第5話初めての町ヴェレン

 夢を見た。いや夢なのかな? 

 小さい頃の思い出だ。おばあちゃんが小さい私に話しかけている


『フィーネ。よくお聞きなさい。夢見の結果が出ました。恐らくあなたは15年後、不思議な出会いを経験するでしょう。霧の中、一人の人族の男が現れます。その者は私達アルブ・ビアンコの救世主となる者。あなたはその者と出会い、共に行動する運命にあります』

『夢見? おばあちゃんのいつものおまじないのこと? 人族のお友達が出来るの? でも…… 人族って嫌い…… 私の耳をバカにするんだもん……』


 おばあちゃんは私の頭を優しく撫でる。


『大丈夫よ、フィーネ。その人はとても優しい人。あなたの助けになってくれるわ。心配しないでその人を助けてあげなさい』

『助けるって? その人は私達を助けてくれるんじゃないの?』


『えぇそうよ。でもその人は初めてこの世界に来るの。きっと困ってるはずよ。だからあなたがその人の支えになってあげるの。きっとその人は私達をアルブ・ネグロスから助けてくれるはずだから』


 おばあちゃんは祈祷師をやっていた。

 夢見術というおばあちゃんにしか使えない未来視を使い、村のみんなを導いてくれてたんだ。

 でもおばあちゃんは自分の運命は見えていなかったんだね…… 

 私が十歳になった時には……


 おばあちゃんの声が途切れ途切れになる。

 もうすぐ目が覚めるのかな? 

 そういえばおばあちゃんはもっと大事なことを言っていた気がする……


『フィーネ。その人は…… あなたの……になる人なの…… どんな時も……いなさい……』


 おばあちゃんの声が遠くなる。

 思い出せない…… 



 フィーネさん…… フィーネさん……



 あれ? 私を呼ぶ声が聞こえる……



◇◆◇



「フィーネさん! 起きて! ふふ、フィーネさんって意外とお寝坊さんなんだね」

「おいおい、お前が言うな。毎朝俺に起こされてるくせに」


 フィーネが気怠そうに目を擦る。

 この子はキリっとした美人さんだが、まだ19歳なんだよな。

 俺の半分以下か。俺もおっさんになったな。

 もう少し結婚するのが早かったらフィーネぐらいの娘がいてもおかしくないんだよな。


「お、おはようございます。昨日は色々とありがとうございました……」


 ん? なんだろうか、フィーネが俺と目を合わせない。

 何かしたっけな? まぁいいや。今日は色々とやることがある。


「フィーネさん。昨日教えてもらったギルドってやつに行ってみたいんだが…… 場所を教えてもらえないか?」

「ギルド!? ファンタジーでお馴染みの!? 私も行ってみたい!」


 桜が目を輝かせて俺に詰め寄る。

 はは、流石は14歳。中二病真っ盛りだ。

 フィーネが寝ぐせを直しながら立ち上がる。


「ここから一番近いギルドはヴェレンの町にあるギルドですね。南に30キロといったところでしょうか……」


 30キロか。一時間も走れば着くな。

 ガソリンはまだ満タン近くあったはずだ。

 そうだ、燃料が無くなったらどうするか…… 

 ファンタジーでは馬とかが移動手段になるんだっけか?


 まぁ先の事を心配してもしょうがない。今は少しでも情報が欲しい。

 それに俺達は今無一文だ。おまんまにありつくためにも金が必要だ。

 もしかしたらラノベよろしく冒険者登録なんかしてお金を稼ぐなんてことも…… 

 はは、俺は何を考えてんだ。でも一応フィーネに聞いておくか。


「なぁフィーネさん」

「あの……」


 フィーネと俺の発言が被る。

 先にフィーネの話を聞くか。


「お先にどうぞ」

「はい…… あの、大変厚かましいお願いなのですが…… もしよろしければ私のことはフィーネと呼んでいただけないでしょうか……?」


 ん? 呼び捨てで? 

 俺は常に君付け、さん付けで社会生活を過ごしてきた。

 今は何とかハラスメントとかうるさい時代だからね。

 なのでいかに年下とはいえ呼び捨てには抵抗があるなぁ…… 


 でもモジモジと手を弄びながら、恥ずかしそうにお願いをしてくるフィーネを見ると…… 

 はは、ここは異世界。郷に入りては郷に従えだな。


「分かった。じゃあ今から君のことはフィーネと呼ばせてもらうよ。よろしくな、フィーネ」

「はい! よろしくお願いいたします! ライト様!」


「あの…… じゃあ俺からもお願いがあるんだけど、来人様ってのは止めてくれないか? せめてさん付けでお願い…… くすぐったくてしょうがないわ」

「じゃあ私のことは桜って呼んでね! よろしくね、フィーネちゃん!」


 おいおい、お前にことは聞いてないだろ。

 はは、まぁいいか。


「はい、あらためてよろしくお願いします! ライトさん、サクラ!」


 よかった。フィーネの警戒も大分解けてきたみたいだな。

 さぁ目指すはヴェレンの町だったな。俺はバイクに跨る。昨日と同じく俺のすぐ後ろにフィーネ、最後尾にサクラが乗った。

 はは、この歳で三ケツすることになるとはね。


「じゃあ行くよ! しっかり掴まってろよ! 出発!」


 エンジンをかけ、アクセルを回す! 



 ドルンッ ブロロロロッ…… 



 今日のマジェもご機嫌みたいだな! 



◇◆◇



 30分も走ると平原の先に何かが見えてきた。

 なんか塀に囲まれた大きな町だ。あれが目的地なのかな?


「フィーネ! あれがヴェレンの町か!?」

「…………」


 ん? フィーネの返事が無い。

 聞こえなかったのかな? その代わり桜が答える。


「パパ! 速すぎだって! フィーネちゃんがびっくりしてるよ!」


 あぁそうか。

 森でバイクに乗ってた時は時速20キロってとこだったもんな。

 30キロを30分か。時速60キロを休まずに走らせたんだ。

 バイク初心者のフィーネには辛かったかもしれんな。


 俺は街道の横にある茂みにバイクを停める。


「二人共、ここで降りてくれ」

「ん? ここからは歩き?」


「あぁ。町の中でバイクを走らせるわけにはいかんだろ。変に警戒されても困るしな。なぁフィーネ、ヴェレンの町の治安はどんなもんだ?」


 フィーネは腰が抜けたようにフラフラとバイクを降りる。

 おっと、転びそうだな。フィーネの肩を掴む。


「大丈夫?」

「あ…… は、はい…… 大丈夫です……」


 ん? 顔が赤いな。どうしたんだろうか。熱でもあるのかな?


「どうした? 具合が悪いのか? どれどれ?」


 フィーネのおでこに手を当てる。

 うわっ! 熱っ! これは風邪でも引いたか!? 


「桜! フィーネが熱があるみたいだ! 鞄の中から熱さましを取ってくれ!」

「いやパパ…… その必要は無いと思うよ……」


「どういうことだ?」

「はぁー…… これだから男ってのは…… とにかくフィーネちゃんは大丈夫よ。でしょ? フィーネちゃん」


 フィーネは顔を真っ赤にしながら頷く。

 そして助けを求めるように桜の所へ。

 あれ? 何か嫌われるようなことでもしたのかな?


「ほら、行くよ!」


 桜とフィーネが先に進む。

 なんだかよく分からないが、俺も二人の後を追う。

 目的地、ヴェレンの町までもう少しだ。



◇◆◇



 十分ほど歩くと町がさらに近づいてくる。

 遠目には分からなかったがかなり大きな町だな。

 外敵の侵入を防ぐためだろうか。

 町は全体を塀で囲まれており、深い外堀も掘られている。


 正門らしき場所に行くと多くの人が行列を作っている。

 町に入るのに監査が必要なのだろうか? 

 桜がその列の最後尾に並ぼうとするが…… 


「サクラ、私達は並ぶ必要はないですよ。ライトさんもこっちに来てください」


 フィーネは行列を作っている列の横にいる兵士らしき人に話しかける。

 そしてギルドカードを取り出して……


「銀級冒険者のフィーネ。クエスト完了によりギルドに戻ります。入城の許可をお願いします」

「銀級冒険者か…… 後ろの二人は?」


「出先で有能な者をスカウトして来ました。何かあった時の責任は私が取りますので彼らの入城もお願いします」

「本来なら規則違反だが…… 銀級冒険者のあなたの言うことだ。入城を認めましょう。ですが、なるべく早くその二人の身元を証明する物を作ってくださいよ。バレると私のせいになってしまいますので……」


「ふふ、大丈夫よ。じゃあライトさん、サクラ、行きましょ」


 おぉ! これが冒険者の力か! 

 本来なら海外旅行よろしく、面倒くさい入管手続きとかしないといけないんだろうな。


 フィーネのあとに続き、ヴェレンの町に入ると……


 言葉が無かった。


 日本では見たことも無い、ヨーロッパ調の建物。


 レンガ造りの舗装された道。


 活気にあふれた商店の数々。


 あぁ…… 俺は本当に異世界に来たんだなぁ…… 


 惚けた表情でヴェレンの町並みに目を奪われると……


「ではさっそく冒険者ギルドに行きますか? それとも少し町を見てまわりますか?」

「あ、あぁ…… まずは目的を果たすとしようか。ギルドに案内してくれないか?」


「はい、分かりました。すぐ近くなのでついて来てください」


 俺と桜は綺麗な町並みに目を奪われつつもフィーネについていく。

 さて、冒険者ギルドか。俺達のステータスがここで分かるのか。

 ふふ、年甲斐も無く中二心が疼いてきたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る