第6話 悪事千里を走る
我ながら、大胆な告白だったと思う。星子の方はというと、いきなりの告白に面食らってしまったようだ。どう対応してよいのかわからず、咄嗟にアニメのセリフを口走ってしまったらしい。しかし、心臓を握り潰すとか、どんなアニメなんだか……。
私の告白については、様々な憶測が飛び交った。系統は二つあった。一つはクラス中を笑わせる為の芝居だったという説。もう一つは、私が本気で星子に好意を抱いている。そして星子もまんざらではない。二人は百合関係に発展するに違いないという説。真相はどちらでもない。当然だ。しかし、クラスの中では私と星子が百合関係になるのではないか、との見方が強かった。
お昼前の国語の授業。国語教師の相原は、『悪事千里を走る』と『破天荒』について話し始めた。もちろん、これも脱線である。
これは、宋代の説話集『
元々は『好事門を出でず、悪事千里を行く』という言葉で、二つセットになっている。この言葉の意味は、『良い行いはなかなか世間に伝わらないが、悪い行いはすぐ世間に知れ渡る』といった意味らしい。悪い行いが世間に広がってしまうといった意味ではないと強調していた。
私の告白は悪い行いなのか? 連想して少し気分が悪くなった。まあ、世間、ここではクラス内で興味関心を引くことが、全て悪い行いではないはずだ。そう自分に言い聞かせる。
「破天荒はですね。日本では60パーセント以上の人が誤用、誤解している言葉なんですよ」
誤用か。ちょくちょく聞く言葉だが、国語教師にとっては飯の種だなと思う。
天荒とは未開の地で雑草が生い茂っている様を言う。それが破られる……つまり、『前人未到の境地を切り開く事』や『それまで人がなし得なかった事を初めて行う事』と言った意味らしい。
待て、破天荒って大胆だとか豪快だとかの意味じゃなかったのか。ああ。私も誤解していた訳だ。つまり、私の告白は、正しい意味での破天荒なのだ。一つ勉強になった。相原の脱線も、あいつの豊かな教養の一部なのだ。ここは素直に感謝しよう。
お昼休み、私たち三人は普通にお弁当を食べた。昨日の告白の事なんてなかったかのように。星子は返事をしてくれるのだろうか。もしそうならクラスの中で? それとも、誰もいない場所で? それとも無視……。星子の返事を待つ私の胸が高鳴った。しかし、星子があてにならない事も事実だ。アニメに夢中になり、色々忘れたりすっぽかしたりすることが多いからだ。
そんな星子の返事を期待していた私は、放課後、担任教師に呼び出された。
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