SOL.4:空を裂く一射
ボシュウゥッ!!ボシュウゥッ!!
キュゥゥン……ズドドドドドドド
『やー、無理無理!!
さっきから全然数減ってねーよ!!』
ヴェロニカの言葉通り、先程から散漫な動きと機動性で狙いを付けさせずザジタリウスは動きまわりこちらはただひたすら地道に撃ち続けるだけだった。
『やっぱ一本ナイフ持ってくるべきでしたかねぇ〜??
いやもう、砲撃は自分死ぬほどやったっす〜』
と、残しておいた肩のミサイルを放ちながら、情けない声を上げる凪。
「確かにジリ貧かも……!」
オルトリンデ隊と共に、やはり最も多く撃墜しているルルは、急速充電を繰り返し撃ちすぎて燃えたコンデンサーを投げ捨て、まだ無事なコンデンサーユニットを投げ捨てて呟く。
「スルーズ隊、まだ!?」
『こちらスルーズ3。
まもなく、有爆撃範囲に入る。
オルトリンデ、ヒルド隊各機、
────『FAC』スタンバイ』
カリンの言葉を合図に、全員コックピットコンソールを叩く。
それぞれの機体の頭部やライフルに搭載された、特殊レーザー光発信機が起動して、敵へ照射を始める。
「オルトリンデ1、
コード、
***
「スルーズ1コピー!!
スルーズ全機、ミサイル誘導設定をレーザー誘導でスタンバイ!
順次撃って!!」
瞬間、海猫の両肩の『フェニックスV4 多機能誘導弾』が四発、惜しみなく放たれる。
ボヒュゥ!!
音速を超えて飛んでいったミサイルが、ザジタリウスのいる一角へ撃ち込まれる。
ドシャァァァァン!!!
黄色い光が、衝撃波として放たれる。
シースルーウェポン応用の弾頭が炸裂したその威力は、数体のザジタリウスを巻き込む。
「オルトリンデ、ヒルド!!
***
「BDA…………撃墜は4、まだ残ってる!」
煙を吹き飛ばす力強さで出てくるザジタリウス達。
所々武装が傷つき、焼け焦げた後はあるものの動いている。
バシュン、と一機はルルが撃ち落としておく。
『やっぱり頑丈よねぇ!
まぁベリルと違って飛んでこないだけマシよ!』
「
『スルーズ了解。
足止めお願いね!』
「了解!
各機聞こえたね?
逃げ出した馬を柵で囲むよ!!」
『了解!!!』
『馬刺しの時間だぜ!!』
『野蛮だこと。乗馬クラブにしません?』
『じゃじゃ馬ばかりの乗馬は勘弁だな!』
上空を旋回するスルーズ隊の機体より響くジェットエンジンの音を背景に、再び散開して敵を囲い込むように誘導する。
***
『まず右の群れね。
スルーズ2、ちょっとその
「了解、スルーズ1」
小さく、深呼吸。
バイザーの下の顔を真剣なものにし、萌愛は新たなBBBパッケージ『空裂』を操り、加速する。
「わ……!?」
スロットルを踏んだ瞬間、信じられない加速が起こる。
(速い……!?
違う、多分……!)
「
機体そのものが、ジェット推進する羽毛のような軽い挙動で動く。
一瞬で目的地上空へ移動した瞬間、反射的に右腕部で保持する武器────長大な砲身を持つ『ゲイボルクランチャー』を構える。
「ここか!」
その加速製に似合わない制動力でピタリと照準を合わせたまま、砲口から青いシースルーウェポンの光が放たれる。
途中で光は3つに開き、偏向して目標へ向かう。
別れた光全てが頭上からザジタリウスを射抜いて爆散させる。
「次は回避……!」
一度でも実戦に出ていたからか、すぐに回避行動をとる。
4つの翼をはためかせて動いた空裂の、過去位置へと流れるシースルーウェポンの光。
見て、撃った敵の位置を見ながらなお移動し、シースルーウェポンの止んだ隙に構える。
「不思議な感覚だな……!」
敵がシールドを向ける。
瞬間、ゲイボルクランチャーの発射菅へ
「初めて乗ったはずなのに、」
引き金を引く。
「────ボクの思い通りに動く!!」
一直線に飛んだシースルーエンチャントバレットが、ザジタリウスの盾に展開されたEシールドを貫通し、撃ち抜く。
狼狽えるよう走り出した別のザジタリウスの背後の方角へ、瞬間移動のような速度で回り込み、ゲイボルクランチャーノーマルモードで撃ち抜く。
『バカ!高度下げない!!』
「おっと!」
敵の対空火器にもなる頭部の速射型シースルーウェポンを避け、再び上昇する。
『ったく、少し撃墜したからって油断しないのスルーズ2!』
別角度からやってきたリディアの海猫の両腕に構えられたシースルーアサルトライフルがその敵を撃ち抜く。
自分の方が低高度なのでは、と言いかけているうちにオーバーシュートもなく華麗に上がっていくのを見て口をつぐむ。
ちょっと納得はしていない萌愛だったが、言うだけあってリディアは上官なのだ。
…………実は年下らしいが。
「次、行きます!」
『次も頼むわよ!!』
そう言われれば頑張るしかない。
萌愛と空裂は再び空をかける。
***
『すご……!』
『そりゃあ志津ちゃんよぉ、航空攻撃は地上部隊が一番食らいたくない攻撃だぞ?』
『生物は基本真上は死角ですからなぁ。
エイリアンはどうだか知らないでござるが』
「今回は、制空権を取っているのはこちらだからね。
これが前のハルピュイアとかが上に飛んでいたらこうはならないよ」
『そうじゃなくて良かったですわ〜!
いかにこの
『そうか少尉?この機体はよく使えると思うが……』
『いーえ!チャーチル中尉には分からないと思われますけれども、やはり装甲はもっと欲しいですし、何より直線の速度は出来れば……ふむ』
ヒィィイイイィンッッ!!
ヒィィンッッ!!
上空を横切る、空戦機が二機。
海猫と空裂の背後をずっと見るシャルロッテのワイルドボアのカメラアイの視線。
『おいシャル〜、そう言うトラクターにジェットエンジンを乗せる発想は、ネットのバカ動画の中だけにしてくれよな〜?』
『ヴェル、わたくし何も言ってませんわ』
『じゃあなんで空なんか見てんだ?敵の援軍か?鳥か?飛行機でも飛んでる?
晴れ渡った空じゃあねぇ…………』
ふと、周りに落ちる大きな影。
グォングォングォングォン…………
頭上を見上げるとそこには……
「うわ……!」
SSDF新造宇宙戦艦、ガラティーンの姿があった。
「晴れ時々戦艦……?」
***
ガラティーン内、CIC
「艦長、
「まさか、まだ艤装も完成していないのに再び出る事になるとはと思いましたが……コレを使う事になるだなんて」
吹雪は、珍しく険しい顔のまま自分のきるセーラー服の胸元から、一本の複合解除キーを取り出す。
「実践どころか大気圏外での実射すらまだとはいえ……本当に撃ちますか、艦長?」
同じものを深い谷間の間から取り出したアリアが、真剣な顔でそう尋ねる。
「命令です。従うのがお仕事ですから」
「……了解」
先程、柴田基地司令より貰った厳重なアタッシュケースのコンソールへ、毎回変わるコードを入力する。
開いたケースは、発泡スチロール製の緩衝材に囲まれた一枚のビニールに包まれた硬い紙がある。
ビニールを破き、そこに書かれてあるコードを艦長席から入力。
直後、保護カバーが外れた鍵穴が二つ現れ、二人は同時にそこへキーを入れる。
つまむ親指と人差し指の指紋と毛細血管をキーが読み取り、キー自体のアナログな形状を認識し、ようやく鍵穴は回る。
《MAP-Wのロックは解除されました》
瞬間、映し出されるガラティーンの内部機構。
機関室に当たる部分から、看守まで伸びる機構のロックが解除された事を伝える。
***
「こちら機関室!
艦長及び副長権限にてロック解除を確認!
サブ動力炉、ジュピタードライブエンジン、臨界まで残り30秒!!」
メイン動力であるエンガウィウムジェネレーターとは別に搭載された、木星でのみ作り出せる特殊重元素を動力源とするジュピタードライブエンジンが唸りを上げる。
ジュピタードライブエンジンの円筒状に伸びる部分が艦首へ続く『砲身』へ向けられ、位置を修正されて近づけさせる。
同時に外から見える変化として、ガラティーンの名の如き剣のような艦首が割れ、砲身が姿を現わす。
「CICへ、ジュピタードライブエンジン臨界!!
いつでも撃てるわ!!」
***
「砲雷長、トリガーを預ける!」
「了解」
シュラアの座席背後から展開した、精密射撃用スコープユニットが彼女の手に掴まれ構えられる。
スコープ越しに見える敵のネスト。
普通に攻略すれば、甚大な被害は必須のそれへ、照準が合わさる。
「ターゲットロック。総員対ショック防御」
言われてまずアリアが副長用の座席へ座りシートベルトを締め、そしてCICのモニターの光度が下がる。
「対ショック防御すると同時に、被害地域からの友軍の撤退命令」
「艦長、当該地域からの撤退が今完了しました」
「了解!
MAP-W、『バスターノヴァ・プライム 』、」
そして、吹雪はその命令を下す。
「ぅ撃てぇ────────ッ!!!」
「発射!」
カチリ
引き金が引かれた瞬間、機関室のジュピタードライブエンジンが砲身へ勢いよく装填され、艦首砲口から眩い光が放たれる。
バッシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!
午前の光もかくやの眩い閃光の奔流。
敵の基地を飲み込み、大地をえぐって突き進む。
ボォォォォン…………ッッッッ!!!!!
光が収まり、衝撃波が退避して見ていた502の面々へやってくる。
『うぉぉぉぉぉぉ……!!』
『久々だが、やはりMAP-Wは強力だ……!!』
『…………いっそ綺麗ですわ…………』
遠く、恐らくネストのあった場所から、巻き上げられた土煙などに余波で帯電したせいで出来たキノコ型の雷雲が見える。
誰がどう見ても、いやいっそそんなことがあれば聴きたいほどだが…………
間違いなく、敵の基地は大地ごと消し飛んでいるであろう。
「…………これより502各機は
ダンデライオンが先頭。地上は2つの班に分けるね?
ヒルド2、3、オルトリンデ2は私と。
ヒルド1をリーダーに、4、オルトリンデ3、4の4機は東側から」
『ウス、大尉』
『オルトリンデ1、できればそこの諜報部とは一緒に居たくないのだが?』
「申し訳ないけど、もう同じ仲間なんだ。出向でも。
凪さんが胡散臭いのは分かるけど、殴っても良いから後ろで撃ちたくなるような目で見ない訓練は今から積んで貰うから」
『否定できないのが辛いっすー』
『ほう?後ろから撃たなければいいのか。
よかった、今度は真正面から斬ろう』
『あのー、これ自分が不利では?』
「凪さんも避ける訓練ということで」
『どいひー!!』
「はい、解散!」
そうして、センサーが充実し装甲も厚いダンデライオン2機を先頭に、未だに雷雲の立ち込める着弾地点へ向かい始める。
「………………」
そんな行軍の最中、一人ルルは物思いに耽る。
(なんか…………
ルルは、戦場の始まりからずっとそれを感じていた。
ベリルとは特製も装甲も違う。苦戦もした。
だが……どうしてもそんな感覚が纏わり付いて仕方がない。
(そもそも制空権を完璧に確保ってどういうこと?
ベリルを最初に海兵隊のみんなが倒したとしても……増援が少ない?なんで?)
軌道艦隊が主要な降下部隊を潰した……だけだと思いたいが、何か…………
(なんで……勝ったのにこんな嫌な感じするの……?)
ルルの心には、目の前に迫ってきた雷雲のようにモヤモヤした何かが溜まっていく。
***
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