SOL.9:マアヒ・カヤールとヤベーイ作品達

SOL.9:マアヒ・カヤールとヤベーイ作品達








「まず、こちらハイドランジア」



 フォン♪ ウィーン、

「……待てやッ!!」




 と、突然再起動したヴィヴィアンがその肩を掴む。


「ハイドランジアは辞めろぉ!!

 あんな欠陥を大金叩いて作ったような物を出すなぁ!!」


「何を言いますか!!これの構想は3年かけたんですよ!?

 欠陥なわけがないじゃあないですか!!」


「あんなものに人乗せて喜ぶか変態ぃ!!」


「変態!?!?」


「ハイハイ、まずは見てから。

 シャルちゃんヴェルちゃん凪さん、陸戦機だから出番!」


 と、陸戦機組を呼んでその問題の機体の青写真情報を見せる。








「……えぇ…………」


 結果凪はドン引きである。


「オイオイ、これ実機作っちゃったって言ったのはマジか?

 お前クソAIだけど今回は同情するぜ……」


 ヴェロニカももはや目も当てられないと言った顔でそれを見る。





 それは、一見すると頭に一本ツノのような物の伸びる重厚な陸戦機だった。


 問題は……背面。


 両肩は内蔵式の『大型』イオンジェットエンジン。

 なんと両脇には小さく飛行用反重力可変ウィングが折り畳まれている。

 背中には翼のように伸びるブースター二つと小さく生えるブースターが見える3つのブースター。

 腰には陸戦機用のジャンプブースター……いるのかこれと言ってはいけない。それ以前の問題だ。

 さらに足にもロニセラにも使われた高機動化ブースターが……




「陸戦機……?下手な汎用機より飛べそう……」




 受け取ったルルも苦い顔。

 普通の欠陥機でももっと見た目は欠陥を無くそうとする……



「流石に高空は飛べないのですよー。

 重量がありますし」


「嘘つきなさい!!

 この肩、この形!!

 さっきあんたが納品した空戦機の空裂の、


 足のエンジン部分そのままじゃない!!


 アレ事前データだと機体重量含めても推力重量比6以上の化け物エンジンなの知ってるのよ!?」


 リディアの言葉に(マアヒ以外)げぇと叫ぶ。


 ちなみに推力重量比とは、エンジンパワーを示す指標であり、1以上あって初めてエンジン単体を揚力などの力抜きで飛ばすことのできるパワーを持つ。

 意外かもしれないが、BBの空戦エンジンは機体重量に対して基本的3ぐらいのパワーしかない。反重力装置の恩恵で浮いているからだ。



「オイオイ、インド博士。

 どこの世界にダンデライオン級の装甲で重量の機体にこんなブースター付けんだよ」


「だって、装甲が厚くって速ければ強くないです?」


「装甲厚いつったってよぉ?

 シースルーウェポンに意味ないぜ?」


「ふふふ……実はもう一つの改修機にも関係がある話ですが……


 まぁまずはこちらの実験室を見てください」



 彼女の持った端末の操作で、隣の部屋の実験室があらわになる。


 中央には天井から伸びるアームと、シースルーウェポンらしき機械。

 銃口の先には、一つはなんの変哲もない120ミリの鉄の板。丁寧におかれたテーブルには目盛りが書いてあるのが見える。


 そしてもう一つが、水晶のような板にむき出しの基盤がくっついたような機械だ。後ろにはエンガウィウムジェネレーターが太いケーブルで繋がれている。


「ご存知、シースルーウェポンはあらゆる物を貫きます」


 マアヒの操作でシースルーウェポンが起動し、ビームが一瞬で120ミリの鋼鉄を貫く。

 御丁寧に台が90度回転して、煙を上げて赤く光るフチと綺麗な穴を見せてくれる。


「この特性は、シースルーエンチャントウェポンだとより強く、と言いますか、エネルギーと物理エネルギーが加わり100万パワーみたいな理屈で手がつけられない上に、普通のEエネルギーシールドを抜いてさらにその下の装甲もたやすく貫通してしまいます」


 ガチャ、という音と共に弾丸が込められたシースルーウェポンが、隣にあった機械に向けられ、フォンと張られたエネルギーシールドを撃ち抜く。


 ズガァン、と盛大な音が実験室ごとこの部屋を揺らし、Eシールドジェネレーターだったあの機械が粉砕された。


「ダメじゃん…………」


「………………おい待て、おかしくねーか?」


 ふと、ヴェロニカはそう言って、研究室のちょうどシースルーウェポンが打ち込まれた側の壁の方へ行く。

 壁はこの研究室の壁と独立しており、間のスペースは一個のトイレの入り口になっている。


「…………穴が開いてねぇ」


「いやねぇ、実験室に穴開けて…………

 ちょっとまってえ?

 シースルーウェポンはなんでも貫通するはずよ!?

 鉛でも無理よ!」


 と、リディアが言って初めて周りがその事実に気づく。


「ふっふっふっふ……気付いていただきましたか、これこそ、」


「待ちなさいマアヒ・カヤール!

 ASWAが完成したの!?

 後2年はかかるはずの研究よ!?」


 と、得意満々に言おうとしたマアヒを遮ってヴィヴィアンが叫ぶと、一転してガーンとショックを受けそのままションボリした顔になった。


「ASWA?」


「ASWAは、『Anti See-through Weapon Alloy』の略です。

 この場合合金って言葉を使っているけど、日本語訳で言えば『対シースルーウェポン用防御』って言うべき機構で、実態はシースルーウェポン限定で弾き返すことのできるエネルギーフィールドと言うべきもの、かしら?」


「なんだそりゃ?アンチシースルーコーティングの一種か?ありゃ気休めにもならなかったが」


「たしかにあれは気休めにもなりませんが、これは塗料程度の膜で作った回路に流す特殊な誘導性エネルギー場でシースルーウェポンだけなら完璧に防げるのです!

 しかも、Eシールドより低電力なので長く戦えるのです!」


 ほう、と流石にそれは驚く。


「でもそれわざわざコレに使うため……?」


「もちろん、ついでに他の陸戦機などでも導入予定なのですよ!」


「むしろそっちがメインでしょうに……データよこしなさい、さっさと他のBBBパッケージにも」


「あ、ヴィヴィアンちゃん!

 ASWAが低電力といっても、ジェネレーター負荷の都合上、やっぱりサブコンデンサを増設した方が良いです」


「承知の上よ。

 あなたよりも長く私はボーンの系譜に関わっているのよ?」


「じゃあそっちは任せてハイドランジアの続きを」


「諦める気なしか」


「だって、硬くて早いんですよ?無敵なのです!」


「でもこの推進系統の偏りブライトウィングみたいな機動は無理ですよね?

 直線番長は速くても当ててくれと言うようなものです」


「ならば引き金が引くより速く近づくのです!」


「一体あんたこの鉄塊にどんな速度ださせるつもりだよ?」


「うーん………………音速?」





 ……………………

 ………………

 …………

 ……




 ……ここで物理の解説をしよう。


 音速は、大気の密度、つまり気圧の都合で変動するので、アバウトに言えば地上に近ければ近いほど速くなる。

 なので航空機や空戦BBが音速を突破しやすいのは、高い場所の音速がそもそも遅いからだ。


 なので地上かその付近で音速ということは…………




「誰が乗るんだこんな爆走する鉄塊……」


 当たり前の反応。当然のうなづき。

 これにて闇に葬られる計画とはまさにこのことだった……












「─────わたくしが乗ります」




 シャルロッテが手を挙げなければ。


『えっ!?!?!』


「わたくしが乗りますわ!!」


「気でも狂ったかこの金髪!?」


「なんとでも言いなさいな!

 これこそわたくしの求めていた機体ですわ!!

 多分!!」


「わぁ♪乗って頂けるのですか〜?」


「ブルーローズと大分似通った所が気に入りましたわ」


「分かって頂けるのですか!?

 そうです!ブルーローズから着想を得たのです!!」


「やはりですわね!通りで似通っていると!

 まさに発展版ですわね♪ 最高の物を作っていただいて感謝しますわ!!」


 ちなみにブルーローズは『扱いにくい欠陥機体』として有名である。







 そしてそれを好んで乗りこなしてエースになったのがこのシャルロッテ・ディートリンデ・フォン・ヴィドゲシュタインとか言う人間だった。







「わぁい♪」


「いえーい♪」


「……チビ共ー、新兵ー。

 お前らはあんなキチガイになってまで戦おうとか思うなよー」


「「「イエスマーム」」」


「誰がキチガイですかヴェルゥ!?!」


 酷い言い方にキレたシャルロッテを適当になだめる隙に、ルルは次の機体のデータをスライドして見る。






「次は汎用機………………うーん、この」


 どれどれ、とルル以下新兵達の集まりであるオルトリンデ隊が集まって背伸びをして見る。


「うーん……」


「うーん……?」


「うーん…………」





 まず、各部のベースは恐らくブライトウィング。

 各部はやや増設された装甲に覆われており、恐らくASWAが増設されているのだろう。


 問題は、背中から生える巨大なユニット。

 何が一体になっているかと言うと、ブースターと、各種電子戦装備と……



「これ大型格闘用マニピュレーター?」



 物を掴むと言うよりは握り潰すための鋭利で強度のために関節を減らした爪の、まるで竜の口のような形の腕が格納されている。



「名付けてブライトファング!

 ブライトウィングの機動性を格闘能力に合わせ、継戦能力や敵拠点防御破壊などに特化させました!」


「『ワイルドウィーゼル』機……!?」


「わい……なんですってルル大尉?」


「志津ちゃんは新兵だからそこまで知らないけど、


 敵の対BB砲台やらミサイルランチャー、レーダー施設を破壊するミッションやらされる機体を『凶暴なイタチワイルドウィーゼル』って呼ぶの。

 便宜上、宇宙でも『敵防空網制圧SEAD』って言っているけど、過酷なんてもんじゃないよ。

 要するに一番危険な場所に突っ込むんだもん」


 はわわわ、と怯える志津。


「ちなみに、この機体は適正的には加藤志津准尉に乗ってもらえるよう要請するのです」


「ふわっ!?」


 と、怯えたところへサラリとした追い討ちをかけるマアヒ。


「新兵になんてことを!?」


「いや別にワイルドウィーゼルしろと言うわけではないのですよ?

 彼女が一番格闘兵装への適正や、何よりブライトウィングなどの機動性が高い機体との相性がいいんです♪

 よくご存じでしょう、大尉?」


「…………あなた人の心がないの……?」


 キョトン、とした顔を見せるマアヒ・カヤール。

 自分の言っている事が分かっていない顔に、かける言葉もなくため息が出てしまう。


「…………乗せろと言うのであれば、そうはします。

 訓練は増やしますけどね」


「うへぇ……頑張ります……」


「ごめんね、志津ちゃん」


 ションボリする小さな体を、似たようなサイズのジョアンナとフェリシアが横から慰めていた。


 かわいい


 癒された所で、ルルは次の機体へ……



「あ…………!」


「?」


「これは…………なるほど。

 ごめん、テリア少尉!コレはあなたが見て!」


「えっ?はい?

 ……っておぉ!」


 呼んだのは、一応部外者ではあるテリア・ヨークシャー少尉。

 寄ってきた彼女に見せたのは……




 BBBの組み換え可能フレームの組み換えにより肩幅や腰が広く太くなった体に、重装甲とそれを動かせるそこそこの出力のブースターを装備。

 両腕にEシールドジェネレーター兼格闘兵装の盾を持つ、揚陸隊の守り手と評されるその姿は……




「ブルドッグ!?いやコレって……」


「汎用陸戦機海兵隊仕様のマスティフですよー。

 面白みも捻りもないですがまぁ必要かなと思って」





『いや普通こういうの求めてるからこういうの!!』





 思わずそんな叫び声を上げる502の全員。


 今まで狂気の産物か、人の心がない機体しか見ていないが故に意外だった。


「仕様書通りなら……ボク達の乗ってるブルドッグなんて可愛い子犬ちゃんだ……!」


「まぁどうせ強化発展系ですし、手堅いだけが売りですから、カレーのスパイス調合の片手間にさっさと仕上げたものの一機ですよー」


「一機?他にも?」


「ええと…………ダンデライオンの重ミサイル増設型のB型『ファイアーワークス』に、」


「なんでそれ先に言わねぇんだよ!?

 一番欲しいわ!!」


「それと、海猫の機動性や格闘能力底上げの為の武装配置変更タイプの二式装備」


「はぁ!?コレよコレ!!コレ先に出しなさいよアンタ!!」


 さっさとオマケのように出された機体は、どれもヴェロニカやリディアにとっては『欲しい』機体だった。

 しかも仕様書のデータとはいえ何一つぶっ飛んでいるところがない……


「そんなつまらないモノよりハイドランジアの実戦データが欲しいのです」


「まぁ確かに」




『要らないからこんな産業廃棄物!!』




 第502の面々(シャルロッテ除く)は、会社の窓が震えるほど目一杯に叫んだのだった。






 結局この後も、天才なのか狂っているのか分からないカレーの匂いを携えたインド美人のペースに振り回されて、日がくれたんだとか。




 皆、当初の目的もまぁ果たしたとはいえ、


 実戦帰りの時より疲れた顔で帰って行ったのだった。




         ***

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