人の魔法

 さてギルド登録も終わり、俺達のステータスも確認出来た。

 当面の目標は俺達がこの世界に来た原因、転移船を持つアルブ・ネグロスの国、ヴィルジホルツを目指す。

 だが、その前に…… 


 俺達はヴェレンの町にある宿、雪猫亭に来ている。

 今日はもう遅いのでこの町で一泊していくことにしたのだ。

 でもお金は無いのでフィーネに借りたんだけどね。

 情けない。この歳で無一文とは……


 俺の気持ちを察したのかフィーネがフォローを入れてくれる。


「お金のことなら気にしないでくださいね。命を助けていただいた恩もありますし。それにこれからは仲間なんです。仲間のためにお金を出すなんて当たり前のことなんですから」


 うぅ…… なんていい子なんだ…… 

 情の薄い東京砂漠で過ごしてきた俺にとって、こういった扱いはとても嬉しい。


「すまんなフィーネ。今後の話だが…… 金を稼ぎつつ、まずは隣の国のアズゥホルツを目指す。だけど少しの間、この町に拠点を置いて装備を整えようと思うんだが…… 金になる仕事ってあるかな?」


 今の俺と桜はべらぼうに強いステータスを持っているとはいえ、裸一貫といってもいいだろう。

 ギルド長がお情けでくれた錆びついた短剣が一本あるのみだ。

 安くてもいい。剣とか鎧とかが欲しいのだ。


「お金ですか? そうですね、旅をするのにも路銀は必要ですし。手っ取り早くお金を稼ぐのであればクエストをこなすのではなく、ダンジョンを攻略するのはどうですか?」


 桜がフィーネの言葉を聞いてベッドから飛び起きる。


「ダンジョン! ここにダンジョンがあるの!?」

「え、えぇ…… 一応私も入ったことがあるんですが、四十階までの攻略しか出来ませんでした。聞いたところでは最深部は五十階。そこにはダンジョンマスターがいて、財宝を守ってるって話ですよ」


 ダンジョンか。ほんとRPGみたいな世界だな。

 桜を危険な目に会わせるわけにはいかんのだが、俺にはあまり時間は無い。

 仕事とか放りだして転移しちゃってるからね…… 

 桜だって学校がある。無断欠席のままにしておくわけにはいかん。


「分かった。フィーネ、明日そのダンジョンってやつに行ってみよう。案内をお願いできるかな?」

「はい、分かりました。ふふ、実はパーティを組むのって初めてなんです。私、ずっとソロでやってきたんですよ。みんなでダンジョン攻略なんて…… なんだか楽しくなってきちゃいました!」


 ん? ずっとソロで? 

 何か理由でもあるのかな? 


「どうして一人で冒険者なんてやってたんだ?」

「それは…… なんか私に声をかけてくる人達って下心が丸見えで……」


 なるほどね。フィーネは美人だ。

 その気持ちは分からんでもない。


「フィーネ…… 俺だって男だぞ? 俺に下心があるとは思わないのか?」

「いえ。ライトさんは大人ですし…… それにすごく真面目そうですから」


 はは、なんか褒められた気分だ。

 そうだな、死んだかみさんに操を立てたつもりは無いが、まだ恋愛する気は無いしな。

 それにフィーネはまだ19歳。娘の桜とそんなに歳は変わらない。

 要するに俺にとっては子供みたいなもんだ。恋愛対象にはならないだろうな。


「そ、それじゃ、私はもう寝ますね! 明日は7時には起きておいてくださいね! お、お休みなさい!」


 フィーネは顔を真っ赤にして部屋を出ていった。

 なんだ? 俺、また変なこと言ったか?


「なぁ桜。俺ってフィーネに嫌われてるのかな?」


 桜は俺をジト目で見てくる。


「ねぇパパ…… 本気で言ってるの?」

「なんのことだ?」


「はぁー…… パパってほんと鈍感だよね。まぁそれはいいわ。ねぇパパ、私達の力なんだけど…… 気功、いや創造魔法ってあったじゃない? パパはどんな魔法を使おうと思うの?」


 それか。一応は考えている。寝る前に試してみるか。

 フィーネに魔法の発動方法を聞いておいた。詠唱っていうのは特に必要無いみたいだ。

 ただ正式に詠唱を行えば威力が高くなるが無詠唱でも魔法は使えないこともないらしい。


 たしか…… へその下あたり、いわゆる丹田って所で魔力を練るんだったな? 

 なんとなくだが、やってみるか。



 意識する…… 



 自分の中にあるオドってやつを意識する……



 すると……



 体を流れる血液の他に別の熱を持った何かを感じる……



 これがオドか?



 全身を流れるオドを丹田に集める。



 ギュォォォンッ



 イメージする。

 


 かつてはまっていたFPSの中でみんなが涎を流すほどに欲した銃を。



 拳銃サイズ、クリティカルヒットすると敵は爆発を起こす性能を持つ。



 リロードはどの銃よりも早く、全く隙がない。最強といっても過言ではない。



 右手にずしりと重量感を感じる…… 



 目を開けると…… 



 右手にはかつての俺の愛銃が握られていた。


「おー、出来た。これが創造魔法か。すごいな」


 桜が目を丸くして俺の出した銃を見つめていた。


「パ、パパ…… それって……?」

「これか? 桜も見たことなかったっけ? 俺がちょっと前にはまってたFPSでさ、この銃使ってたの覚えてない?」


「パパがFPSをしてたのは知ってるけど…… 銃の種類なんて分からないよ」


 むぅ。この銃のことを覚えていないとは。

 PVPで俺が無双してるとこ、桜も見てたことあるはずなんだけどな。

 まぁいいか。


「とりあえずこれが当面の俺の魔法だな。他にも色々考えてるけど、今日はもう遅いからな。こんなとこにしとくよ。桜はどんな魔法を使うつもりなんだ?」

「わ、私? 私はこれかな?」


 桜は目を閉じる。オドを練ってるんだな。

 しばらくすると…… 桜の左手には弓、右手には矢が握られていた。

 ほう、ずいぶん古典的な武器を創造したな。


「弓矢か。どういう効果があるんだ?」

「これ? えーっと、前に読んだラノベでね、魔法の矢を撃つことが出来るんだ。これってすごいんだよ! 自動追尾性能もあるんだから!」


「自動追尾か…… そんなのに頼っていてはキルレは上がらないぞ」

「キルレってなに?」


「いいか、キルレってのはな…… はは、桜にこんなこと話してもしょうがないか。気にするな。そうだな、俺達の能力はまだ発展途上だ。他にどんな魔法を創造するか考えとこうな」

「うん! ふふ、楽しみだね!」


「あぁ。でも今日はもう寝ようか。明日はダンジョンに行くんだからな。それじゃお休み……」


 俺はベッドに横になる。

 毛布を被ると桜のお休みを聞く前に寝てしまった。



◇◆◇



 チュンチュン チチチッ



 鳥の声を聞いて目が覚める。 

 ふあぁ。もう朝か。時計を見ると…… 

 6時半か。目覚ましをかけなくてもこの時間に目が覚めるようになったな。

 俺は洗濯したジーンズと上着を羽織る。一応ギルド長に貰った短剣を腰に差してっと。

 これで準備完了。この装備でダンジョンに行くのか。

 防具とかは一切付けてない。ちょっと心配だ。


 とりあえず桜を起こすか。


「桜、起きろ。もう朝だぞ」

「んー…… あと5分……」


 お前、毎回言うこと変わらないな。

 それでぎりぎりまで寝て、なんで起こしてくれなかったの!?って怒るんだよな。


「ほら、起きろ! ダンジョンに行くんだろ! 置いてくぞ!」

「待って! 行く! 行くから!」


 桜は飛び起きた。はは、楽しみにしてたもんな。

 一瞬で目が覚めたみたいだ。ばたばたと忙しなく着替え始める。


「準備出来たよ! あれ? フィーネちゃんは?」


 そう言えばまだ来てないな。

 時計を見ると…… 7時をすでに回っている。


「遅刻か…… 桜、フィーネの部屋に行って起こしてきてくれ」

「えー、パパ行って来てよ。私はもう少し寝ぐせを直してるから」


 桜はそう言って鏡の前に陣取る。

 アホ毛っぽく見える寝ぐせが気に入らないようだ。

 そんなの水で濡らしてりゃ直るって…… 


「もう! 寝ぐせが直らないよ! パパ! 乙女には時間が必要なのよ! ほら、フィーネちゃんを起こしてきて!」


 全く…… 思春期の女の子は髪型にすごくこだわるみたいだな。

 まぁ女の子に限らず、俺だって前髪が気になってしょうがない時期があったもんな。

 しょうがないか。年頃の女の子の部屋に入るのは気が引けるが……


 俺はフィーネの部屋の前に行く。

 ノックをしてフィーネを起こす。



 ドンドンッ



「フィーネー。もう朝だぞー」

「…………」


 中からは返事は無い。完全に熟睡してるな。

 もう少し強めにノックしてみるか。だが…… 



 ギィー



 ドアが開いた。鍵をかけてないのか。なんて不用心な……

 しょうがない。部屋に入ってフィーネを起こすか。


 フィーネが寝ているベッドの前に。

 肩に手を置いてゆさゆさ揺らす。


「フィーネ、起きろ。もう朝だぞ」

「んむぅ…… ライトさん……」



 ギュッ 



 フィーネは寝ぼけながら抱きついてくる! 

 うわっ! なんかベッドに引き込まれた! 

 フィーネは俺を抱きしめたまま……



 チュッ



 キスをされた……


「ん……?」

「…………」


 フィーネの目が開く。

 彼女も何が起こったのか理解していないようだ。


「ラ、ライトさん……!?」

「い、いやこれは違うんだ!」


「いやー!」



 バチーンッ



 フィーネは絶叫と共に目を覚ました。

 俺も少し眠かったのだが完全に眠気が吹っ飛んだよ。

 フィーネの全力のビンタを食らったからね…… 

 これからダンジョンに行くってのに、前途多難な一日になりそうだな……

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