SOL.7:で、どうしよう?

 ザァァァァァァァァァァ……!!


 大粒の雨が叩く海面に、ドウドウと波が渦巻く。

 自然の猛威には何者も勝てない。

 マーク・ワトニーがやってきたら、人は安全な場所へ逃げなければいけない。




 ……タタタン…………タタタン……!!

 ボォン…………ボォン…………!!




 そんな嵐の吹き荒れる中でも、戦場はあった。


 燃え盛るSSDF宇宙駆逐艦、折れて沈む宇宙巡洋艦の横、


 シュバルツの群れに囲まれた、四機のBバスターBボーン達が、奮闘を続けていた。



『怯むなぁーッ!!!

 宇宙艦艇特殊部隊SPACE SEALsに恐怖という文字は無ぁーいッ!!!』


『その通り!!恐怖なんざない!!

 無いのはデカいガンだけさ!!』


 その機体は、二つのブレードアンテナのあるツインアイ頭部や背中のブースターのせいでスノウウィングのように見えて、その胴体はレッドローズなどの陸戦機の意匠だった。


 海兵隊・宇宙艦艇特殊部隊向け、『揚陸支援用』汎用


 名をヒポポタマス。


 気の抜けた名前に見えて、水陸両用の恐ろしい怪物であるカバの名前を持つBBだ。


『ガンはないが…………刀ならばここにある!!』


 一機のが、巨大な日本刀そのままの武器を取り出す。


 AHI 軽量超硬度実体近接武装、


 その名も『機人太刀・零式サムライソードゼロ』。






『チィィィィィイェエストォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!』





 肩に垂直に構え、全力の突撃と共に刃を振り下ろす。

 刀の切れ味もさることながら、垂直に入れた刃で見事にあの硬いベリルが一刀両断される。


『ヒュー!!サムライガール、流石だぜ!!』


『何度も言わせるなベック!!

 侍、とは即ち階級であり、おいそれと名乗るものではない!!


 あえて名乗るならば、私は……!』


 再び現れたベリルへ、蹴りを入れて離れ再びあの構えを取る。


武士もののふだぁ──────ッ!!!』


 ザン、と2体目を両断し、残心のよう油断なく剣を構え直す。


『それに国籍も違うからな。口惜しい』


『細かいな。だがクールだ、俺も言ってみたいがな……』


『いいねベック。俺もサムライガールのような事を言いたい。

 だが、問題があるぜ……ほら、』


 三機のヒポポタマスの周りを囲むベリル。


 そして、何かが上空を旋回している。


『くっ……何故、こんながこんなに早く……!!』


 ドォン、と爆発する最後の駆逐艦。


 その炎すら、嵐は飲み込み、かき消していく。


          ***




 深度400、同海域を進むガラティーンは、メインエンジンを停止させ、バッテリーのみで動く静粛航行をしていた。


「また聞こえました。

 爆発音……すでに前に落とされた艦は、海底に着底しています……」


「どんなふうに戦えばそんなに早く着底するんだろう……?」


 ブリッジでソナー音を解析するのどかの言葉に、顎に手を当てて考える吹雪。


「どれにせよ、即座に静粛航行に移行した判断は正しかったと言わざるを得ないわ。

 ……くっ……艤装さえ完成していれば……!!」


 冷徹なようで、アリアは悔しそうにそう呟く。

 ブリッジの面々は、痛いほどそれがわかっていた。


「……使える武器は、VLSのミサイル、魚雷、CIWS用単子弾頭レールガンだけです」


「ありがとう、レーベ砲雷長。

 改めてこの艦の未完成さが再確認できるわ……豆鉄砲と打ち上げ花火しかないだなんて……!!」


「あー、いや打ち上げ花火じゃあ無いんですよねー」


 と、突然ブリッジへやってきたブリジットが、1Gのせいで疲れた顔のままそう言い放つ。


「ちょっと、部外者は立ち入り禁止よ!!」


「AHIと共同でこのおフネを作ったのは我が社ですし、武装も我が社の担当。

 どこが部外者?」


「あのね、」


「いや、たしかにその通りです。さすがは社長」


 と、アリアを制し吹雪はそう言葉を投げかける。


「で、打ち上げ花火じゃあ無いとは?」


 問いかけた吹雪に、ふふふ、とドヤ顔を見せるブリジット。


「我が社は、何処よりも早くシースルーウェポンを解析し、実際に作ったこの世で最もインテリジェンスな会社ですよ??


 すでに、新兵器だけではなく、既存の兵器でも使えるよう応用もしています。


 そう、ミサイルもシースルーウェポン化してあります」


 ほぉ、と感心する面々に、ブリジットはこう続ける。


「まぁ、多少お高いとはいえ、遠距離兵器最強の威力を持つのがミサイルの強みです。

 まぁ普通のシースルーウェポンと違い、弾速の遅さや防御方法が容易い面もありますが?

 戦えますよ、この艦は」


「いい知らせね。けど、この艦を潜水艦運用させるにも限度があるわ。

 戦艦だもの」


「そうですが……でもこれで戦いようがある程度確保できますね」


 ふむ、と、立体映像の海図を開き、吹雪は考える。


「……ん?ここは……」


 ふと、海の底の旧クリュセ平原に存在する地形を見ていると……


「ソナー感!!近づく物体あり!!」


 と、言葉と共にブリッジの中に立体映像としてソナーの情報が浮かぶ。


「爆雷?」


「いえ……垂直に落ちて……ギリギリでこちら側に方向転換を……アスロック?いえ、音が全く違います……」


「敵か!?味方か!?どちらかはっきりしなさい!!」


 ヘッドフォンのソナーが捉えた音を、注意して聞くのどか。

 マーシアが、魚雷発射管の注水ボタンに指をかけた瞬間、


「まってこの音……バスターボーンです!!

 海兵隊仕様のヒポポタマス!!」


「生き残りだ!!

 艦底のゲートを開けて!!」


 と、すぐさま吹雪が指示を出し、ガラティーン艦底に備わる水中へのゲートを開く。


          ***


 格納庫脇、BBパイロット出動待機部屋


「『全開マギアバーストって必殺技が出たから、もうテッピンに余裕で勝てるわよね!」


「次の話が楽しみだね〜」


「おい、オタクな子猫ちゃん!結構面白かったなあれ!」


「……ひぃー……ひぃーふぅー……!!

 そ……そう……??」


 何故か3人に『円加 槇利は魔法少女である』を見せた張本人のリディアは、過呼吸で汗だくで目をそらしていた。


「────あー、遅れて申し訳ないー!

 って、リディア中尉どうしたのでござるー??」


 と、やってきてみればこんな状態なので適当に近くにいた萌愛とシャルロッテに尋ねる凪。


「萌愛わかんなーい♪」


「シャルロッテもわかんなーい♪」


「「えっおー♪キャッキャッキャッキャッ♪」」


「いやあなた方まで一体何があったレベルで邪気が消失しているとぉ!?」


 邪気がない、と言うべき顔で、まるで子供向け番組ずっと見ていてその世界の住人になったかのような状態に恐れおののく。


「みんな!!生き残りのBBが来るって!」


 と、格納庫から出てきたルルが言い、ハッと正気に戻った皆がぞろぞろと向かう。





 グィィィィィン……!!


 船底のゲートからクレーンで引き上げられたヒポポタマス。

 海水が滴る最中に、胸部みぞおち辺りのコックピットハッチが開く。


 海兵隊仕様、あるいはSPACE SEALs仕様の即座に戦闘可能な宇宙服の機能が強いパイロットスーツ姿の人間が軽やかに降り立ち、10mの高さを5点着地で降り、何事もなかったかのように立つ。


 おぉ、と驚く皆の前で、その人物はヘルメットを脱ぐ。


 さらりと後ろに流れる束ねられた金色の髪。

 意志の強そうな碧眼の彼女は、ビシリと短く敬礼をする。


SPACEスペース SEALsシールズ第4BB護衛分隊、ジャネット・チャーチル中尉だ。乗船許可に感謝する」


 若い女性の口から出たその所属の名乗りに、周りはどよめき立つ。


「シールズってマジかよ……!!精鋭中の精鋭じゃねーか……!」


「シールズ……って何でしたっけ、少尉?」


「志津ちゃん、確か海兵隊の……」





「今の言葉はそこの新兵か!?」




 と、かなりの距離からその言葉を聞きつけ、彼女が歩いて近づいてくる。


「「は、はい!!失礼しました!?」」


「休め新兵。よく言われることだ」


 ビシリ、と敬礼していた二人を前に、ジャネット・チャーチル中尉はこう続ける。


「だが説明はしよう。


 海兵隊とは、主に揚陸に携わる水上艦勤務の陸戦軍であり、旧軍の言い方で言えば陸海空軍のどれとも独立している。


 最も過酷で、最も苛烈な敵前の強襲上陸という任務に従事する、言わば最もタフな人間たちの集まりだ。




 対して我々SPACE SEALsは、旧世紀の米軍NAVY SEALsを母体に英国陸軍の老舗特殊部隊SAS、ロシア特殊部隊スペツナズ、日本の陸自の特戦群などを参考にして作られた、SSDF艦隊に属する水兵の特殊部隊。


 名前の通り、宇宙SPACESEaAirLandsの4つの環境で戦えるように過酷な訓練を鋼の精神力と肉体で受けた、最強の戦闘マシーン集団、生身のバスターボーンの集団だ。


 故に、」



 と、背後の乗ってきたBBを見るジャネットに合わせたのか、足などに張り付いていた同じパイロットスーツの面々が、艦に上がってくる。


「たとえ艦艇が3隻沈む地獄のような戦場であろうと、我々シールズは死なない」


 びしり、と並び立った7人ほどの屈強なSPACE SEALs達が、一糸乱れぬ敬礼を見せる。


 これほどまでに『精鋭』という言葉の似合う姿の者達はいないだろう。


「……流石だ……皆はるばる戦場を駆け抜けここへ乗艦し、感謝します」


 と、まだ圧巻されつつも、ルルは敬礼を返してそう言葉をかける。


「貴官は?」


「第502戦技教導隊隊長、穂乃村ルル大尉」


「穂乃村……!?あのレディーエース!?」


「そのあだ名、私には似合わないかな」


「いや、貴官には一度助けられたんだ。

 エウロパ奪還作戦フェーズ4、降下艇を助けてくれただろう?」


 あ……と思い当たる節を思い出し、ルルは目を見開く。


「あの時のあなたは、敵機5を瞬く間に落とした。

 間違いなく撃墜嬢王レディーエースというべき活躍だったよ」


「……恐縮です」


「……そして、なぜです?

 大尉、あなた方の部隊にはBBがあるはずだ。

 何故出撃しなかったのですか?」


 それは、と言いかけて、ぐいっと前に出てくる一人、


「あー、それはちょいと諜報部こちらがわの都合でございましてー」


「大神特務中尉……」


「特務!?!


 お前、諜報部かッ!!」


 バキッ!


 その頬に叩き込まれる拳に、大きく回るよう吹き飛ぶ凪。


 あ、と言いかけたルルを手で制し、痛てぇ、と頬を抑えてもう一度ジャネットへ向き直る凪。


「気はすみましたか?まぁ、予想してましたし、このぐらいやられる事はやった」


「貴様ァ!!何人死んだと思っている!?!」


「こっちも、SSDF内の裏切り者探しに担ぎ出された挙句にこんな殴られる役までやらされてんですよ!!


 文句は聞きますが、同じ内容はどうかどこかの売国奴にも言ってもらいたい!」


 と、あまりの内容に、初めて聞いたルルも含め全員が驚きの顔を見せる。


「内部の……裏切り者……!?」


「大尉もおかしいと思いませんでござるかー?

 大尉の卒業式の日、BBの一斉オーバーホールの日に襲撃に会ったり、今艤装の完成していないガラティーンを、嵐のタイミングで襲ったりと。

 信じたくは無いですがね、上の方に裏切り者がいるらしいというのが我々諜報部の睨みですしおすし」


「おい、待て。

 艤装が完成していない?


 この艦は、既に完成している上に一個BB中隊が搬入されているはずでは!?」


 と、その言葉にワーオ、と思わず言ってしまう凪。


「ウチの上層部のやり口じゃ無い……途中で情報が改ざんされてるとは……黒かぁ……そっかぁ……はぁ」


「あの、チャーチル中尉?

 この艦に乗ってるのは、実働テスト中の新型のBBBが、予備含めて15機で……稼働しているのは、今は9機だけなの……」


「な……!?!」


「どうりであっさりやられるわけか。

 この事も見越したかぁ……」


 と、突然グゥゥンという音が響き始め、次にこう艦内放送がなる。




『全員傾注!!見つかった!!

 これより、『プランD』を発動する!!!』




「……いわゆるピンチじゃねーですか……」


 はぁ、とため息をつきながら、とぼとぼ歩く凪に合わせて、周りが慌ただしくなっていく。


「待ってくれ、大尉!!

 彼女らは君の部下か?なぜ作業用のボーンの方へ行く?」


「あー……信じられないかもしれないけど、あれ新型。

 見た目より強いよ?見た目が変わるけど……」


「こちらも色々あって混乱気味だ。

 最後に一つ聞くが、プランDとはなんだ?

 我々に何か出来るこちはあるか?」


 と、言われて、ルルは彼女とSPACE SEALs達を見る。


「ある。プランDの時に必要だから、あっちの水兵達と私に協力して」


「わかった。私はBBで出れば?」


「うん。プランBが終わり次第、プランDで私達と一緒にあることをしてもらう」


「分かった……プランBってなんだ?」


 ニコ、と笑ってジャネットへこうルルは答える。










「ん?ないよそんなもの。


 これから我が艦の艦長が考えるって」






          ***

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