第7話アルブ・ネグロス

 ギルドでステータス確認を終えた俺達はギルド長室に通される。

 そして話を聞く中で、俺達がこの世界に来た原因が分かった。

 フィーネが語り始める。その顔は真剣そのものだった。


「ライトさん…… あなたが転移した理由ですが、恐らくアルブ・ネグロスの仕業かと思われます」


 アルブ・ネグロス…… 

 フィーネがゴブリンに捕まってる時に聞いた奴らだな。

 でもフィーネの種族はアルブ・ビアンコ。

 同じアルブの民ってことなのか?


「かつてアルブの民は一つでした。高い魔力を有し、それを使って私達は異界を渡り歩き、常に新天地を求め旅をして来ました。この世界は大地のマナも豊富で私達アルブの民はこの地に定住することに決めたんです」

「異界を旅する者達か…… ジプシーみたいだな」


「ライトさんの世界にも私達のような人たちがいるのですか?」

「いや、異界には行かないけどね。常に旅を続ける遊牧民みたいな人達はいるかな」


「そうですか…… 私達アルブの民はこの世界に住み着いて数千年。その中でアルブの民は二つに別れました。常に富を求め、自分が住む国の発展を求めるアルブ・ネグロス。安定を求め、ただ静かに暮らしたいアルブ・ビアンコ。この二つにアルブは別れました」


 なるほど…… 

 まぁ自国の発展を求めるのは悪いことじゃない。

 そうして俺達の世界は発展してきたんだから。


「でもさ、なんでネグロスの民はフィーネを捕まえようとしたんだ?」

「それは…… そうですね。ライトさんはそれを知る権利があります。ネグロスは富を求め異界に転移してこの世界に戻ってきます。ですが転移するには高い魔力を持った者の命を触媒にする必要があるんです……」


 ん? なんかすごいこと言ってないか、この子。

 つまり、転移するためには生贄みたいな存在が必要で、それがフィーネ達アルブ・ビアンコってことか? 


「つまりはフィーネが捕まった理由って……」

「はい…… 想像の通りです。私はアルブ・ビアンコの中でも一番の魔力を有しています。私が触媒になればアルブ・ネグロスはどんな世界にも転移することが出来るでしょう……」


 なるほど。つまりネグロスはビアンコを転移のための燃料としているってことなんだな。


「ひどいな。それが君がネグロスを恐れる理由か。でもそれがなんで俺がこの世界に来たことと関係あるんだ?」

「ネグロスは転移をするときに霧の中を通ります。ですが時折その霧が他の世界に漏れ出し、意図せぬ転移者をこの世界に招くことがあるんです……」


 そうか。俺達はアルブ・ネグロスの転移に巻き込まれたってことか。 


「でさ、俺達が地球…… いや、元の世界に帰る方法ってあるのか?」

「はい。あります。ですが、そのためにはアルブ・ネグロスが持つ転移船を奪うしかありません。そしてアルブ・ネグロスがいる国は……」


 なんとなく分かった。

 フィーネと初めて出会った夜、彼女が黙して語らなかった国。

 アスファル聖国の上にある国だな。


「アルブ・ネグロスの国、ヴィルジホルツに転移船はあります。ライトさんが元の世界に戻るためにはヴィルジホルツに赴く必要があるでしょう」


 なるほどな…… よし、当面の目標は決まったな。


「桜! ヴィルジホルツに行くぞ!」

「え? でもどうやって? この世界には飛行機も無いし…… すごく遠い国なんでしょ?」


「大丈夫だ。俺にはバイクがあるからな。どれくらいかかるかは分からん。だが幸いこの世界は全ての大陸が地続きになっている。いつかは目的地に着くはずさ」

「で、でもさ、私達、戦う手段も技術も無いわけでしょ? それなのにどうやって転移船を奪うのよ?」


 桜は不安そうな顔で俺を見る。それについては俺も不安だ。

 いかに強くても金が無ければおまんまは食い上げだし、武器が無ければ戦うことも出来ないだろう。


「ライトさん、サクラ。私にも協力させてくれない?」


 やおらフィーネが立ち上がる。

 協力? どういうことだ?


「あなた達と一緒にいれば捕らえられた仲間を救えるかもしれない。ほとんどのアルブ・ビアンコはヴィルジホルツに捕らわれてるの。いつかは転移の触媒にされて死ぬ運命よ。でも…… 私はそんなの許せない。お願い。私もヴィルジホルツに連れてって!」


 フィーネが一緒か…… 

 そうだな。俺達とフィーネの目的は似たようなものだ。

 俺達は地球に帰る手段が欲しい。フィーネは仲間を助けるのが目的だ。

 それがヴィルジホルツにあるってだけだ。


「いいよ。フィーネが仲間なら心強い。じゃあ改めてよろしく頼むよ」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 フィーネの顔が笑顔に変わる。おぉ…… かわいい。

 この子すごい美人なのに笑顔だと印象が一気に変わるな。

 

 いかんいかん。鼻の下を伸ばしている場合ではない。

 当面の目標は決まった。アルブ・ネグロスが住む国、ヴィルジホルツに向かうことだ。

 だがその前にもう少しステータスについて聞いておく必要があるな。


「俺達のステータスがかなりインチキ臭いのは分かる。だけど能力について分からないことがあるんだ。この気功ってのはなんなの?」


 能力には剣術だったり魔法だったりがあるはずなのだが、俺と桜の能力欄に魔法の文字は無く、その代わり気功という文字が書かれていた。


「気功…… 私は聞いたことがありません。ギルド長、何か知っていますか?」


「気功か。ちょっと待ってろ」


 ギルド長は本棚から一冊の本を取り出した。

 そしてパラパラとページを捲る。そして彼はとあるページを読み上げ始めた。


「気功…… 属性は持たず、所持者のオドの強さによりその能力を変える。決まった能力も無く、所持者の想像で様々な現象を引き起こすことが出来る。そのため、気功は創造魔法との別名を持っている……」

「えー、つまり俺自身が魔法を産み出す必要があるってことなのかな?」


「あぁ、その通りだ。だがこの魔法は大して強くないみたいだぞ。術者のオド、INTに完全に依存する魔法だからな。絶えて久しい魔法だそうだ」


 むぅ…… つまりはRPGでいうところの大魔法なんかは使えない訳だ。

 ちょっとがっかり。でも魔法を産み出すか…… 

 それはそれで楽しそうだな。

 桜はギルド長の説明を聞き、目を輝かせてるな。どんな魔法を想像したのだろうか?


「じゃあ次ですが…… この亡き妻の加護ってのはなんですか?」


「これか? 実はよく分からん。たしか、神に愛された者は加護を持つってのは聞いたことがある。だが、これはお前のかみさんの加護だろ? どんな能力があるのか分からんよ」


 そうか。まぁそうだよな。

 他言語習得ってのはこの世界を言語を理解するためのものだろ。

 でもこの無限ガソリンと無限メンテナンスって…… 


 いや、これは俺にとって最高の能力かもしれんぞ? 

 文字通りの加護ならば永遠にガス欠にならないってことだろ? 

 さらに無限メンテナンスときたもんだ。

 バイクってのは定期的にメンテが必要だ。

 一定距離でオイル交換や空気圧調整。

 すり減ったタイヤやドライブベルトを交換する必要だってある。

 それをしなくていいのなら…… 


 他にも気になることが…… 

 桜の持つ能力、舞ってやつだ。一応この子は3歳からバレエを習っている。

 一度発表会を見に行ったことがあるが、我が娘ながら見事なもんだった。

 それが戦闘に役に立つのかな?


「桜の能力の舞ってなんなんですかね?」


 これはギルド長ではなくフィーネが答える。


「舞のレベル10なんて! これはすごい能力ですよ! 舞を踊ることで魔法では成しえない効果が期待出来ます! アスファル聖国の神官でさえ舞のレベルは7が限度だって聞きますよ!」


 ほう。某有名ゲームでも踊り子なんてジョブがあったもんな。

 桜はそんな能力を持ってるのか。さて次だ。

 これは突っ込んでくれと言わんばかりの加護だ。

 なんだよ、無限おにぎりって……


「桜、お前も気になってるだろうけど……」

「無限おにぎりでしょ? 一体なんなのかな?」


 これは一体どんな能力なんだろうか? 

 ふと桜が不思議そうな顔をする。


「あれ? なんかポケットに膨らみが……」


 桜は上着のポケットに手を入れる。

 そして手を取り出すと…… 

 その手にはコンビニのおにぎりが握られていた。


「あはは…… こういうことね…… はい、パパ」


 桜は俺におにぎりを渡す。

 どれどれ? 中は梅か。裏面には製作者が書いてある。


【渋原 凪】


 ははは、かみさんの名前だ。

 俺はビニールを取り、おにぎりを齧る。



 パリッ ムシャムシャッ



 酸味が強すぎない蜂蜜梅のおにぎりだ。

 凪はこのおにぎりをよく作ってくれたっけな。


 桜もそのおにぎりをポケットから取り出し食べ始める。


「美味しい…… ママの味だ……」


 桜の目から涙がこぼれる。

 俺達が失って久しい味…… これがこの世界で味わえるなんて。


 ギルド長とフィーネは俺達のことを不思議そうに見ている。

 桜はおにぎりを取り出して二人に渡した。


「あ、ありがとサクラ。これ食べていいの?」

「うん! とっても美味しいよ! ギルド長もどうぞ!」

「す、すまんな。ありがたくいただこう。これが異界の食べ物か……」


 二人は恐る恐るおにぎりを口に運ぶ。そして!


「こ、これは! 美味しいだけじゃない! 何か力が上がった気がする! ギルド長! ステータス鑑定をしてもいいですか!?」


 どうした? 

 まさかおにぎりに何らかの付与効果があるとか?


 フィーネが水晶に手を当てる。

 すると水晶は青色に輝き始める。

 光が収まると水晶の中に数字のようなものが……


「これは……!? 能力値が上がってる!」


 フィーネが自分のステータスを見て驚いている。どれどれ?


 

名前:フィーネ・フィオナ・アルブ・ビアンコ

年齢:19

種族:アルブ・ビアンコ

Lv:24

HP:189(500) MP:321(500) STR:52(500) INT:927(500)

能力:剣術4 武術5 火魔法7 水魔法7 風魔法7 空間魔法 生活魔法

付与効果:亡き母の加護(効果は24時間)



 うっわ…… ステータスが軒並み上がってる。

 この(500)は24時間プラスされる能力なんだろうな。

 剣術、魔法のレベルも上がってるみたいだ。すごいな無限おにぎり…… 

 俺達に効果があるか分からんが、とりあえず桜の無限おにぎりがあれば食いっぱぐれる心配はなさそうだな。

 お腹が減ったら桜にお願いしよう。

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