第4話 空き缶は何処へ飛ぶ

 私は中庭で深呼吸をした。

 息を吸っては吐き、また吸っては吐く。


 少し落ち着いてきた。

 星子に告白する。その決意は固めた。


 私は星子の事が大好きだ。溺愛していると言っていい。しかし、性的な感情は無い。こんな「好き」でも告白してよいのだろうか。

 そのような、倫理的な善悪などわかるわけがない。私は星子を独占したい……と言うか、星子の胸を他の誰にも触らせたくないんだ。


 では、どうするか。いつ、どこで、どんなシチュエーションで告白すればいいのか。普通に考えれば、体育館の裏とか、特別教室のある校舎の裏とか、屋上とか、そんな人目の付かない場所で告白するのがセオリーだと思う。相手が男子ならそうするのがいいだろう。気の利いた手紙を書いて、日時と場所を指定して、相手が来るのをドキドキしながら待つ……。あー、これ、想像するだけで胸が熱くなってくるじゃないか。

 しかし、しかしだ。相手はあの星子だぞ。こういう正攻法が通じるかどうか、さっぱりわからない。そして仮に、星子がOKしてくれたとしても、二人の秘密にしておいて良いのかどうかだ。目的は星子の胸を独占……じゃなくて、波里に触らせない為なのだ。


 つまり、衆人環視の状態で告白する。これがベストではないだろうか。星子の返事がOKなら願ってもない事だし、たとえ星子が返事を渋ったとしても、波里は手を出しにくくなるに違いない。万一、拒否された場合は……いや、日頃の星子の態度からは、そんな風に拒否される気配は無い。しかし、本当に拒否された場合は星子を諦めるしかないだろう。そして、波里とも距離を置くしかない。星子の胸は、波里が好き放題に触りまくるのだろうが、私はそれを遠くから見つめるだけになる。


 それはちょっと悔しい。拒否された自分を想像したら酷く惨めな気持ちになった。そして、誰が捨てたか知らないが転がっている空き缶を見つけた。こんな場所に空き缶を捨てる奴は誰だ。このマナー違反にも腹が立ってきた。少しイラついた私は、その空き缶を蹴飛ばした。


 キック一発で見事な放物線を描き飛んでいく空き缶。それは化学教師の三谷へと向かっていた。


 ヤバイ。

 焦燥感に駆られる。しかし、私は知らん顔をして教室に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る