第10話 明継と子猫
「お世話になりました」
交番の前で警官に頭を下げているのは政宗明継だった。昨夜彼は、猫獣人のアキュラに殴られて昏倒した。その後、ムラート皇太子の振りまいた液体……ウォッカを浴びてしまった。そのおかげで酔っ払いと勘違いされ、昼過ぎまで交番で眠っていたのだ。
「頭が痛いな。二日酔いしたみたいだ」
足元がおぼつかない明継は、それでもフラフラと歩いていく。その明継の足元に、一匹の黒い子猫が寄って来た。
「みゃーん」
「スマンが構ってやれん。頭痛がするし腹も痛い。何でこんな事になったんだ……」
「みゃーん」
尚も脚に纏わりついて来る子猫を、明継は蹴ろうとしたのだが、その小猫は環形動物の集合体へと姿を変え、明継の脚にまとわりついた。そしてズボンの裾から明継の脚を這い上って来た。
「ア……アール・ハリか」
「そうだ。明継。昨夜は酷い目に遭った」
「お前、生きていたのか?」
「私を構成している環形動物の九割は焼死したが、生き残りを何とかかき集めて子猫の姿となっていたのだ」
「そうか。それは良かった」
「良くない。それはそうと、貴様との契約の話だ」
「ああそうだったな。しばらく契約不履行状態になるのか」
「それは問題ない。体が回復するまでは子猫の姿で過ごさせてくれ」
「あっ!」
「どうした?」
「マンションはペット禁止なのだ。子猫は不味いから金魚か鯉に化けられないか。水槽飼育なら問題ない。今も金魚を飼っているからな」
「無理を言うなよ。さすがに水中生活は無理だ」
「ならばミミズのままで過ごせよ。それなら金魚の餌という事で回避できる」
「わかった。しばらく不自由するが、我慢するしかないな」
「そうだな」
「それと、一つ提案があるのだが?」
「何だ? アール・ハリ」
「もう綾川知子に手を出すのは止めよう。危険すぎる」
「わかった。俺は星子ちゃんを眺めるだけにするよ」
とぼとぼと駅前のマンションへと歩く明継だった。
こうして再び、地球の平和は守られたらしい。
[おしまい]
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