第6話ステータス

 フィーネの後ろについて歩くこと数分。

 あっという間に冒険者ギルドに到着。

 さて中はどんな感じなのかな? 

 テンプレだと酒場みたいな感じでかませ犬みたいなやつが俺に襲い掛かってくるんだっけか?


「ねぇパパ…… ここで私達のステータスが分かるんだよね? なんだかワクワクしちゃうね。ほんと、ゲームの世界に入ったみたいだね」


 桜がニコニコしながら話しかけてくる。

 はは、そんな期待しなさんな。平凡なステータスだった時にがっかりしちゃうぞ。

 まぁどんな数値がでてもびっくりも出来ないけどね。だってこの世界の平均なんてものは知らないし。

 でもフィーネが銀級冒険者で相当上の方なんだよな。

 たしかフィーネのステータスは各能力が数百だった。STRだけ二桁だったか?


 ドキドキしながらギルドの中に入ると…… 

 なんだか期待通りではなかった。お役所っぽいな。

 見た目はごついヤツが多いけど、静かに列を作ってカウンターに並んでいる。


「なんだかラノベとは違う雰囲気だね……」


 桜は少し残念そうだ。

 はは、全てが小説のように行く訳じゃないさ。

 フィーネが俺達を連れて列に並ぶ。


「この列は?」

「ここは新人受付カウンターです。ライトさん達は身分を証明するものを持ってませんから。冒険者になるだけならタダですし、身分証明書も作れます。この世界にいる限りは持っていて損はありませんよ。それにステータスを確認するにはギルド登録をしないといけませんからね」


 なるほど。身分証明書を作れるのはありがたいな。

 ここでそれがどんな役に立つか分からないが、このまま名無しの権兵衛さんで過ごすのも気分が悪いしな。


 俺達は益体も無い話をしながら順番が来るのを待つ。

 ふと前に並んでいる冒険者志望の人達を見てみると…… 

 反応は様々だった。自分のステータスの内容に一喜一憂しているのだろう。

 自分の能力に驚いている者、反対にがっかりしている者と反応は両極端だった。


 ステータスの結果を知り、あからさまに肩を落として歩いてくる二メートルを超える巨漢の男の口からこんな声が漏れる。


「そんな…… 俺が魔法使い向きだなんて……」


 なるほどね。見た目がごつくていかにも戦士風な風貌だったが、ステータスは魔力寄りだったんだな。

 まぁがっかりしなさんな。人には色んな可能性があるんだから。

 一応会社では多くの部下を持つ身だ。そいつが持つ強みを見出し、俺はそれを育てることに心血を注いできた。

 弱点があっても強みがあればそれをカバー出来る。

 お前さんはまだ若い。強みを活かせれば問題ないよ。

 かっこいいじゃん、マッチョな魔法使いなんてさ。


 悩む若者にエールを送りつつ順番を待つ。

 さて、俺達の番が来たな。


 さてテンプレ通りだと受付は綺麗なお姉さんと相場が決まっている……のだが、受付には色気ゼロのマッチョな口髭スキンヘッドが座っていた。


「いらっしゃい! ようこそ、ヴェレン、冒険者ギルドへ! 今日から君も俺達の仲間だな!」


 マッチョはニコニコしながら俺に握手を求めてきた。

 まぁ美人じゃないのはがっかりだが、友好的ということでは安心したな。


「は、はい、よろしくお願いいたします……」

「ははは! 緊張することは無い! じゃあ順を追って説明しよう。冒険者になるためにはまずこちらに記入してくれ!」


 どれどれ…… 記入欄はというと…… 

 名前、住所、年齢…… 

 ん? これだけ!? 


「記入欄はこれだけなんですか?」

「あぁそうだ! 重要なのは同意書に同意することだけだ! そこはよく読んでおいてくれよ!」


 同意書…… どれどれ? 

 当ギルドに所属した者がクエストに従事した際、怪我、もしくは死亡したとしても保障には一切応じられない…… 

 なるほど、全ては自己責任でお願いってことか。

 いいだろう。俺は同意書にサインを書き込む。


 契約書の記入を終え受付に渡す。

 受付のマッチョは笑顔でそれを受け取り、机の下から水晶玉のようなものを取り出した。


「じゃあ次だ! 君のステータス鑑定を行う! ステータスが低くてもがっかりしないでくれよ! 水晶に手をかざしてくれ!」


 はは、俺は40歳のサラリーマンだ。

 今更高いステータスなんて期待してないさ。

 まぁ出来ればこの世界から帰れるくらいの能力があると嬉しいんだけどね。


 俺は水晶の上に手を乗せる。

 すると…… 


 

 キュィィィンッ カッ



 水晶が光ったと思ったら、目まぐるしく色を変えていく。そして最後には金色に輝き始める……


「こ、これは……!」


 横にいるフィーネが驚きの表情で俺を見てくるのだが…… 

 受付のマッチョもかなり驚いている様子だ。

 あんぐりと口を開け水晶に見入っている。段々と光が弱くなり、受付が我に返る。

 そして急いで契約書のステータス欄に記入を始めた。


「あ、あの、少し時間を貰えないか? ギルド長に報告しないと……」


 ん? ギルド長? ここの最終責任者だよな? 

 何かステータスでおかしいことがあったのだろうか? 

 横を見ると、桜の受付も後ろに下がっていく。

 俺と同じ反応だな。


 横にいるフィーネに話しかける。


「なぁフィーネ。なんかおかしいことでもあったのか?」

「はい…… 基本的に水晶が表す色は二色だけなんですよ。戦士系なら赤、魔法系なら青。その二色だけです。金色なんて初めて見ました!」


 金色か。何を表すんだろうな。

 ちょっと楽しみだな。もしかしてチート性能なんかあったりして。

 でもRPGとかは強くてニューゲームとかは好きじゃないんだよね。

 ゲームは弱いところから段々強くなるのが好きなんだ。


 まぁそれはどうでもいいか。今は俺のステータスがどんなもんか早く知りたい。

 それに俺にとってステータスなんてものはここで生き残るために必要な情報にすぎない。

 強さを知るのが目的じゃない。俺は地球に帰るのが目的なんだからな。


 受付が戻ってくる。

 ステータスを教えてくれるのかと思ったのだが…… 


「申し訳ないが…… ギルド長室まで来てくれないか? フィーネ、君もだ」


 なんだか受付は青い顔をしてるな。

 俺達は受付に促されるままギルド長室に足を運ぶことにした。



◇◆◇



 トントンッ



『入れ』


 先導する受付がドアをノックすると、太い声が中から聞こえる。

 ギルド長室に通されると、壮年の禿げた大柄な男がソファーに座っていた。

 なんだろうか。ここの関係者はマッチョのスキンヘッドというのがテンプレなのだろうか? 

 俺達はソファーに座ると紅茶が用意される。


 おっさん、いやギルド長は困った顔をしてフィーネに話しかける。


「フィーネ…… お前、こいつらをどこで拾ってきた?」


 ん? 二人は顔見知りなのかな? 

 まぁフィーネは銀級冒険者だ。

 ここではかなり位の高い冒険者なのだろう。

 二人に面識があってもおかしくないよな。


「はい…… 二人とは北の森で魔物に捕らわれているところを助けていただきました」

「お前を捕えるだと!? 一体どんな魔物だ?」


「ゴブリンロードです……」

「おまっ!? ゴブリンロードだと!? 銀級のお前が捕まってもおかしくはないか…… でもそんな相手が相手でよく無事だったな?」


「はい、二人のおかげです。で、ライトさんとサクラのステータスですが……」

「あぁ。そのことでお前達を呼んだんだ。ライトだったな? お前一体何者だ? このステータス…… 人間のものとは思えん」


 ギルド長は俺達に先ほど受付が記入した契約書を見せてくれた。

 そこに書いてあったステータス欄に俺達は驚くことになる。



名前:ライト シブハラ

種族:人族

年齢:40

Lv:2

HP:3629 MP:10526 STR:2083 INT:22895

能力:剣術1 武術10 気功10

亡き妻の加護:他言語習得 無限ガソリン 無限メンテナンス



名前:サクラ シブハラ

種族:人族

年齢:14

Lv:1

HP:1990 MP:9984 STR:1632 INT:19543

能力:舞10 武術10 気功10

亡き母の加護:他言語習得 無限おにぎり 



 えーと…… この世界のステータスの平均は知らん。

 でもフィーネが銀級冒険者で相当腕が立つのは分かった。

 ギルド長と顔見知りなぐらいだからな。

 それに比べて俺達のステータスは…… 

 うん、チート仕様だな。

 他に突っ込みたいところは多々あるが、ここは初めから話を聞いてみるか。


「えー、どこから聞いたらいいのか分かりませんが、恐らく俺達は相当強いってのは分かりました」


 桜はフィーネのステータスの数値を知らないから自分がいかにチート性能を有しているのか理解していないようだ。


「ねぇパパ…… この亡き母の加護って何だろうね?」


 それは俺も気になっていた。

 亡き妻、亡き母って言ったら数年前に死に別れた最愛の妻のことだろうな。

 凪…… 死んでまでそんな俺達を心配しないでくれよ。

 お前がいなくなって寂しくてしょうがないけど俺達は仲良くやってるからな。


 妻のことを思い出す。だが今は話を聞かないと……


「このステータスですが、俺達ってどのくらい強いんですか?」


「そうだな…… 参考になるか分からないがかつての俺のステータスを見てくれ。一応、10年前は金級冒険者でな。リッヒランドで最強の冒険者だった」


 ギルド長は自分のステータス表を見せてくれた。



名前:アレクサンダー フロイライン

種族:人族

年齢:40

Lv:85

HP:4985 MP:1243 STR:3002 INT:803

能力:剣術8 武術5 火魔法4 土魔法5 

 


 あー、なるほどね。レベル85でこのステータスか。

 俺達がいかにオーバースペックなのかが分かるな。


「パパ! やったね! 私達ってすごく強いみたいだよ!」

「落ち着け」


 はしゃぐ桜を制する。

 気持ちは分かるが強いだけでは意味が無い。


「桜…… 俺達の目的ってなんだ?」

「え? 目的? それは……」


「おいおい…… 俺達の目的は元の世界に戻ることだ。一時的にこの世界に留まるなら問題ない。仕事的には大問題だが…… 

 でもな、この世界は俺達が生きるべき世界じゃない。地球に、日本に帰ること。これが俺達の目的だ。

 それともお前、この世界で一生過ごすつもりか? 今までの全てを投げうって、化け物がうようよしてるよく分からない世界で一生を終えることになってもいいのか?」

「う…… それは嫌かも。そうだね、私達帰らなくちゃいけないんだったね……」


「そうだ。強くあることに喜ぶのはいい。だけど決して目的を見失うなよ」

「ごめんね、パパ……」


 少しシュンとさせちゃったな。

 ごめんな、厳しいこと言って。

 俺達の会話を聞いてきたギルド長が話しかけてくる。


「戻る? お前らこの世界の人間じゃないってことか?」

「はい。転移者って言えばいいんですかね? 霧に包まれて気が付いたらこの世界にいたんですよ。こういうことってよくあるんですか?」


 ギルド長はフィーネを見つめ……


「フィーネ…… これは言っていいのか?」

「いいえ、それは私の口から言わせてください」


 思いつめたようにフィーネが話し始める。

 彼女は俺達が帰るための何かを知っているのだろうか?

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