SOL.10:やっと休憩時間です





 場所は戻って、第18基地

 4番格納庫内、


「キェーイッ!」


 バシーン


「シッシッ!」


 パンパンッ!ズパンッ!


「〜♪」


 ヒュンヒュンヒュンヒュン……


 予想どおりの3人が示現流稽古やサンドバッグ打ちや縄跳びをしている背後の部屋



「あーっ!あーっ!?

 おま、この、このタイミングで国士無双ってウッソだろオイィィィィィィィィィッッッ!?」


「あのぉ……私何かやっちゃいました……?」


「私の今日のお夕飯代が、ガチャ代ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!」


「フェリシアちゃんとルールブック見てたのぉ!?」




 何故か麻雀中の人間がいる第502戦技教導隊専用執務室。






「げぇ……あんたコレ見なさいよ」


 報告書も書き終えたのは数分前、

 支給された軍用タブレットを見てリディアが言う。


「なんですか中尉?」


「なんかおかしいと思ってあんたの空裂の諸元データ見てたの」


「えっ……あ、ぼ、ボク見てなかった……!」


「見てなくて良かったかもね。

 諸元性能見なさいよ、装甲のところ」


 と、指差して萌愛へ見せるリディア。


「……装甲……50ミリ相当?」


「海猫の半分よ」


「うぇっ!?」


「いくらシースルーウェポン相手で装甲がと言っても……あの軽やかな動きはこれが原因ね。

 装甲削って大馬力エンジンのせてりゃそりゃよく動くわ」


「…………あの、この各部の装甲の厚さ……全部50ミリ以下ってことで読み方……あってます……?」


「防弾機能あれば御の字ね。

 まぁ?シースルーウェポン相手に装甲って言ってもねぇ?」


「……これ後でさっきのASWAって奴付きますよね?

 ボク、死にたくないです……流れ弾でとか……!」


 割と本気で怯える萌愛に、ハイハイと適当に返事するリディア。


 ───その目は、萌愛のパイロットデータをずっと見ている。






(流れ弾でねぇ…………コイツの反射神経ならまず事前に避けられるわね。反応速度があのレディーエースさんと同レベルって初めて見たわよ。

 それでこの射撃命中率何よ…………あそこで10万円溶かした顔のメガネと同じレベルって訳?)



 泣き出す大の大人に、キョトンとする金髪幼女、ルールをちゃんと見たせいであんぐり口を開くツインテールの幼女の隣で、FXに失敗した人間の顔の不良メガネを一瞥し、隣のやたら顔のいい方を見る。


「……?」


「…………」


(…………こんな新兵でも戦技教導隊に選ばれるだけある腕ね……)


「…………」


「…………あんまり見ているとキスしちゃいますよ?」


「ふぇ!?」


 顔のいい相手にそんなこと言われたせいで、リディアは素っ頓狂な声を上げる。


「な、な、あ……!」


「中尉……そんなに無自覚すぎるとボクみたいなのに襲われますよ?

 今慌てている間に唇塞ぐぐらいやる奴いますからね?」


「おどれは乙女ゲーのイケメンキャラかーっ!?

 私は夢じゃないわよ!?」


 相手は女の子であると知っていても、ドキリとしてしまったのをごまかすように叫ぶ。


「まったく……反応まで可愛いんだから……」


 それに対してもやれやれと言った顔で萌愛は言い放つのだった。


「いやあんた女でしょ!?」


「これでもどっちでも行けますが?」


「ファッ!?」


「今の時代珍しくもないですって、もぉ……」


「いやなんで私が悪いみたいになってんのよコイツぅぅぅぅ!?!?!」


 真っ赤な顔で叫ぶリディアに、にっこりと悪戯大成功と言った笑みを見せる萌愛。

 完全に手玉に取られている……


「その辺にしとけよー新兵ー。

 上官に下ネタ言っただけでも営倉入りになるぜー」


 と、しょぼくれた電気ネズミのような表情で埃しか出てこない小さな財布を逆さにしたヴェロニカがやって来て言う。


「説得力の塊が来たのはいいけど、何やってんのよあんた?」


「この場所の片付け終わったんで、見つけた麻雀台で遊んだらこのザマだぜぇ…………もうこの何故かある犬小屋で過ごすしかねぇです……」


 長らく物置だったこの場所にあったのであろう犬小屋を見せて言う顔は、哀愁以外の物がない。


「寮あんでしょうが!

 というかBBのパイロットで前線で戦ってるのにお金無いとか何に使ってんのよ!?」


「何って、アタシのこといつもぶん殴ってくるクソババアシスターがいる施設によぉ……

 アタシ以外にまともな職に付けてる奴はギャングぐらいしかいねぇから、多めに入れとかなきゃアタシより先に下らない理由でくたばっちまうから……

 つーか、アタシ金以外送ってねぇけどあのババアくたばってねーよな……うるせぇババアだけどこまめに電話くれてたからよぉ……」


「そういうちょっと良い話辞めなさいよもぉ!

 夕飯奢ってあげるから!」


 嘘と思えないションボリ具合で言うのだから、両親が傷つく。

 しかし、ヴェロニカは意外なことを言う物である。


「ああ、そういえば、あのシスターさんに黙っててと言われましたが、この基地に来た時に電報で言われてましたわよ、ガンの手術だって」


「ハァ!?!

 なんでお前にそんなものを渡してるんだよ!?!」


「貴女みたいな出来の悪い馬鹿娘に心配されたくないとのことですわよ」


「ふざけやがってあのババアぁーッッ!!

 ガンで死ぬ前にアタシがぶち殺してやろうかオラァー!?」


 心配しているのかなんなのか分からない反応だったが、その後一瞬だけ見せた心底心配する表情は本物だった。


 皆、一瞬黙ってしまう。

 何せ、忘れていたが自分たちは肉親と離れて、先に死ぬ親不孝をいつするか分からない立場だったからだ。


「…………何黙ってんだよ、オイ。中尉殿もなんだよ……」


「別に……いや……うーん…………

 ただ……パパに借りてたCDアルバムのスティッキー・フィンガーズ、トラック最初から急に聴きたくなったってだけ」


「……それ、テンションの上がる曲って言うんなら、さっき古い上にデカいCDプレーヤー見つけたんで聞けるけどよ」


「いや!パパとママの事今は思い出したくないわ!!


 貸して!こう言う時はQueenよ!

 私が初めてお金を出して買ったシアー・ハート・アタックを!」


 そういうなり、近くのロッカーへ行きベースの立てかけてある自分の場所を開けるリディア。


 きれいに並べられたCDケース達の中から、Queenのアルバムである『シアー・ハート・アタック』──


 の、隣3つ目の『世界に捧ぐ』というアルバムを手に取る。


「あれ!?それがシアーなんとかじゃないんですか!?」


 と、流石は遺伝子改造兵士なフェリシアが、遠くからそれをみて気づく。


「よく見えるわね?」


「私達、視力いいですから!

 でも中尉、それシアー・ハート・アタックじゃないですよね?」


「あのねぇ、ジョアンナちゃんにフェリシアちゃん?

 Queenの曲のシアー・ハート・アタックはアルバムのシアー・ハート・アタックには収録されてないのよ」


 えぇ、と全員驚きの顔を見せる。


「……大昔のクラシック音楽って……」


「ロックがクラシックな訳ないでしょうがぁ!!


 じゃなくって、余の中には色んな事情とかあるのよ!

 ほら曲流すわよ!」


 言うなり、アルバムCD大きなスピーカーと一体型のクラシックなCDプレーヤーに入れる。


 ふと……その指は、トラックを選ぶボタンの前で止まる。


「…………考えても見れば、これはあんた達にQueenの偉大さを教える絶好の機会ね」


 皆が疑問符を浮かべる中、トラックの1番が始まる。



 ────ズン、ズン、ダンッ!

 ズン、ズン、ダンッ!ズン、ズン、ダンッ!



「────『おいクソガキ、今は道で遊んでるけどいつか大物になりたいんだろう?』」


 誰もが聞いたことのあるリズムと共に、伝説のボーカル兼パフォーマーの声と共にリディアが口ずさむあの歌、


「『顔汚してるな、しっかりしろ!

 広い世界で好きなようにやって見せろ!

 歌え!』」


 訪れるあの部分。




「『俺達は世界を驚かせてやる!!

 俺達が世界を魅了させてやる!!』」





 呆気にとられ、気持ちよさそうに歌うリディアをあんぐり口を開けてみてしまう。


「…………聞いたことある……」


「これ、Queenの曲だったのか……」


「運動会で聞いたことある……」


「いやあんたらも歌いなさいよぉ!

 これはそのための曲としてブライアンが作ったのよぉ!?」


 と、勝手なことを言い始めるリディア。


「ほらもっと、足と手を使って、このリズムを!」


 ズン、ズン、ダンッ!


「ワンッワンワンッ!」


 ズン、ズン、ダンッ!


「ワンッワンワン!」


「そうそう、いい感じ…………って、」


 ふと、リズムに合わせて変な声が聞こえる。


 いや声というか……などと思った皆が、窓の外を見てみると……


「ワンッワンワン!

 ヘッヘッヘッヘッへ……!」


 何故か、


 汚れた毛の手足が短い小型犬が、窓枠に上半身を出してこっちを見ていた。


「…………ワンコ?」


「ワン♪」


 間抜けそうに舌を出して、犬がずっとこっちを見ていた。


          ***


「ただいま〜!パンケーキの売店来てたの!!

 みんな食べる?」


「あ、大尉!それよか肉ある肉?」


「えー、お肉の気分だ……った……」


 と、そこでようやく、タオルで拭かれている小型犬を見つけるルル。


「いやこいつの分な」




「かわいいぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡」




 瞬間、パンケーキの袋を落としてスライディングし、見事そのワンコをキャッチし頬擦りし始める。


「なにこのモフモフ♡♡♡

 これは戦略兵器級のかわいさです♡♡♡♡

 確保です♡♡♡♡

 収容です♡♡♡♡

 保護です♡♡♡♡♡」


「財団は関係ないでしょが!

 てかシャワー浴びせてちょっとトリミングしたけどこれ野良犬よ?」


「野良にこんな可愛い子がいるなんて〜〜♪

 ……あ、男の子だね」


 股の部分を見てそう言うルル。意外と平気なのか。


「大尉、セクハラだぜ?」


「いや〜、ついつい……」


「いやいや、何アホジェンダー理論振りかざすやつみたいなこと言ってるのよ、犬よ相手」


「犬って言っても、心はあるからあんまりぞんざいに扱えないからね、リディア中尉?

 君もそう思うー?」


 そのタイミングでワンと吠えて尻尾を振る犬に、にへーと頬をゆるませるルル。


「よし!

 ちょっと待ってて、医療連で狂犬病ワクチン打って貰ってくる!!!」


 いうや否やそのイヌヌワンを抱き上げてダッシュでその場を去るルル。


「なんですかねぇ、あの行動力ぅ。

 てか飼う気でござるかあの大尉殿は?」


「まぁ……アホヅラな上に人間に警戒心無しって事は、相当餌だけ貰ってる犬だぜアレ?飼うのは楽そうだけど……

 つーかこの犬小屋取られるのかよ?」


「いやあんた人間用の部屋あるでしょ!」


「ちえー……あそういや犬のトイレもあったな。

 組み立てとくか」


 そんなこんなで、ルルが戻るまでまた緩い休憩時間が始まる。





          ***






「おいすー、BHI社からお届け物だぜー!着払いで」


「はいはい、7ペソしかないけどいい?」


「ケチんぼー!

 じゃあこれ置いとくから」


 しばらくして来たリュカが、何やらでかい円柱状の装置を部屋の隅に置く。


「なんだこれ?」


『私の本体』


 喋った、と全員が驚く中、上の一部が開いて光を放つ。


 瞬間、現れるは可憐なホログラムの少女、


「カリン!」


『そう私。

 さ、早く電源を確保。バッテリーは消耗したくない。

 それと全ての端末に私を繋げて。

 無論そこのイカしたオーディオにも。Bluetoothぐらいついてるはず』


「古い型だけど?」


『対応可能』


「と言うかなに聴く気?」


『私の趣味はもうちょっと、新しい。

 プリンステラの3rdシングルの『ボク達青春未満』』


「ぷり……何?よくあるアイドルソング?

 ポップすぎる奴に青春の甘酸っぱさだけでできたグミみたいなのでしょ?」


「ごめんね、グミみたいな曲でさ中尉」


「なんであんたがムッとした顔で謝んのよ」


『だって彼女がセンターの曲』


 一瞬、意味が分からず、室内室外合わせて全員が疑問符を浮かべる。


「…………そりゃあ、プリンステラは大手アイドルと違って、徴兵逃れられない程度の人気だけどさ……

 Mステ出たし、ラジオ番組やってたし……

 ねぇ、せめて志津ちゃんぐらいは知っていて欲しかったけどなぁ」


 言われてサンドバックの揺れを止める志津も、申し訳なさそうな顔を浮かべるしかない。


「……知ってるの、志津ちゃん?」


「ごめんなさい私……プロボクサーなら身長体重もパッと出てくるんですけど……」


「ダメだこりゃ、みんな苦手分野ね。

 ただ要するにあんたアイドルだったの?」


「休止中なだけでーす!過去形はやめてください!

 こうなったら意地でも生き残って復活してやりますから!!その時サインねだっても遅いからね!」


 一番背の高い体で少しムキになって宣言する萌愛。


「まぁ良いわ!かけてみてとりあえず」


 と、清々しくスルーな様子で音楽をかける。




         ***


「ただいまー、みんな注も……」


 何故か海兵隊の帽子を被った例の犬と共に帰ってきたルルは、部屋に入るなりそれを聴く。


「だから、ベースはこうじゃなくってこうよコレ」


「???」


「はぁぁぁぁぁ…………分かんないかなぁ、この違いが」


 と、何故かベースを弾き大きなため息で講釈を垂れるリディアがいる。


「何してるの……」


「あら、おかえんなさい大尉。

 いやこのアイドルにちょっとロックの真髄というかそういうのをね」


「アイドルって?」


「今まで言ってなかったけど、ボク地球で、ボーイッシュアイドルグループ『プリンステラ』のメンバーで」


「へー……」


「……大尉に知られてないとちょっとショックかな……うん……」


「ごめんねぇ、私……最近はニュースか教育番組のアニメしか見てなくって……」


「……」


 軽くしょぼくれた犬のような顔を見せる萌愛。

 ふと、足元にやってきたあのワンコと目が合う。

 にっこー


「なんだよ……慰めてくれるのかい?こいつ……」


 しゃがんで背中をさするとたまらないと言った様子で目を細めて首を伸ばす。

 ふと……頭の可愛い帽子の階級章を萌愛は見る。


「……あれ?これって……軍曹?」


「ワン!」


「そう、の階級章だよ!」


「ケンイチ?」


「ワンッ♪」


 持ち上げた犬が舌を出して笑顔で答える。


「その子の名前。

 千鳥セントリケンイチ軍曹!」


「ワンッ!」


「お、そっか備品じゃなくって兵士扱いにしたのか?」


「なるほど……その方が楽ね」


「? どーゆことですか皆さん………?」


「新兵諸君は知らないか。


 古来よりの伝統でな、軍内部で犬を飼う場合は、備品扱いか、兵士扱いかのどっちかだ。


 兵士の場合が多いな、何せ移動の書類も楽だからな」


 と、鍛錬の終わったジャネット汗を拭きながらがジョアンナの質問に答える。


「しかし大尉、これが軍曹?

 いったいどうしてそんなに偉くなったんだ?」


 言いながらジャネットも、そのケンイチの可愛らしい鼻をツンツン優しく突く。


「実は……予防接種の後、勝手に曹候補試験会場に紛れちゃって…………

 この子ったら全部の訓練コース走破しちゃった上に、セントリーガン講習を受けた上にセントリーガンを動かしちゃって……」



 説明しよう。


 セントリーガン

 正式名称:自動照準及び敵味方識別可能自立砲台


 内臓のAIが、高度な情報共有能力と自己判断機能で敵味方を識別して内臓火器を撃つ武装である。


 現代では歩兵戦は滅多にないが、トラップにおいてこれがある限りはエイリアンの直接歩兵侵攻を防げると言われている。


 曰く、『犬にも使える高度な兵器』である。



「セントリーガンを?

 ほう……お前もハイテクなやつだ」


「クゥゥン……♪」


 ジャネットに撫でられて気持ち良さそうな顔のケンイチだった。


「そんなわけで、このケンイチは今日からこの502の守衛として頑張ってもらいます!

 ケンイチ、敬礼!」


「ワンッ♪」


 肩前足を上げてキリッと顔を締めて返事をする。

 芸達者な犬のケンイチに、ルルはにへら〜、と頬が緩んでしまい、その顔を見てケンイチも舌を出してにっこり笑う。


「ギャハハハハハ!!

 これでココにワンちゃんもう一匹だわな!!

 あ、アタシも撫でていいすか大尉〜?

 やっぱわんちゃんは間抜けづらで噛まない奴に限るわ……」




「へー、もう一匹だったんだー?

 誰のことさそれ?」




 ───笑ってわしゃわしゃ背中をさするヴェロニカの背後から、

 猛獣さながらの眼光で小さな海兵隊員が現れる。


「…………」


「ねぇどうしたのさ、なんか言えよリー少尉ぃ?

 それともボクにさぁお前……なんか言えないことでもあるのか、あぁん??」


「…………いえ、何も無いっす、テリアの姉さん……」


「声小さい上に目を逸らしてるよなぁ、オイ?

 こっちを見ろよ、なぁ??」


 さながら噛み付く寸前の狂犬と言った、テリア・ヨークシャー少尉 (低身長だが20歳) の眼光に顔面蒼白で冷や汗を流しているヴェロニカ。

 腕っ節は営倉の狂犬と言われるぐらいに強いヴェロニカでもテリアはそれよりも喧嘩が強いのは少し前に証明されたばかりだ。


「あー、テリア少尉、勘弁してあげて……」


 流石に可愛そうな上に、ケンイチが怯えてルルに抱きついてきて震えているので止める。


「おっと、失礼しました大尉!

 それと遅ればせながら、テリア・ヨークシャー少尉502に着任しました!」


 ビシリ、と無駄なく素早い敬礼に、ルル達も姿勢を正して返礼する。


「自分が来たからには、ここの不良共々じっくりパイロット技術だけじゃあなく、心身共に鍛え上げてやりますから!


 同じ階級どうし頑張ろう、な?」


「ひゅい…………!」


 さながら強面の大型犬に睨まれた仔犬である。

 逆な気もするが……


「おっと……それとついでなんですが、そこの萌愛准尉にお客が一人」


 ふと、テリアはそんなことを言い、部屋の入り口へ入れ、と声をかける。


「失礼します……」


 扉を開けて、入ってくる一人の少女。

 金髪にワンサイドアップ、だが顔立ちはどちらかと言うと日本人。

 すりむけた顔に絆創膏が張られた姿が妙に似合う。


「誰……?」


『ほう』


「え?ラナ!」


 と、皆が疑問の視線を投げかける中、萌愛が驚いて名を呼ぶと彼女もハッとした顔になる。


「萌愛……本当に、いたんだな……」


「いたんだなはこっちのセリフだよ!

 知ってたら顔ぐらい……」


「……うっ、」


 瞬間、ラナと言われた彼女の瞳が潤み、大粒の涙へと変わる。


「どうしたんだよ!?」


「うぅ……あたし……あたし……!」


 グスッ、ヒグッ、と人目を憚らず泣き始め、顔を押さえて背を丸める。


「おいおい、まさか……!」


『彼女は、栗原ラナ。

 プリンステラのメンバーで、あり、





 ───ここの海兵隊のBBパイロットの新兵。准尉』





 その一言で、新兵組以外は察した顔を見せる。





「……生゛き゛て゛て゛良゛か゛っ゛た゛ぁ゛……!

 良゛か゛っ゛た゛よ゛ぉ゛……!」


「どうしたんだよ……そんなキャラじゃ無いじゃん、どうして……?」





「僚機が死んだのね」


 ビクリとラナという少女は顔を上げ、遅れて萌愛がリディアを見る。


「…………僚機じゃ無いとはいえ、海兵隊は横のつながりは大きいわ…………

 同じ訓練を受け、同じ鬼教官にしごかれ、同じ部屋のベッドで寝た。

 ……あんた、まさか最後まで通信で話してた時にやられたんじゃあ無いわよね?」


「あ、あ……あぁ……!!」


「…………嘘でしょ、辞めてよ……!

 かける言葉出ないわよそんな……!」


 震えて見るラナが直視できない、といった様子で苦虫を潰した顔を逸らすリディア。


 いや、新兵以外、そして表情のわからない凪以外がほぼ全員、俯き顔をしかめている。




 萌愛は、なんとなく理解した。


 、と





「クゥン、クゥゥゥン……」


 ふと、ルルの頬を舐める舌が、重苦しい空気と共にやってきたフラッシュバックを振り払う。


「……ケンイチ……ありがとう。大丈夫だよ」


 心配そうな顔だったケンイチをなだめ、そっと床に下ろす。


「…………行こうか」


「え?」


 ふと、ルルはそう言う。





「『お葬式』、行こう」





          ***

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