第9話 兵どもが夢の跡
「起きろ! 馬鹿兄貴!」
左側頭部に衝撃を感じた。これは妹の蹴りに違いない。
女の子なんだからその足癖を直しなさいと何度言っても聞かなかった強情な我が妹である。現在も足癖が悪い。
目を開いた。
右側には星子がいて、俺の右手を握っていた。そして左側には波里がいて、俺の左手を握っていた。思わず顔がゆるむ。
「いつまでデレデレしてんだよ。馬鹿兄貴! お昼ごはん出来てるからさっさと食べな!」
また頭部を蹴られてしまった。相変わらず乱暴な妹である。仕方なく起き上がると、そこには昨夜のすき焼きの残りを使ったおじやがどんぶりに盛ってあった。新しく加えた具材も乗っていて、なかなか豪勢なすき焼きおじやになっていた。
「うまそうだね。誰が作ったの」
「私です」
挙手したのはトラントロワ型だった
「おお、モモエさんでしたか。これは美味しそうだ。では遠慮なくいただきます」
うむ。これは本当に旨い。
しかし、食べてるのは俺一人じゃないか。
「お前たちはもう食べたのか? シファー・マラクさん達はどうした?」
俺の質問には星子が答えてくれた。
「私たちは先にいただきました。すぐ傍で食べていたのに、お兄さん全然気づかずに寝てるんだから」
そして波里が続ける。
「えーっと、猫獣人の皆さまは、連れ立って秋葉原へと向かわれました。色々お買い物をされるようです」
そうかそうか。
アニメ関係のグッズでも探しに行くのか。
待て、連れ立ってだと?
彼らは敵同士では?
俺の怪訝な表情を察した妹が説明する。
「あの人たち、何だか意気投合しちゃってね。昨夜、ゲームしてたんでしょ。それでじゃないかな?」
「そうそう。凄く仲良かったよ。キューティーハニーのフィギュア買うとか、エリア88のね。シン・カザマの乗機をコンプリートするんだとか言ってたよ」
付け加えたのは星子だった。しかし、彼らが仲良しになったという事は、シファー・マラクさんの国は助かったという事なのだろうか。
それに関しては、俺の怪訝な表情を読んだ察しの良い自動人形が説明してくれた。
「昨夜の対決に於いて、双方が平和的に事態の終結を図る事を約束されました。彼らの国における軍事的・政治的な緊張は無くなったと思われます」
「そうか、それは良かったな」
「ただし条件があって」
「条件?」
彼らが提示する条件とは何なのか、さっぱり見当がつかない。
「一年間このコタツで遊ばせてくれってさ」
妹が答えてくれた。
まさか、あの猫獣人たちが、一年間この家に居座るというのか? これはとんでもない厄介事を抱えてしまったのではないか。もしかすると、俺は猫獣人たちと永遠に戦わねばならないのかもしれない。そう思うとひたすら気が重くなった。
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